複雑・ファジー小説

Re: 【早槍家】聖剣少女【誰かコメを】第十八節更新 ( No.55 )
日時: 2012/03/28 23:51
名前: 白波 ◆cOg4HY4At. (ID: 7mGgpC5l)

零章〜剣は持ち主を選ぶ〜 第十九節

 早槍京子がロイズ・ランシアをパートナーにした次の日、いつも通り芽上凜と早槍京子は一緒に昼食を食べ、その時に空手部と生徒会の活動が終わった後にゆっくりと話すことを決めた。
 そして今、五時半過ぎに、活動が終わり静まり返った生徒会室に二人は居る。

「ここが生徒会室なのかー。入るのが久々過ぎてなんだか新鮮だよ」
 部活の用事で生徒会室を訪れることはあっても、中をじっくりと見たことが一度もなかった彼女は、少し感激している様子で、生徒会室内の様々な場所を興味深そうに、目を輝かせながら、まるで学校に入った当時の小中学生のように探索している。
 そこにはこれから重要な話しをするといったような緊張感はなく、普通の教室にはないパソコンや冷蔵庫などが置かれている生徒会室を楽しんでいるといった様子だった。

 そんな様子を見かねたのか、早槍京子は彼女の頭を、腕を使った綺麗な面打ちで軽く叩き「はいそこまで。私達は真剣な話をしにきたんでしょ?」と言うことで、少しハイテンションな彼女の暴走を止める。
「ごめんごめん。普段生徒会室とか入んないからテンションが上がってたよ」
 そう言いながら、早槍京子が用意してくれた椅子に腰掛け、相変わらず緊張感もなく伸びをする。

「で、どっちから話す? 私? 京子?」
「どっちでも良いわ。ここはジャンケンでもして、勝った方が先に話すとかで良いんじゃないかしら」
 それに対して無言で彼女は頷くと、両者の間に剣呑な雰囲気が漂う。
 当然やることはただのジャンケンなのだが、ライバルにはいかなる形であれ、負けるということは悔しいため、何としてでも勝とうと相手の出す手をじっくりと考え、相手を観察する。

 数秒後、両者の出す手が決まったため、早槍京子が「最初はグー」と手を出し、それに芽上凜も反応して手を出す。

「ジャンケン……」
 両者がそう言ってからの一瞬の静寂——その瞬間、生徒会室内の緊張感は本日最大にまで高まり、凍てつくように冷たく張り詰めた空気と、それとは相反するような確かな熱気が生徒会室内を満たす。
 次の瞬間、その静寂を消し去り、勝負を決する言葉を力強く両者共に口にする。

「ポン!」
 三分の二の確率で終戦を告げるその合図と共に、武道家はかなりの速さの正拳突きを繰り出し、剣士は真剣のように鋭い手刀を真下に振り下ろす。
 そして、一直線に繰り出される拳を、真上から飛んできた刀が弾き「ぎゃっ!」という声と共に武道家はその場にうずくまり、悶々とし始めた。
 これがジャンケンなのかという質問も上がるような気がするが、彼女達にとってジャンケンは立派な勝負で、気づけばこのような風になってしまうのだ。


 数分後、腕の痛みに悶え苦しむ敗者がなんとか復帰したため、勝者が「じゃあ、私から行くわね」と彼女を気遣う言葉も無しに話し始めた。
「まあ、私のはそこまで大した話しじゃないんだけど……」
 そんな前置きを言い、彼女は話しを始める。
 実際は大したことない話しでは無いのだが、ラグナロクについての言葉を伏せて話すため、大したことない話しという言葉でも充分に通るだろう。
「えーっとね、私は来年の十月に、諸事情でヨーロッパの方に行くのよ。
 で、ほら、凜を一人にしてると心配だし、どうなるか解らないじゃない?
 だから、凜も私と一緒に来ないかなーって。まあ、無理強いはしないんだけど」
 長年付き合いがあり、彼女ドジさを知り尽くしていて、自分がいない間に彼女が何かドジをやって怪我なんかするんじゃないかということを心配しての発言だったのだが、それを彼女は別な風に解釈する。

「あれあれ? もしかして京子、私がいないと寂しいんじゃないのかなー?
 まあ、どうしてもって言うなら付いていってあげるけど。私も旅行に行けるし!」
「チビは黙ってちょうだい。そもそも、料理をしたら二回に一度は調味料を間違う凜が、心配になるのは当たり前じゃないの」
 呆れたといったように溜め息を一つ吐いてから、早槍京子にしか言えない『チビ』というワードを強調して、いつもよりも抑揚の無い声で言う。
 ちなみに、なぜ芽上凜の料理のミスについて早槍京子が知っているのかというと、オカズを交換した時に、半分以上の確率で彼女は、砂糖と塩を間違えて入れるからである。
 それに加えて、彼女の家で使っている砂糖は三温糖。
 白い上白糖と、塩を間違うのではなく、茶色い三温糖と、塩を間違うのだから、これには流石の幼なじみも、脱帽せざるを得なかった。

 もはやドジに関しては認めるほかなかったが、チビと言われたことに対して怒った彼女は「チビって言うな! このツンデレ! ツンデレズ!」と、ツンデレとレズを合わせたツンデレレズという造語まで言って反抗する。

「なっ……!」
 その言葉が真実ではないとはいえ、そのように言われたこと自体が恥ずかしかったのか、顔一面が深紅に染まる早槍京子。
 顔面をくまなく、耳まで染められたように、赤くなりきった真っ赤な彼女の顔は、赤い着物のように鮮やかで、火を噴き出しそうなという表現がとても似合った。
「わ、私はツンデレでもレズでも無いわよ! 本当に凜のことが心配だから言ってるわけで……」
 そうは言うものの、顔は依然として赤いままで、更にそれを見ている芽上凜はニヤニヤとしている。
 明らかにこのままでは自分の分が悪いと判断した彼女は、半ば強引に話しを変えようと「もういいわ。話しが進まないからこの話題は切るわね。で、凜。あなたの話しって?」芽上凜が更に自分のことを冷やかさないように、間髪入れずに彼女に自分の話しをさせようと促す。

「えー……せっかく面白かったのにー……」
「話しなさい?」
 血管を浮かしながら、ニッコリと芽上凜へと微笑む彼女。
 その笑顔は全てを許す天使の微笑みか、最終警告を告げる悪魔の微笑みか——どう考えても後者である。
 当然それを芽上凜も理解して「ちょっ、ごめっ! 今話すから!」と、早槍京子を制し、事なきを得た。

「えーっと……何から話せば……」
 そう言って彼女は話す言葉を考え始めた。