複雑・ファジー小説

Re: 黒き聖者と白き覇者 −参照300突破本当に感謝ですっ!− ( No.44 )
日時: 2012/02/03 12:35
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)
参照: インフルA型なう。ふっへへ\(^p^)/オワタww

 男の体から離れた右腕は、微かにピクリピクリと動いていた。
 
 周りに集まっていたギャラリー達は、その光景を見て楽しそうな表情を一瞬にして青白く変えた。きっとそれは、彼らが今まで生きてきた平和な世界の中では見ることもしなかった光景なのだろう。家畜を食べるために四肢をもぎ、皮を剥いで、肉を削ぎ落としても感じることがなかった、嫌悪感や気持ち悪さ。そこからくる吐気や精神的障害……。それを全て、今この瞬間に町に済むほぼ全員のエルフ達が目の当たりにしたのだ。悲鳴をあげながらのた打ち回る男も、それを見るギャラリーも、ガタガタと震えるシルクも、今だけは同じ気持ちだったに違いないだろう。シルアだけは違うとしても——

「ねぇ、小父さん」

 聞きやすい、綺麗なアルトがあたりに静かに広がった。『小父さん』と言われたシルクを殴り続けていた男は痛みと恐怖に顔を歪ませながらシルアに視線を合わせる。シルアは満面の笑みを顔に浮かべていた。唯一人、この血塗れの空間で、見ていたものたちまでもが恐怖に気圧されたこの空間で、にこやかな笑みを浮かべていたのだ。

「僕ね、シルアって言うんだ。シルア=ルーク。変わった名前でしょ?」

 少し照れ笑いを浮べながらシルアは言う。そのシルアの笑顔を見て男もガチガチに固まった笑みを浮べる。シルアの潤っている笑いと、男の乾いた笑いが静まり返っている周囲に良く通った。その異様な光景にギャラリーたちも不思議そうに目を向ける。彼等に見えたのは、Tシャツ短パンの小さな少年が、腕の取れている大きな男と一緒に笑い合っている図だった。

「あ——」

 ふと、何かを思い出したかのようにシルアが口を開く。男は何事か、と思ったが身体が言うことを利かずに乾いた笑いを続けていた。

「小父さん。……誰の許可得て笑ってんのか、僕に教えてくれない?」

 そう言うが早いがゴスッと大きく鈍い音が鳴り響く。その音が男から発せられたものだと周りは直ぐに気付いた。そして……シルアの後ろに現れた大きな白銀の鎧を纏った大きな『何か』が男の頭に巨大な、鎧と同じ白銀のハンマーのようなものをぶつけているのを、見ていた。
 瞬間、男のこめかみから上が何処かに吹き飛んでいった。それは男の身体から脳が喪失した事を意味し同時にただ一人の小さな少年に存在をも否定されていることを意味していた。男の大きな肉片は、指令を出す脳が喪失してもなお、ドクンドクンと心臓を動かし続けていた。シルアも「やっぱり一発じゃむりかぁ……」と少し悩ましげな表情を浮べていた。そのシルアに驚いていたのはギャラリーや、シルア自身ではなく、肉片と化してしまった男でもなく、少年と血の繋がらない肉親同士であったシルクだった。