複雑・ファジー小説
- Re: 【厨二的擬人化】聖剣少女【コメントを下さい】〜第十二節〜 ( No.37 )
- 日時: 2012/02/02 23:25
- 名前: 白波 ◆cOg4HY4At. (ID: lD2cco6.)
第零章〜剣は持ち主を選ぶ〜 第十三節
次が確実に最後の勝負となる。
二本が終わり、一対一。二本先取となる剣道で次は三本目で、確実に勝敗が決まる。
そのため、騎士と剣士は先の二本よりも入念に準備を行っていた。
剣士は呼吸を整えたり、軽く跳ねたりし、騎士は鎧甲を馴染ませるように軽く手足を動かしたりしている。やはり、自分に合っていない戦支度では多少なれども違いは生じるのだろう。
しかし、あれで完全ではないというのだから、彼女が自分に合った鎧を着けた時の実力は桁違いだろう。円卓の騎士団最強の騎士が使う剣は、剣までその技術が反映されるらしい。
可能性としては彼女の能力に技術向上系統があるという場合もあるが。
そして、二人の動きが止まったのを見て「ロイズさん、京子、準備は?」と、剣砥が訊くと二人は剣砥の方向を見て、一度コクリと頷き、それから一連の動作を済ませてからは一切動かなくなった。
静寂が道場を包みこむが「三本目、始め!」この一言で途端に静寂が破れ、鎧を動かす音、摺り足で移動する二つの音が道場の一室を震わせた。
今回はどちらが攻めどちらが守るということはなく、どちらも相手へと躊躇なく飛び込む攻撃のぶつかり合いが始まる。
最初の一太刀が互いにぶつかり竹刀と竹刀がぶつかる音が響き渡る。
更にもう一太刀、もう一太刀と攻め休む気配もなく二人の竹刀はぶつかり合い、そのたびに一瞬のみ静寂があった道場に激しい音が響き渡る。
それは、攻めきれない剣士が、勝つための剣を覚え始めた瞬間だった。
両者は完全に拮抗している。ロイズ・ランシアが先程よりも勢いを落として早槍京子が十分対応出来る剣になっているということではなく、早槍京子自身のレベルがロイズ・ランシアの激流のような剣に対応出来るように進化しているのだ。
微妙に力の入れ方を変えて、受ける角度も変える。多少の変化だが、技術を主体とする彼女にとっては大きな変化となり、結果ロイズ・ランシアの剣に押し負けない剣へと変わっている。
勿論、多少の後退はなくならないが、押し出されるように見える危険な場面は無くなり、どちらが先に隙を見せるかの我慢比べのようになっていた。
だからこそ、両者は拮抗したまま状況が動かないのだが。
——一本を次の一撃で——殺る。
膠着した状況、軽度だが確実に溜まってきている疲労、一分を切った残り時間。
二人が最後の攻撃を決断したのはほとんど同じ——いや、完全に同じタイミングだっただろう。
早槍京子が選んだ攻撃方法は自分の体重、力を全てかけた、相手の鎧甲を二つに割るように放たれる乾坤一擲、小細工無しの今の自分に放つことの出来る最高の面打ち。
対するロイズ・ランシアは、相手の初手を何としてでも弾くか止め、そこからの更なる一撃が飛んでくる前にそこから放てる最善の手を使い早槍京子から一本を取る。
ロイズ・ランシアならともかく、早槍京子がこの一手を選ぶのは意外だっただろう。
限に自分でも『なんだか凜みたいな一手ね』そう思いながらあからさまに竹刀を振り上げてロイズ・ランシアに詰め寄っていた。
そして、射程圏に入ったその瞬間に力を溜めた全力の振り抜きを相手に向かい振り下ろす。
多分今までで最高の一振り。振り抜く時にそう体感出来る程の強さを持った彼女の一振りがロイズ・ランシアの鎧甲目掛けて流星の落下のように一目散に、物凄いスピードで空気を切り裂き襲っていく。
防御不可能といって差し支えない程の一振りが迷いなくロイズ・ランシアの鎧甲に炸裂した。
————と思っていたが、違った。
ロイズ・ランシアは本能的に振り抜きを防御しきれないもの察して、竹刀を弾くこと、竹刀の有効範囲から外れることを最優先に動いたことで、早槍京子がその鎧甲に振り下ろした竹刀を虚空に向けての一撃へと変えたのだ。
数瞬前、早槍京子の面打ちに対してロイズ・ランシアはとっさの反応を取った。
受け止めるのではなく、弾き落とすわけでもなく、頭上から鎧甲へのキレイな放物線を描きながら振り下ろされる竹刀をとにかく左へ。
渾身の力を込めて自らも反動で右へと動くような勢いで竹刀を右から左へ、振り抜きの壁をものともしないといった風に押し込むようになんとか避けた。
しかし、避けることは出来たものの、当初の予定だったそこからの間髪入れずに放つ一本を取るための一撃を放つことはかなわず、今の状況から一番放ちやすそうな逆胴打ちを使うために距離を半歩程詰め寄る。
そして、がら空きの左腹に早槍京子の目の前を斜めに横切りながら逆胴打ちを放った。
ロイズ・ランシアが半歩を踏み込んでくる瞬間に、早槍京子は相手が胴。逆胴打ちを放ってくると分かると同時に、夕食の時のとある言葉が頭に浮かんできた。
『ウチなら相手の剣を叩きつけて、胴の範囲から外しながら小手だな』
残り時間は最早十秒と無い。
ここで自分の持論では無く、彼女の持論が頭に浮かんだことは運が良かったと言えよう。いや、これも彼女の才能故かもしれないが。
後は、ほとんど反射のように自分の身体が動く。
床へと付きかかっていた竹刀は急に方向を切り返し、胴へと当たりかかっていたロイズ・ランシアの竹刀を少しだけ押し戻しながら上へと軌道を逸らし、胴から外れるようにする。
この時に実際は胴に当たったのかもしれないがそれでもそこで止まるような早槍京子ではなく、終了のかけ声が響いていない以上は止まる必要も無い。
軌道を逸らした竹刀をもう一度切り返し、ロイズ・ランシアの小手を打ち、そのまま残心の構えを取った。
ロイズ・ランシアも一撃を喰らわしたように見えるため、実際に彼女の竹刀が左腹へと届いていれば彼女の勝ちとなり、当たっていなければ早槍京子の勝ちとなる。
それから、勝負が決まる前の緊張感に辺りが二、三秒包まれる。
「————勝者————早槍京子」
父の剣砥は悩んだ結果、勝者を娘にした。
しかし、そこに自分の娘を勝たせてやりたいなどという欲は一切無く、あくまでも剣士と騎士との決着を見る者として公平なジャッジを下している。
それは、ロイズ・ランシアから見てもなんとなくだが分かったらしく「負けたよ。ウチの負けだ」そう言って潔く負けを認めた。
その時のロイズ・ランシアの顔は、本来の目的も何も忘れ、純粋に試合を楽しんだ時の満面の笑みだった。