複雑・ファジー小説

Re: 【早槍家】聖剣少女【誰かコメを】第十七節更新 ( No.54 )
日時: 2012/03/21 23:36
名前: 白波 ◆cOg4HY4At. (ID: GyOijjIz)

零章〜剣は持ち主を選ぶ〜 第十八節

「まあ、立ち話もアレだし一回座ろうか」
 早槍剣砥は優しくそう言って、二人はサザエさんの雨戸の所にある庭と家を繋げるようなあそこに座った。
「で、京子の悩みのタネはロイズちゃんかな?」
「うん……。ちょっと私には背負いきれないような話しをされちゃって……」
 父にいきなりの悩みを掠ったような質問にも驚くことは無く、いつものようにどこか芯の通ったような強さを感じる印象を受ける言い方ではなく、儚げと言うか弱々しいといった印象を受ける言い方で、その言葉を肯定する。

 昔から早槍剣砥は鋭いところがあり、いつだって父として娘の悩みを聴き、自分なりの意見やヒントを早槍京子に提示して出来る限りのサポートをして来た。
 そのことが彼女にとっては嬉しく、絶対的な信頼を寄せている父だからこそこのような弱い自分を出せるそうだ。
「お前は何かに行き詰まったり、悩んだりするといつもここに来る。俺に話せることなら話してくれ。出来る限りのことはしてやるから」
 早槍京子に渡したものと同じオレンジジュースを一口飲んでから彼女にこう尋ねる。

 今回のことは今までの悩みなどとは一線を画しているため、この頼れる父に話すことすら躊躇いを覚えたが、結局は隠してはおけないことなので、先程ロイズ・ランシアに説明されたことをそのまま父に説明した。

「へぇ……そんなことがねぇ……。で、京子はどうしたい?」
「私は……少し怖い。死ぬかもしれない。ロイズを上手く使いこなせないかもしれない……それが怖いの」
 父だからこそ明かす彼女の弱々しく語る本音に対して、早槍剣砥は予想外の一言を優しさは残るものの、半分叱るように口にする。
「俺が京子に訊いてるのは“どう思っているか”じゃない。“どうしたいか”だ。お前が恐れようが、釣り合わないと思おうが、やりたいと思ったことを出来るチャンスにやらないと絶対に後悔するんだよ。どうだ。これを踏まえて京子が“どうしたいか”をいってみな」

 そう言われた彼女は、迷いがあるのか少し思案した後、ゆっくりとその口を開き、言葉を発する。
「……私は……やっぱり怖いよ……痛いのは苦手だし、役に立てないのは嫌で辛い。だけど……」
「だけど、興味があるんだろ? 憧れのランスロットが使ったアロンダイトを使ってみたいって欲があるんだろ?」
 その後に続く言葉を先回りして、父は娘の言いたいのであろう言葉を言う。
「うん……。私だってやってみたい! だけど!」
 父に自分の確かな本心を突かれたからだろうか。
 早槍京子は子供のように反論しようとする。
 その目には少量の涙を浮かべ、今にも号泣してしまいそうな弱さがあり、普段の彼女らしい強さなどはほとんど残っていなかった。

 しかし、そんな彼女に手をゆるめることもなく、早槍剣砥は更に追い討ちをかけるように言葉を進めていく。
「やってみたいなら迷う必要はないだろ? 確かに京子が死.ねば俺だって、母さんだって悲しいよ。だけど、それは京子の歩みを止める理由にはなんないんだ。
 これで京子が死ぬならそれが京子の運命だし、勝ち続けて優勝するのも京子の運命だ。
 だけど、歩みを止める選択肢を、運命を俺は絶対に選ばない。
 だってそれが——剣を振るうことが早槍に産まれた人間が持つ業だからだ」

 早槍という家の歴史を遡ると、室町近くにまで遡る。
 早槍は昔から侍だった一族で、どんな時も早槍と刀剣は共にあった。
 日本刀か竹刀かという違いこそあれ、剣を振るうことが早槍という伝統は現在も根強く残り、女であろうが男であろうが、物心付くときには竹刀を持っているのが普通の家なのである。

 だから、早槍に産まれるということが剣を振るうことと同じなどといえるのだろう。
 だからこそ、そんな運命を持つ早槍だからこそ父の言葉は娘に響き、決心が付いたかのように立ち上がる。

