複雑・ファジー小説

Re: あやかしの花嫁 ( No.6 )
日時: 2012/01/11 14:57
名前: 刹那 (ID: vWRv9TUU)



「あっ、あなたは誰っ……?」
 青年は驚きに満ちた表情をして言った。
「貴様等、この俺を知らないと?……あぁそうか。人間の世界から来たのだからな。来い!!俺様が案内してやる!!この世界のことが知りたければな!!」
 かと思うと次の瞬間には満面の笑みになっていたり。
 くるくると表情がよく変わることだ。
「乗れ」
 と青年が指さしたのは、馬車のような御輿のような—。どちらにしろ現代では滅多に見ない乗り物であった。
『私達が乗るの?』
『きっとそうよね』
 目線で神流と真樹は会話をしあう。
「さっさと乗らなくては、置いていくぞー」
「はいッ!」
「わ、分かりました」
 今は何者か分からなくても、自分達にこの青年を頼る以外の選択肢は残されていない。この青年は神流や真樹に危害を加えようとは今のところはしていないのだから。
 危ない橋を渡っていると分かっていても、渡らずにはいられなかった。そんな感覚だろうか。



 その変な物体に揺られること、小時間。
「あの……どうしてあなたは、私達の味方をしてくれるんですか?」
 神流はおずおずと尋ねた。青年は〝鴉〟と呼ばれていた不良のような人達を倒してくれたり、私達をこうして案内してくれたりと……。おかしなくらいに優しい。
「それと……人間の世界って仰っていましたけど……。ここはどこなんですか?」
 疑問点は挙げれば尽きない。
「まぁ落ち着きなって。ゆっくり話すさ。ひとつだけ言うと、ここは人間の住んでいるー御前とかが住んでいた世界とは違う世界だ。異世界って言うのか?」
「異世界……」
 そう呟いてみても、全く実感がわかない。
 本当に……?
 だが、〝鴉〟という物体は産まれてから十五年、見たことがない形をしていたし、あんな和風な世界は見たことがなかった。
 それが異世界だからというなら納得できる。
(でも異世界なんて、本当に……)
 悩み込んだ神流を見やり、青年がぼそりと呟いた。
「そういえば御前、外見てみろよ。もしかしたら面白いものが見られるかもな」
 くつくつと笑いながら、青年は扉の方を指差す。そう言えば乗る時先程窓があったっけ。今は布で遮られているが。
「なにが……ッ」
 挑発に乗るよう神流が布を取ると。
「き……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 神流達が乗っていた乗り物は、宙に浮いていたのだ。



「おーい、おーい」
 暗い闇の中、声だけが響いてくる。
「う……ん?」
「お、やっと起きたか。高所恐怖症なんて情けねぇな」
 目を開けると眼前にあったのは青年の顔だった。
(……はっ)
 青年に外を見てみろと言われて見、空中を走っていたことに気絶してしまったのだっけ。
「ま、鴉に襲われたんだ。疲れていたっていうのもあるだろうけどな」
「神流、大丈夫!?無事でよかった……」
 真樹が駆け寄ってきて、神流に問いかけてくる。
「熱はない?どこも痛くない?」
「だ、大丈夫だって……。真樹が心配症なだけだって」
「だって突然失神したんだよ!?心配するのも当然じゃない。ところでっ……」
 と真樹は青年を睨む。
「そろそろ、ここがどこで、あんたが誰で、何で私達がここにいるのか教えてくれない?」
「ここはあやかしの世界。御前達の住む人間世界とは違う世界だ。私は皇。この世界の帝だ。御前達が何故ここに来たのかは知らん。恐らく、時空変動で迷い込んだのだろう」
「は……?」
 淡々と話す皇に、神流はついて行けなかった。
「ハァ……あのですね。皇様。何も知らないこの者達に突然そう言っても分かる訳がないでしょう。もっと分かりやすく教えないと」
 背後から片眼鏡の、緩やかな小麦色の髪を背で結った皇と同年代位と思われる青年が現れた。
「初めまして。皇様からお話は伺いました。神流様と真樹様ですね?私は八咫烏(やたがらす)の李王。皇様の側近を務めております。先程は一族の末端者がご迷惑をおかけしました」
「八咫烏で一族って……」
「私は鳥の一族の者ですので。さて……先程のお話ですが。ここは間違いなくあやかしの世界です。何故あなた達がここへいらしたのか。それは少々ややこしいのですが……。ご説明してもよろしいでしょうか」
「はい」
 それを知らなければ、神流が住んでいた世界に戻ることもできない。
 そう思ったからだ。

 更新できてよかった……笑
 kokoro様、風猫(元:風 様本当にコメント有り難うございました!