複雑・ファジー小説
- Re: あやかしの花嫁 》2 ( No.3 )
- 日時: 2012/01/11 14:56
- 名前: 刹那 (ID: vWRv9TUU)
†
「何?」
彼は訝しげに眉を上げた。
「嘘は申しておりませんよ。巽の方の時空が歪められて異世界の者が迷い込んだ模様。ちなみに残念ながら、時空の歪みは既に修復されてしまったようです」
部下は先程報告した言葉を反復する。
「そうか……と待て。巽の方角と言えば、鴉の集い場ではないか」
「そうですね」
「フ、ハハハハハ!面白い」
彼は高笑いをすると、フードを翻した。
暗闇に黄金の瞳が光った。
「どちらへ行かれるのですか」
「巽の地区に決まってるだろう!」
†
「お嬢ちゃん、迷ってるのかい?」
目の前に、数人の男達が現れた。
皆揃って背に黒い羽があり、左目には深く刀傷が刻まれている。
—優しい人じゃない。
脳内が警鐘をを鳴らし始める。
ヤンキー達とは桁違いの迫力が、男達にはあった。
なぜ羽があるのだろうなどという考えは、わき上がってくる恐怖感にかき消される。
真樹も気配を察したのか後ずさりする。
「—でも、残念だったなぁ!」
男達の手が一気に鋭い爪を持つ手に変わる。
思わず喉の奥から「ひっ」っていう声が漏れた。
「おまえら、ここで死ぬんだから、家には帰れねぇな!」
爪が振り下ろされる。
(私、ここで死ぬの?)
嫌だ。
「……止めろ」
背後から冷たい声がした。
「あぁん?」
男達の視線が声の方に向く。
神流と真樹が背後を振り向くと、そこには目尻に朱を刻んだ、着物のような衣装の上に、金色の椿が描かれた黒いフードを被った青年が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
何故だか、そこだけ空気が違うように感じられた。
「なんだよ、テメェ」
「鴉の雑魚に名乗る名はない」
スッと彼は掌を男達の方へ向ける。
一瞬、鋭い閃光が走った。
その次の瞬間。
「グァッ」
そんな声を上げ、男達が倒れた。
空気が一瞬にして冷えた。
(一体、どういうことなの……?)
隣を見ると、真樹も混乱している様子だった。
でも、ひとつだけ理解できることがある。
「大丈夫だったか?」
何事もなかったかのように微笑む、この青年が一人で—しかも一瞬であの男達を倒したのだ。