複雑・ファジー小説
- Re: 黒き聖者と白き覇者 −参照200突破感謝ですっ!− ( No.29 )
- 日時: 2012/01/27 15:27
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)
第一章【黒と銀と夢と赤と青】
第一話
「ねぇ」
「なに?」
「僕と君、どっちが強いのかなぁ」
「私と君だったら、私じゃないかなぁ」
「そっか」
「うん」
緑に囲まれた大きな庭園で、耳の尖った小さな子供が話していた。
一人は透き通ったキレイなクリーム色の髪を持つ子。もう一人は艶やかな黒色の髪をした子だった。彼らの目の前には、様々な色の薔薇が咲き乱れていた。青や紫、黄色に白……。その周りにも沢山の百合や薔薇、庭園には似合わない淡い桃色をした桜までも咲いていた。
彼らは、生垣の奥で元気に遊んでいる同属の子達とは一緒に遊ばずに二人だけで花弁を集めていた。言葉を交わして直ぐに沈黙が生まれても二人とも気にならない様子で静かに、まるで他の子達に見つかりたくないという風に隠れながら花弁を集めていた。
本日、4月38日(日にちは1日から40日。または42日まで存在する)。彼らの育て親の誕生日だった。
「これくらいあれば、足りるよねシルア?」
「きっと足りると思うよ、シルク」
小さな手のひらいっぱいに集めた薔薇の花弁を見ながら、彼らは話す。彼らの額には、それぞれ違う宝石が埋め込まれ顔を覗かせていた。シルクには、正当なエルフ族である証の赤く小さな宝石。シルアには、蒼い小さな宝石が顔を覗かせていた。
エルフ族は、基本的に1パターンしか存在していなかった。肌の色は白く、髪は長いクリーム色。これが主流であった。それが最近、魔術が著しく発展し種類や、技能が高等していくのに比例して禁忌を犯すものが増えてきた。理由は大きく分けて3つ。1つは母体、または父親の身体に何らかの病気などがあり子供を作るのが不可能な場合。もう1つはエルフ族の者と一般の者が恋に堕ちてしまった場合。最後に——己の技量を試してみたいという、魔術師特有の感情が表に出た場合の3パターンだ。その中のどれかのパターンによって生まれた子供には、蒼く輝く宝石が体内で作られ顔を出す。肌の色も小麦色へと変わり、髪も短い黒髪へと変わるのだ。少女、シルクもその禁忌から生まれた異端の子だった。それでもエルフ族の、シルアという少年と仲がいいのは二人とも虐めを受けている、という共通点があるからだった。そのため二人は一緒に行動し、一緒に暮らしている。
「それじゃ、早く行かなくちゃね」
「おかーさんが、待ってるもんね」
二人は、手のひらいっぱいの花弁を落とさないように、奥で遊んでる子供達に見つからないよう静かに音を立てないように気をつけながら、村外れの修道院を目指して走った。
道中、シルクは大人のエルフ達から向けられる軽蔑を意味する視線を痛いほど感じた。まだ幼い少女からしてみれば、それは酷ですごく苦しいものであった。それでもシルクが泣かないのは、今よりも小さかったとき出会った女性と約束をしたからだった。
『貴女が大きくなってからは、辛い事や苦しい事、悲しい事がもっともっと増えてくるかもしれない。でも、そんな事で泣いてちゃダメ。貴女は、きっと、もっとすごい子になれるんだから。だから、本当に嬉しい事があったときに辛い時や悲しい時の涙を流すの。……できる?』
ぎゅっと唇を噛み締めてシルクは修道院を目指す。俯くシルクの横を必死についていくシルアは、シルクの気持ちが何と無くだが分かっていた。テレパシーというには出来すぎていたが、シルアには表現しようとしてもそれは無理で、頭がもやもやしながらも修道院を目指した。
「シルア、もっともっと頑張ろうね」
たくさんの涙で目を潤ませながら、シルアに向かって笑みを浮かべる。その笑みが、きっと辛さを表に出さないように作った笑みだとしてもシルアには分からなかった。