複雑・ファジー小説
- Re: 黒き聖者と白き覇者 −オリジナルキャラクタ募集− ( No.37 )
- 日時: 2012/01/29 12:39
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)
第三話
「……い」
「あ?」
シルクは表情を見せぬよう俯きながら呟く。正確には聞き取れなかったものの男の耳にはシルクの声が聞こえていた。シルクを破壊締めにしているエルフ族の者すら聞き取ることができないほどそれは小さな声だった。シルクは頭に血が上りすぎて自分が何を考えているのかも分からないほどだった。
「うるさい、うるさい、うるさい!」
キッと、男を睨みつける。目には大粒の涙を溜めながら男を睨む。シルクにとっては精一杯、自分の内にある憤怒を表に出している積りでも男たちにとっては何の脅威にもならなかった。
「お嬢ちゃん……。大層な口きくと痛い目見るんだぞ? まぁだ、あっちの坊主もお嬢ちゃんも死にたくはねぇだろう?」
はぁ、と溜息をつきながら腰を曲げ目線を合わせてくる男にシルクは先ほど止めていた怒りをぶつける為に口を大きく開き、目をぎゅっと瞑った。
「黙ってよ! 私たちのお母さんも、お母さんの家も、私たちの家も壊したくせに偉そうな口をきかないでよ!
町から出て行って欲しいなら、そう口で言えばいいじゃない! 皆にも立派な口はついてるでしょ? それなのに、どうしてこんな事するのよ! 気高いエルフ族の一員とは思えない……アンタたちは、ただの下種よ! 禁忌といわれてる私よりも、もっともっと最低な下衆よ!」
涙を流しながら言葉を紡いでいたシルクに驚いたのは、誰よりもシルクの傍に居続けたシルアだった。何時もは何を言われても『大丈夫』とか『また明日頑張ろうよ』と優しく言ってくれていたシルクの心の内を始めて聞いた喜びと、辛く苦しい思いを隠し続けていた強い心に人知れず涙をこぼし始めた。そのとき、シルアの心には年下である自分が年上であるシルクを守る権利と守る義務があることを認識した。
男の怒りは、いつの間にか頂点に達していた。今の今まで『禁忌』と軽蔑していた少女に『下衆』といわれたのだ。気高さに比例して大きくなる自尊心を傷つけられたとなるとそれは制御の利かなくなった大きな力を感情のままに使用することになる。
それは、とても危険なことだった。おもむろに、シルクと視線を合わせていたエルフが立ち上がった。シルクはそれにあわせて視線を動かす。男の目には輝きが一つもない、死んだ魚のような目だった。ヤバイとシルクが察知した瞬間、硬く握られていた拳が力任せにシルクの目元に振り下ろされた。
とっさに顔を横に逸らしたため顔に傷は付かなかったものの、左耳が頭から離れたのをシルクは感じた。左耳があった部分からはズキンズキンと痛みが響き、赤くドロリとした液体が止め処なく溢れ続ける。正気を取り戻してたシルクは怒りから恐怖へと感情が塗り替えられた。シルクとは対照的に腸が煮えくり返っているであろう男は、何度も拳を上に上げては振り下ろす作業を淡々と続けていた。その被害はシルクだけではなく、シルクを破壊締めにしている男にまでわたった。他のエルフ族たちも男の行為を止めようとするものの余りに強力な力の前には、成す術もなくただただ見守っているだけだった。
「お嬢ちゃん。俺言ったよなぁ……。痛い目見せるぞってよお」
「っるっさい! 黒魔術のSランク硬化魔法を使ってるくせにっ」
「うるせぇ……」
一気に周りがざわつく。
『黒魔術』『Sランク』『硬化魔法』に驚いたわけではなく、振り上げていた男の拳がシルクの顔面に当たったからだった。
