複雑・ファジー小説
- Re: あやかしの花嫁 ( No.10 )
- 日時: 2012/02/05 17:52
- 名前: 刹那 (ID: vWRv9TUU)
神流は与えられた部屋でうつろに外を眺めていた。
もう私は戻れない。
ついさっきまでいた、私がこれまで生きてきた世界に。
そう思うと、涙が伝う。
「神流、しっかりしなよ……」
神流の部屋へやって来た真樹も心配そうに神流に問うてくる。
「だって真樹、戻れないんだよ……。私も、真樹も」
「そんな、一生戻れないって訳じゃ……」
「違う世界に来ちゃったんだよ!?戻れないかもしれないじゃない!!私達、普通に修学旅行をしていたんだよ!それなのに、それなのに……」
突然肝試しで訪れた神社で変な空間に引き込まれ、その空間を抜けた先では命を狙われ、助けて貰った皇にはここが神流達が今までいた世界とは異世界だと説明された。
それを嘘だと思いたかった。だが、それをこのあやかしの世界に来てからの経験が現実だと語っている。
神流は絶望や不安を全て抱えきれず、真樹に八つ当たりしてしまった。
しまったと思った時には、真樹の拳が震えていた。
「だからって……そんなに自分を悲観しないでよ!」
真樹の声が怒りに震える。
空気が凛、と研ぎ澄まされたように冷たくなった。
真樹の言葉ひとつひとつが深く神流の心中に突き刺さってくる。
「私だってほんとは怖いよ。でも、前を向いて歩くしかないじゃん!!亀裂とかはまたできるかもしれな。それを信じるしかないんだって!」
真樹に怒られたのは初めてだった。
それと共に、前向きな正論に神流はただ唖然とすることしかできなかった。
「そう、だ……」
亀裂は不定期だが起こる、と李王も言っていた。
もしかしたら案外すぐに再び神流達のいた世界とこのあやかしの世界の間の亀裂が開くかもしれない。
些細な希望でも、持つことが大事なんだ。
真樹はそう言ってくれているのだ。
「でしょ?分かってくれればいいのよ」
真樹は次の瞬間に笑顔になる。
(ありがとう、真樹)
心中で神流は真樹に感謝を述べた。
真樹がいれば、何も怖くない。
それくらい、神流にとって真樹は大切な友達となっていた。
「私、ちょっと行ってくるね!」
「えっ、どこへ!?」
「李王さんのところ!」
†
「先程も申し上げた通り亀裂の周期は不規則ですが、恐らく近い未来に起こるのではと」
絶望から立ち直った神流は、亀裂がいつ起こるのか李王に問いに向かった。
先程李王の部屋は自室へ向かう途中、教えて貰ったのだ。
皇の側近の部屋というだけあって、とても豪奢で、神流が今まで見たことのない家具もたくさんあった。
「ということは、希望はあるんですね!」
「そういうことですね。亀裂は一定時間ありますから、その間に飛び込めば元の世界に戻れるでしょう」
「ありがとうございます!!」
バタンと勢いよく神流は扉を閉める。
「何だか、急に元気になりましたね……」
と、ただ李王は唖然としていた。