複雑・ファジー小説
- Re: 【グロ注意!】聖剣少女【アンケとコメを】第十五節更新 ( No.47 )
- 日時: 2012/02/24 21:12
- 名前: 白波 ◆cOg4HY4At. (ID: GyOijjIz)
零章〜剣は持ち主を選ぶ〜 第十六節
相席した女性の突然の発言があり、芽上凛はバスが停車するまでの数秒間固まっていたが、なんとか我を取り戻して定期券を使ってバスから降車して、先程の発言について問い質すことにした。
「あのー……初対面の私の家に泊まりたいって、なに? 新手の告白? 冗談? ドッキリ?」
「それらのどれでもなく、本気である場合我はどうすればいい?」
そういう彼女の目と口調が本気だったために芽上凜はもはや多少の諦めから「笑えば良いと思うよ(私が)」そう言って苦笑いを浮かべた。
「ん? こうか?」
彼女は芽上凜が言葉の最後に心の中で『私が』付け足したことになど当然気付かず、芽上凜の言葉に反応してぎこちない作り笑いを顔に浮かべる。
「笑うなら笑うでもうちょっと自然に浮かべようよ……」
彼女のぎこちない作り笑いを見た芽上凜の顔からは、もはや苦笑いさえも消え、ただただ溜め息を吐くばかりだった。
「で、汝は我を泊めてくれるのか? くれないのか?」
「えーっとねー……」
次に出す言葉を考えているのか、多少の間を作り、いつもよりも低い彼女の中の出来る限り男っぽい声で「うち、今日さ、親居ないんだ」彼氏彼女でないにも関わらず、ある種の定番とも言える言葉を口にする。
要するに良いと言いたいのだが、このセリフを使う機会はあまりなく、今がチャンスと思ったので『親居ないんだ』を使ったらしい。
実際に親がいないのは本当だったりする。
「つまりそれは……この後我は、汝と一夜を明かすということか? それが汝の家に泊まる条件だというのなら…………仕方ない。受けようではないか」
途端に彼女は意味もなく、本当に意味もなく神妙な顔つきになり、芽上凛の言葉に応える。
正直な話し自分でも『なぜこんな顔をして相手の言葉に応えているのだろう』とか『この条件だったら野宿の方が良いのではないか?』といった考えが浮かんだが『そういえば我はこやつに剣として使ってもらうために来たのだった』という本来の目的を思い出したため、あるこれは意味結果オーライとも言える発言だった。
芽上凜からすればこれは完全にネタとしての発言だったために、再び一瞬固まったが、返しの言葉が思い付いたというように首を二回右人差し指で軽く叩き先程とは違い可愛らしい声でその言葉を口にする。
「今夜は寝かさないぞっ……じゃないし! ネタだよネタ! なんで初対面の私と君がいきなり百合展開なんだよー!」
ここまでが自分で考えていたノリツッコミなのだが、彼女はここで思わず口が滑ってしまう。
「どうせ百合百合するなら幼なじみの京子とが良いもん! …………あ」
完全に言い切ってしまってから初対面の人にした大胆カミングアウトに気づき今度は家に向かい歩くことすら停止してその場にへたり込むことすら出来ずに、電柱のように固まって立っていた。
その発言を冷やかすように「ほうほう、その京子とやらと汝はアツアツなのか」そう言いながらクツクツと笑う。
「いやいや、これは違うし! 例えばの話しで……って、私はなに言ってんだよー……」
自らの発言に顔を火が出るように真っ赤にして、明らかに動揺している。
その発言にさらに初対面の彼女はニヤニヤとしていたので「うー……もう行くよ! これ以上この話し続けるなら私の家連れてってあげないもん! そもそも君は名前ぐらい名乗るべきじゃないかな?」半分捨て台詞のような言葉を言って芽上凛はスタスタと歩き始め、少し行ってから先程の発言を思い出したのか再び顔を赤くして走って家へと向かっていった。
そして自宅へ。
芽上凛の自宅は塵一つ無いとまでは言えないが小綺麗にされており、オール電化のキッチンを完備した五LDKの一般的な家だった。
使われていない部屋まで充分に手が行き届いており、全ての部屋からその家特有の生活臭がする。
「で、結局君の名前は?」
私服に着替えた芽上凛は、エプロン姿で二人分の夕食を作りながらテレビを観ている彼女に尋ねる。
十人がいれば九人がドジッ娘と評される芽上凛なのでその動作に危なっかしいところこそあったが、ギリギリのところで決定的なミスをせずにここまで料理をしていた。
「我はラディア・カリバーンという。汝は?」
「私は芽上凛だよー。……おっと」
野菜炒めをフライパンの上でひっくり返そうとフライパンを回し、強すぎたために野菜が落ちそうになるがなんとかキャッチする。
それを見ていたラディア・カリバーンは見るに耐えなくなったのか「それを貸せ。我がやろう」そう言って立ち上がりキッチンへと入ってきてゴスロリの上からエプロンを着けた。
芽上凛の不器用さに溜め息を吐きつつフライパンを取った彼女だったが料理自体は物凄く上手く『良いお嫁さんになりそうだね』と芽上凛に称される技術を持っていた。
結局はラディア・カリバーンが七割近くの料理を一人で作り、先程の野菜炒めを始めとし、今が旬のマダイを一匹丸ごと塩焼きにしたもの、白味噌で作った豚汁、ほしのゆめを使った普通の白米と完全に和食を作り上げた。
元々芽上凛は、このメニューのみの予定だったが「デザートが無い」と言ったラディア・カリバーンが偶然見つけた小豆を使って、お汁粉をメニューに追加した。
彼女がデザートにかける執着は半端なモノではなく、小豆も十分以上に渡り芽上家のキッチンを探してようやく見つけたものなので、偶然というよりは努力の賜物と言った方が正しいような気もする。
「じゃあ、いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
黙々と食べ続ける両者だったが、沈黙が苦手な芽上凜は塩焼きに大根おろしを少し着けて口に運びながらラディア・カリバーンに尋ねる。
「ラディアちゃんって、どして私の家に来たし?」
「ん、それはだなぁ……」
彼女は少しの間言い渋っていたが『結局は話すことになるし、丁度良いか』と思って「我は汝に一本の剣として使ってもらえるよう頼みに汝に話し掛けた」と言う。
この言葉に芽上凜は何も言うことが出来ずに箸を床に落としてしまい、カランという音が静まった芽上家に響いた。