複雑・ファジー小説

Re: あやかしの花嫁 ( No.12 )
日時: 2012/01/22 08:54
名前: 刹那 (ID: vWRv9TUU)


 夜も更けた頃。
 ずっと星がくっきりと夜空に見え、瞬いている。
 都会暮らしだった神流にとって、こんなに星が綺麗に見えたのは初めてかもしれない。
「星、綺麗……」
 そして思わず、ぽつりと呟く。
 藍色と黒の織り混ざった様な夜空を様々な色でまばゆく彩る星々。
 思わず感嘆の溜息が零れる。
 もしかしたら、星をじっと見たのは初めてかもしれない。
 —————戻れる可能性。それがないわけではないと安心して、神流は少し心の余裕ができたのかもしれない。
(静かな、この空間にとけていきそう……)
 と夜空に身を委ねようとした時。

 ガタン、ゴト。

 とロマンも何もかもぶち壊しな大きな物音がした。

(え)
 神流は拍子抜けした。

(一体、何の音?)
 と神流は怪しんで、庭院(にわ)に面した扉を開け音のした方を見る。
 庭院には、黒い人影。
 黒い髪を首の後ろで結わえた人物の後ろ姿。
 恐らく背が高いから男性だろう。
(いったい、誰?)
 燭台を持ってきて、照らしてみると。
(……え?)
 その眩しさにか、その人影が振り向いた。
 目尻に深い朱が刻まれた、瞳を丸くしている青年。
 それは、よく見知った顔……。

「す、皇!?」

 そう。皇だった。
 神流は燭台を思わず落としそうになった。
 このまま持っていて、何らかの事故で落としてしまったら庭院が火の海になりかねないと神流は思い、芝生の様になっているところへ燭台を置いた。

「か、神流か!?」

 双方、平静ではいられなかった。

「ど、どうして」
 一気に混乱状態に陥る二人。
 帝が深夜に城を抜け出すなど、聞いたことがない。
「御前こそどうして……って」
 皇が城内を一睨みし、舌打ちをする。
「皇様ー?どちらへー?」
 神流がそちらの方を向くと、皇を捜すべく回廊を走り回っていると思われる李王の声が聞こえた。
「ちっ……ちょっと御前も来い!」
「え、えっ、ちょっと!」
 突然駆け寄った皇に、神流は抱き留められた。
 そして、皇は己の背から鴉に似たーけれど鴉より格段に大きな羽を広げて宙へと飛び立つ。
「えっ!ちょ……」
 クラ。
 高所恐怖症の神流が、だんだんんと小さくなってゆく城を見てそのまま気絶したのは言うまでもない。

*参照100超えありがとうございます!*