複雑・ファジー小説

Re: 黒き聖者と白き覇者 −更新再開っ。− ( No.46 )
日時: 2012/02/05 17:25
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)
参照: よしっ。頑張ろう。

「シル……ア……?」
「あ、シルクっ! もう大丈夫だよ、僕がこの町の人たち全員倒してあげるから。そうしたら僕達を傷つける人なんかいなくなるんだよ!」

 ——だから、待っててね? 
 震えるシルクの両肩に手を置いて安心させるように何時もの笑顔を見せる。ただそれだけなら、シルクも安心する事が出来たのだろう。何時もと変わらない日常であれば、シルクも笑顔で返す事が出来たのだろう。シルクの震えは、悪化していた。

「ねーね、クリスクロスだっけ……? 僕とシルク以外のエルフをさ、殺して欲しいんだ。どんな方法でもいいんだ。お願いしても、いい?」
『……そう貴殿が望むのならば。従おう』

 クリスクロスと呼ばれた白銀の騎士は辺りに高周波を響かせる。超音波としてしか聞き取られない音を、シルアは『声』として聞き笑顔で頷いた。そしてその頷きがスタートの合図だと感じたクリスクロスは、大きなハンマーを持ち街中に消えていった。

 

 ——四番街。
 大きな商店が立ち並ぶエルフが住む街の中で一番栄えている場所。新鮮な魚介から野菜、果実まで多くのものを取り扱っている。朝は登校中の子供達で、昼は婦人達、夜は仕事帰りの大黒柱達で大変賑わうほどだった。元気のいい店主たちの声がこだまし、この四番街がその声に応えているようだった。
 それが今では、どの道にも赤い汚れがびっしりと付いていた。赤い血の量に比例して白い肉片も転がっていた。中にはまだビクンビクンと痙攣を繰り返す死体もある。その真ん中にクリスクロスは立っていた。否、浮かんでいた。何度も周囲を見渡す様はどこか猟犬を思わせる。猟犬の牙ともいえるクリスクロスの白銀のハンマーは、既に元の色が分からなくなっていた。綺麗な白銀は、汚い赤に色を変えていたのだ。

『学び舎……』

 クリスクロスは、ハンマーについていた神聖なエルフの血を一振りで地面や壁にうつし付けエルフ族の子供たち全員が通っている学び舎へと飛んでいった。
 学び舎は大きな石を使い作られている。その学び舎には延べ75人の教職員と生徒たちが避難し、隠れている。外での叫び声を聞いていた校長が一度町を見に行っていき、クリスクロスのことを校内にいる人全員にそのことを伝えていたのだ。ただ、もって聞かせた情報はそれだけで今現在クリスクロスがこの学び舎に接近している事は誰も知っていなかった。

『見えたっ……』

 宙を飛んでいたクリスクロスの目に大きな石造りの学び舎が入った。学び舎の周りを見てみると学び舎へ逃げ込むエルフたちが見えた。逃げ込んでいるエルフ達が、シルクとシルアを捕らえていた大人たちだとクリスクロスは気付いた。それでもまだ殺しにいこうとはせず、学び舎の一歩手前の空中でその大人たちの逃げ込む様を逐一見ていった。
 クリスクロスが止まってから数分間、大人たちは気付きもせずに学び舎へ入っていった。人がもうやってこないのを見て一気に学び舎へ近付く。クリスクロスは学び舎を見つめ『一振りで壊せるもの』と判断し、大きく白銀のハンマーを振る。地面との接着面ギリギリをハンマーで振り抜いたため、振りぬき終わったハンマーには沢山の血と、草や石の欠片などがこびり付いていた。

『脆い……』

 詰らなさそうに高周波を響かせると、クリスクロスはまた新しい獲物を探し四番街の方へ戻っていった。