 その時の彼女の顔と雰囲気は、先程のような弱々しく、今にも泣きそうな、脆く、脆弱なものではなく、いつものように、凛として、父ほどではなくともしっかと芯の通り、少しばかり歳不相応な強さを感じさせるような顔と雰囲気だった。
「お父さん、私は行くよ。どんな結果になろうともそれが私の結末なんだし、私の人生だもんね。
 なにより、そんなに期待をしてるお父さんやロイズを裏切ることなんて、私には出来ないもの」

 その言葉を聞いた早槍剣砥も立ち上がり、書斎へと戻る前に娘を後押しするように缶ジュースを持っていない左手で娘の肩に手を置いて「凜ちゃんのことが気になるなら、凜ちゃんも連れていけ。あの子の分も俺が出してやるから、心置きなく行ってこい。京子は俺の自慢の娘なんだからさ」少し太っ腹で、早槍京子の最後の不安を消す発言をしてから歩いて書斎へと向かっていった。
 そして、彼女自身もロイズ・ランシアの待つ自分の部屋へと戻っていった。

 部屋の前まで着いた早槍京子はもう一度覚悟を決め、少し緊張した様子で戸をスライドして部屋の中へと入る。
 布団の中で寝転がっていたロイズ・ランシアだったが、早槍京子の緊張したおもむきを見て、布団から出て少し脚を崩しながらも、寝ることをやめて向かい合って座ることにした。
「ロイズ、さっきの件なんだけど……」
 その言葉に、もっとじっくり考えるだろうと踏んでいた彼女は少し驚くが、すぐさまその驚きの表情も、驚きの感情も消し「いや、まだまだ期間はあるんだから、もっとゆっくり決めたっていいんじゃないのか?」早槍京子にもっと考えて決めるべきといったような内容を言う。
 ロイズ・ランシアは、確かに自分のパートナーを彼女に決めているからこそ、一時の感情で決めてほしくはなく、断るにしても、受け入れるにしても、それ相応な覚悟を持って決断してほしいからこそ、彼女にじっくり考えるように言ったのだ。
 しかし、彼女は一時間程で結論を出し、今ここで答えようとしている。
 それならば彼女にじっくり考えるように促し、熟考した上で答えを出させようとするロイズ・ランシアの当然の言葉に、彼女は真剣なおもむきで答える。

「大丈夫。私はお父さんとちゃんと話して、自分でも考えて、葛藤した上での結論なんだから。
 ロイズが言うように、もっと考えるべきなのかもしれない。だけど、私は後一年半を強くなるために使いたいのよ。
 だからロイズ。私の剣になってくれるかしら?」
 その言葉にはロイズ・ランシア自体も戸惑う。
 確かに、ここで彼女をパートナーとして受け入れれば自分はラグナロクに参加することが出来る。
 だけど、参加するにあたって彼女に迷惑を掛けないのだろうか?
 初めて会ったときに高校の制服を着ていたことから、彼女はまだ高校生だということを知っており、私生活を自分が崩してしまうのではないかという罪悪感が、自分と共に彼女をラグナロクに連れて行くことを躊躇わせた。

 だが、結局は早槍京子の真剣な瞳に自分の心の揺れを消され「円卓の騎士団最強の騎士が使った剣を使う覚悟があるならウチの手を取れ。京子を最強の騎士に変えてやろう」と、手を差し出す。
 紡がれた言葉の意味をよく反芻し、差し出された手を見た上で、それを迷い無く取り、この瞬間に『最強の騎士の使いし剣“アロンダイト”』の持ち主が早槍京子に決定した。

 それとほとんど同じタイミングに彼女の携帯が震え、一件のメールを受信する。
 その内容は『明日大事な話しがあるから、昼休みでも、放課後でもどこか適当に時間を取ってくれる?』といったことが掛かれた芽上凜からのメールだった。
 それに対して彼女は『偶然ね。私も凜に話したい大事なことがあるのよ』と、慣れた手つきで打鍵し、彼女にメールを返信した。

 この次の日、芽上凜と早槍京子。『かの聖剣の姉妹剣“ガラディーン”』と『最強の騎士の使いし剣“アロンダイト”』。
 互いに因縁の有るもの同士の因果は絡み始めていく……。