複雑・ファジー小説

【厨二的擬人化】聖剣少女【コメントを下さい】〜第十二節〜 ( No.34 )
日時: 2012/01/20 23:03
名前: 白波 ◆cOg4HY4At. (ID: ZUkStBmr)

零章〜剣は持ち主を選ぶ〜  第十二節

 ロイズ・ランシアは自分が一本をとられたということに驚きを隠せず、逆胴打ちによる一撃が当たった左の脇腹をさすりながら呆然としている。
「ウチが一本とられた? 早槍京子……まさかこんなにも強いなんて驚きだよ」
「いえ、私もあなたがここまで強くて驚いてます」
 早槍京子はそんなことをを言うが、ロイズ・ランシアにはランスロットが使っていた剣として、自身の技術にも自信があった。事前に立ち寄った世界一位の人間とも同じように剣道で試合をしたのだが、一本をとられそうにはなっても、実際に一本をとられる、危機に瀕することはなかった。
 しかし、ロイズ・ランシアに『世界一位に完勝した。だから、世界二位の早槍京子に自分が負けるはずがない』などといった慢心は全く無い。誰にだって相性やコンディション。さらには成長といったものもあるため、どんな評判の相手でもロイズ・ランシアは必ず全力で取り掛かると決めているからだ。
 しかし、実際に全力を出した彼女は一本を取られた。特に相性の悪い相手でもない。彼女の堅実に確実な一撃を与える手は、野蛮な手を使う相手や、反則ギリギリの行為を平気でする相手よりもよっぽど良いだろう。
 コンディションも悪かったとは思えない。
 ならば、早槍京子は現在もの凄い進化を遂げているのだろう。それに気付いたロイズ・ランシアは武者震いし、その後のことは関係なく今の試合への、早槍京子と試合を出来ることへの悦びを感じた。

「……じゃあ、そろそろ二本目良いか?」
 父の剣砥がそう聞くと、二人同時と言って良いように小さく頷く。
「よし、では二本目——始め!」

 合図が入ってから最初に動くのは、またしてもロイズ・ランシア。だが、先程とは違い初っぱなからの一本は狙ってはいない。
 勝負に勝つための流派も何もない実戦に特化された剣術。中世の騎士の剣にふさわしい、円卓の騎士団最強と呼ばれたランスロットの剣にふさわしい、荒々しくも研鑽された強者の剣だった。
 しかし、努力によりついには世界一へと進化した剣士、早槍京子をしとめるには幾分強さが足りなかった。
 反撃はされないどころか、される気配すらない。押し返してくる気配も無い。防ぐのが精一杯な彼女なのだが、その胴着には一つの傷も付いていない。

 彼女のスタイルである堅実な剣道。その強みは防御の高さにある。
 攻撃を防げるように無茶な攻撃はしない、攻めるときも相手の隙を作らないままに勝負の一手へとは転じず、相手に出来る一瞬の隙を作る。
 このスタイルを貫く彼女は、相手に簡単に一本を許すことはないものの、自身も簡単に一本をとることはあまり無い。当然、実力が割と拮抗している場合にという前提はあるのだが。
 そして、堅実過ぎる彼女の剣には反則負け、とりわけ場外負けの場合が多い。
 踏み込まない剣ということは、相手に押されることも多い剣なのだ。

 これから言いたいことは、現在はまさにその状況に陥っているということだ。
 ロイズ・ランシアから無数に放たれる鋭い攻撃によって、早槍京子はどんどん場外へと向かっていく。
 流石に焦りを感じた彼女が一歩踏み込み“押し返すための”一撃を放つ。
 多少はそれで場外との距離を離せるのだが、刹那、再びロイズ・ランシアの激しい連撃が始まり、ひとまず一本を取られないようにする守りのスタイルである彼女は、再び場外へと追いやられていく。
 どうせ次反則をしたらロイズさんに一本が入る。そう思った彼女は、再び弾いてからの突きを放った。

 間合いの問題で言えば面、胴、小手の三種よりも突きは突出した間合いを誇る。だからこそ彼女は突きという選択肢を、ほとんど迷うことなくロイズ・ランシアに向けて条件反射的に放ったのだ。
……しかし、堅実な剣。これを見抜いたロイズ・ランシアには、早槍京子が強い打撃で一瞬にも満たない隙を作った後、突き自分に放ってくることなど容易に読めた。

 だからこそ、防御を捨てた渾身の小手である。
 これならば、早槍京子の突きが自分に届くよりも早く、自分の剣は彼女の手を打ち払い勝つことが出来る。
 思った通りに自分の竹刀を小手によって崩された早槍京子は突きの焦点をずらし、首に届くはずだった彼女の突きは虚空を切り裂き、場内には一瞬だけ背を向けあった二人と、乾いた竹刀の音だけが響き渡り、ロイズ・ランシアが再び構えなおした瞬間に残心有りの評価を得て「一本! ロイズ・ランシア!」父の一言によりロイズ・ランシアの勝利が決定し、一勝一敗のイーブンへと持ち込んだ。

 結果的には勝利するための剣を捨てることの無かったロイズ・ランシアが小手での一本を決め、共に一本づつだが、早槍京子側に反則一の少しロイズ・ランシアに有利な状況が作られ、最終の三本目に入ることになる。