複雑・ファジー小説

Re: あやかしの花嫁【コメントください】 ( No.33 )
日時: 2012/03/06 16:04
名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)

 
 〝鴉〟の旋風、轟風。その名をあやかしの世界で知らない者はいないと言われる程に名高い者だ。
 その斧は何をも砕き、盾は全てから守る。まさに【矛盾】を具現したような武器を持つ者だ。
「久しいな、皇。もうおまえを様付けする必要もないとはせいせいするな」
 轟風は鼻で笑う。だがそれが偽りであることは皇には分かった。
 轟風は皇の昔馴染みだ。
 皇の教育官の息子で、幼少の頃王城に訪れる度に遊んで貰っていた。
 皇が成人してからは滅多に逢わなくなっていた。
 そう。今回だけは逢いたくないと思っていた。
 あちらはいくら恩があろうとも敵味方を割り切ることができる。だが、自分は—————。
 完璧に割り切ることのできる、自信がない。
「……」
 皇は黙った。
 自分は、轟風と戦えるのだろうか。
 皆を統べる立場にいながら、そんな不安にかられることが情けない。
「ここに来た意味が分かるな」
 斧にはいくつかの宝玉がついているというのが、いかにも派手好きの轟風らしい。戦場だというのに微笑が漏れる。
「俺は、俺の信じるものを守りにきた」
 轟風のその言葉に、皇はハッとした。
 そうだ。
 轟風は生まれ育った〝鴉〟を信じ、戦っている。
 神流も皇が生きて帰ってくることを信じ、〝闇〟などと戦っているのかもしれない。
 それならば、
「俺も、期待に応えなくてはな」
 皇は剣を抜く。〝鵺〟に伝わる秘宝、『紫雷(しらい)』。その昔世界に落ちた紫の雷を吸い作られたという刃だ。
「まぁこちらも負ける訳にもいかないからな。手加減はしない」
 先程の陰鬱な表情とは比べものにならないような余裕たっぷりの笑みを浮かべ、皇は紫雷を振りかざした。