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複雑・ファジー小説
- Re: あやかしの花嫁【更新】 ( No.28 )
- 日時: 2012/03/12 12:12
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
「……」
「いかがなさいました、主」
低い声が落ちる。
座で雅は黙(だんま)りだった。
イライラと轟風は問いかける。
「どうなさいました!」
「……〝闇〟が、帰ってこない」
〝闇〟とは刺客の隠語だ。
何かあったのだろうか。そんな不安にかられる。
王城に出向かせた〝闇〟は〝鴉〟の一族の中では頭一つ抜きん出た〝闇〟だった。しかも事前に城の警護が手薄いという情報は仕入れている。
なのに、二刻経っても帰って来ないとは。
「……失敗した、か」
それは絶望にも似た響き。
だが、まだ戦線は五分五分の状況。
城を陥落させることはできなかったが、戦場で勝てばまた状況は変わる。
だから、気に病むことはない。
そう自分に言い聞かせるも。
「それでは、私の出番というところでしょうか……」
「……そうだな。轟風、頼む」
轟風が負ければ、もう勝つ見込みは零に近い。
だが轟風が勝てば、間違いなく〝鴉〟は勝つ。
賭けに……
「行って、くれるか」
「承知」
黒い羽を翻らせ、轟風は深淵の闇よりも暗い夜空へと飛び立った。
皇は戌の方角にある尾根を少し越えた所にある〝鴉〟の領地の隅に陣を構えていた。
夜と言えど眠ることなどできない。今は戦場であるし、本来あやかしは昼眠り、夜起きるモノなのだ。
(神流は勝利したのだろうか……)
〝鴉〟に抜かりはない。恐らく城の方に〝闇〟を仕掛けただろう。
そして、その〝闇〟が狙ったのは、神流。
ここからでは状況を知ることはできないが……。
「戦場でうつつを抜かすとは、愚かな」
声が、響く。
「おまえはッ……」
皇は声のした背後を振り向くと、そこには。
「轟風……」
〝鴉〟の旋風、轟風がそこには佇んでいた。
皇はただ呆然と佇むことしかできなかった。
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