複雑・ファジー小説

【早槍家】聖剣少女【誰かコメを】第十七節更新 ( No.51 )
日時: 2012/03/12 01:14
名前: 白波 ◆cOg4HY4At. (ID: lD2cco6.)

零章〜剣は持ち主を選ぶ〜 第十七節

 これで最強の剣士とその剣についての結成についてはひとまず終わらせようと思う。

 出会って数時間しか経っていない二人だが、共に剣を交えることで分かり合ったのか、いつの間にか仲良くなっていた。
「でも、結果的には私が勝ったとはいえロイズってホント強いわね」
「いやいや、正直ウチは負けるとは思ってなかったんだけど、京子の成長はウチを遥かに上回ったよ。流石だ」
 和室に布団を敷いてのガールズトークの内容はやはり彼女達らしく剣道の話しで、時に互いに褒めあい、時に互いに意見をぶつけ合っていた。
 その時の二人の顔はとても楽しそうで、ロイズ・ランシアに至っては本来の目的すら忘れて早槍京子との話しを楽しんでいるようにも見える。
 しかし、次の一言によってそれを思い出すことになるのだが。

「そういえばロイズは、私が三本目負けてたら何を要求する予定だったの?」
 この一言に彼女は若干の戸惑いを見せ、少しの間言い渋ってから重々しくその口を開く。

「そのこと何だけどさ、京子。今からウチの言う話しを驚かないで聴いて欲しい。これは嘘じゃない」
 ロイズ・ランシアの言い方は、冗談を話すというような雰囲気ではなく、その雰囲気を察した早槍京子は無言で小さく頷く。
 それを見たロイズ・ランシアは淡々とここに来た本当の理由などを語り始める。

「ウチはな、アロンダイトって剣なんだよ。これは後から証明するから一度頭の隅に置いてくれ。
 で、今度。正確に言えば一年半後にラグナロクって神々の戦争をもじったトーナメント戦があって、ウチみたいな剣が十三本が集まって、ウチも最強を証明したかったから参加したんだ。
 当然剣には持ち主が必要だろう? だからウチらには三年かけて持ち主を選ぶ期間が与えられているんだ。
 それで、ウチは京子に辿り着いたってワケ。世界一位のエリ・マリスの所にも行ったんだけどアレは駄目だ。合わないし今の京子より弱い」

 そんなファンタジー小話のようなことを言われて、世界大会の決勝で惜しくも三本目で敗れたエリ・マリスを、自分よりも弱いと評するロイズ・ランシアの言葉に疑問を持つが、彼女の話し自体には不思議と『嘘臭い』とは思わなかった。

「つまり、私はロイズの持ち主になれってことかしら?」
「話しが早くて助かる。返事はあと一年半もあるからゆっくり決め手もらえば良いから、じっくりと考えてくれ」
 ロイズ・ランシアがそう言うと早槍京子は立ち上がって「私、ちょっと夜風に当たってくるわね?」と和室を出て行った。

 早槍京子は現在、ししおどしがある庭で夜風に当たりながらロイズ・ランシアに持ち主となれと言われたことに悩んでいた。
 アーサー王の伝説や、北欧神話の記述でしか読んだことのない憧れの剣士や騎士達が使った剣が集まり、その優劣を決めるラグナロクというものに一人の剣士である彼女が興味を示していないわけは無かったのだが、参加するには少し躊躇いがある。

 先程彼女は自分の真名をアロンダイトと言った。
 これは早槍京子にとって一番の憧れのサー・ランスロットが使ったらしい剣で、ガウェインとの決闘など、数々の闘いでランスロットは輝かしい結果を出している。
(私にそんなこと出来るわけないじゃない)
 現在となっては剣道なら世界一と言っても過言ではない彼女だが、守りの剣士ゆえなのか、自信をあまり持つことの出来ない彼女はランスロットに続く“性能はほとんど同じでも名前の違う”オートクレールではなく、アロンダイトの後継者になることに躊躇いを覚えている。

 しかも、ロイズ・ランシアの話しを聴く限りだと、斬られて死ぬかもしれない。
 治療は優秀だというが、もしかしたらということもある。それが更に彼女の足を躊躇わせる。

 数十分考えてみた結果、結局一番彼女を躊躇わせるものがライバルの芽上凜に会えなくなることだという結論に至り「結局私は、凜と一緒に居たいだけじゃない」そう言いながら『私、レズってわけじゃないんだけどなー……』そんなことを考えて、早槍京子は笑ってしまった。

「でも、ラグナロクかー……興味深いけど、私なんかにロイズの持ち主がつとまるのかしら」
 そんな風に溜め息を吐きながら呟くと、突然首筋に夜風とは違う冷たい感覚が走る。
「京子。今、お前は何かに悩んでるな?」
 後ろを振り向いた早槍京子の視界に飛び込んだのは、幼いころから自分の憧れで、世界に通用するレベルまで自分を育ててくれた親でもあり、師匠でもある父。早槍剣砥の姿で、無言で彼は早槍京子に右手に持っていたオレンジジュースの缶を手渡した。
「う……うん。お父さんは流石だよね」
 いきなり核心を突かれたことに驚きつつも『お父さんに隠し事なんか出来ない』と覚悟を決めながらその言葉に応え、缶ジュースのリングプルを開けた。