複雑・ファジー小説

Re: 黒き聖者と白き覇者 −参照200突破感謝ですっ!− ( No.32 )
日時: 2012/01/22 20:47
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: kx1LgPV4)

 二人が目指した修道院は、庭園と同じように緑に囲まれていた。修道院の前の道も、修道院の庭も色とりどりの花が咲き乱れていたのだ。遠くから見ても分かるほど鮮やかな花の色は、何処となく近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

「お母さん!」
「ただいまっ!」

 大きな正門が、正面にあった。それは“あった”だけで“入った”などと表現される事はなかった。二人が入ったところは、背面に設けられた小さな扉。小さな子供一人がやっと通れるほどの高さと、幅しかない小さな小さな扉だった。
 使う人がこの二人しかいなければ、この扉を知っているのもこの二人くらいしかいなかった。
 二人がこの扉を使うようになったのは、ドリーム・ウォーカーという職業の人に出会ってからだった。ドリーム・ウォーカーという職業は大きく二つできることがある。一つは、相手の夢を覗く事。もう一つが未来の出来事を知る事が出来るということだった。シルクとシルアの二人は今よりも小さい頃にこの『夢歩き』という職業に就く人と出会い、未来の事を見てもらっていた。彼等が見てもらって未来は、彼等がもう少し大きくなってからの未来で、今現在のことだった。シルクもシルアもショックで、涙を流していた。
 夢歩きは、その涙に共感しともに涙を流していた。
 きっと、大人ならば未来を予想し本当の未来を見るように、勧めないだろう。それが、育ての母親でなく本来の母親ならば、の話しだが……。

「あぁ、シルアにシルク。またそこから入ってきたの?」
「正門からは、入れないもん……」
「夢歩きの人が作ってくれた扉だし……。それに、他の大人たちははいれないから」

 後ろに見える小さな扉を、チラチラ見ながら二人は話す。その様子を見て母は小さく溜息を吐きながら微笑をうかべる。この子達に自分たちの境遇を理解して、考えて行動しているのね、と内心では二人に少し感動をしていた。
 それにしても、と母は最近疑問を感じていた。
 禁忌の子と、虐めに受けるべきなのはシルクだけなのに、なぜシルアまでも虐められなければいけないのだろう、と。答えは、彼女の中でもう生まれていた。それでも信じたくないと感じたのだろう。

「お母さん、今日誕生日って言ってた……よね?」

 両手を後ろに隠しながら、おずおず話しかけるシルクに先程よりも優しさを表にした、慈愛に満ちた顔を彼女は向ける。その表情が肯定を意味するものだと、シルクもシルアも感じ取った。

「「誕生日、おめでとうっ!」」

 小さな石造りの部屋全体に響くように、二人は声を張り上げる。他の人からしてみれば煩いと怪訝に思うその声も、彼女にとっては嬉しいと感じる材料以外のなにものにも変わる事はなかった。
 二人なりのサプライズプレゼントの色とりどりの花弁に、彼女は目尻に涙を溜めながら「ありがとう」と呟き、涙した。