複雑・ファジー小説

Re: あやかしの花嫁【コメください!】 ( No.17 )
日時: 2012/02/05 17:51
名前: 刹那 (ID: vWRv9TUU)



 灯りのない、薄暗がりの中。
 ぼそぼそと、声にならない小さな音だけがそこに響く。
「恨めしい……恨めしい」
 そして、紡がれる憎悪の言葉。

「許さない、許さない……絶対に」
 それは強い怨み。
 彼女の指先から浮かび上がる魔方陣は、怪しげの紫色の光を放ちながらゆうるりと回る。
「必ず……殺す」
 だが、急くのは禁物だ。
 時間がないのは確実だが、一息で成功させるにはまだ力がいる。
 それくらいの時間はまだあるだろう……。




「お か え り な さ い ま せ ?」

 対の首飾りを購入し、王城に帰ってくる頃。もう空は白み始め、朝を告げようとしていた。
 そして、神流と皇が王城の片隅から誰にも見つからないように入った途端。
 草木を踏み分ける音を共に。
「さぁ、どこで何をしていたのでしょうか。愚かな私にご説明いただけますか?皇様」
「神流も……二人してどこにいたの!?」
 黒い微笑をたたえながら般若のような威厳と共に仁王立ちしていた李王と、隣で神流を問いただそうという気満々の真樹がそこにはいたのだ。

 二人して李王と真樹に強引に連れ込まれたのは、皇の自室と思われる室だった。
「全く、あなたがたは何をしていたんですか!?えぇえぇ大体の見当はつきますとも!!城市に遊びに出掛けたのでしょう!?皇様は酉の城市を好みますから、おそらくそこに出掛けたのだと私は推測致します!!ですが!そのようなところに毎夜毎夜王ともあろう者がふらふらふらふらと出掛けるものではありません!!」
 李王の雷は恐ろしかった。
 皇は捨てられた子犬のように縮こまって、大人しく李王に従っている。
「はい……」
「市井の者の生活を知るということも重要ですよ?ですが、そのように連日通われているということがあの面倒な他族の長共に知られたら後が恐ろしい!!鵺の一族が皆殺しになることさえ可能性がないとは言えなくなります!!」

 皆殺し。

 その言葉に、背筋に悪寒が走った。
「あ、あの。それって……」
 驚愕に声の出ない神流に代わり、真樹が質問する。
「あぁ。そのことですか。あなた方にはあまり関係ないことですが、簡単に説明しておきますと、要は他人種国家のこのあやかしの国の玉座を狙う他族もいるのですよ。龍、大蛇、不死鳥。様々な族が、皆自分の一族が玉座に就き政治をしたいと願っているのですよ」
 つまり、皇に落ち度がひとつでもあれば、そこを叩かれる。
 市井の者と混じっているということが知られたら、威厳を疑われ戦争も勃発しかねない。
 そう、言うのだろうか。
「という訳で、皇様。しばらくこの王城でご謹慎を。勿論政務は通常通りこなしてもらいます」
「分かった……」
 皇も頭を垂れながら折れ、こうして朝からのお説教は幕を閉じた。