複雑・ファジー小説

Re: あやかしの花嫁 ( No.13 )
日時: 2012/01/30 21:30
名前: 刹那 (ID: vWRv9TUU)


「おーいっ、本当に大丈夫か?」
 鼓膜が破れそうになる大声に、頭がキンキンする。
 そんなかなり最悪の目覚めを、神流は迎えた。
「ん……皇?」
「そうだ。おまえ本当に高所が怖いのか。呆れるな」
「そう言われても、体質なんだから……って」
 神流は周囲を見渡して絶句した。
「ここ、どこ」
 周囲には何も無い。
 天上には神流達がいた世界では見ることのない紅の月、そして地には一面の芒(ススキ)。
「酉(とり)の方角だ。お前達が辿りついた巽の方角ではなく、れっきとした国一番の城市(まち)だ。色々な建物などがある。興味があるか?……と」
 皇は間近に神流を見やる。
 どくどく。
 神流の心臓がうるさく音を立てる。
 理由は分からないが。
「本当に大丈夫か?」
「へ、平気だってば」
 慌てて神流は目を皇からそらした。
「さてと……ならば行くか」
「どこに」
「酉の城市に決まっているだろう」
「え?」
 皇は酉の城市へ向かう為に夜も更けた頃に城を抜け出したというのだろうか。
 いったい、何の為に?
「あの、いったいどうして」
「いいか?李王には絶対言うなよ」
「はぁ」
 神流は曖昧に頷くことしかできなかった。質問もあっさりスルーされてしまう。聞いていなかったのだろう。
「では、少し付き合え。おまえも少しの間とはいえこの世界を知るのも悪くなかろう」
 皇に強引に引っ張られてゆく神流。
「だ、だからっ、ちょっと待ってって……」
 自然と繋がれた手に神流は慌てたが、嬉しかった。