複雑・ファジー小説

Re: あやかしの花嫁【更新!! コメ求む】 ( No.42 )
日時: 2012/03/15 16:41
名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
参照: http://koebu.com/koe/cd11f1e6dd12fa94bf100a389286f749329e519d

(……って……)
 神流の思考が停止する。
 目の前には、すっかりふてくされた梓の姿。
(私……は)
 また神流ではない『神流』が現れた。
 それは分かった。
 だが、その『神流』は、何をしたのかというと。
(たしか、梓の首元に剣をつきつけて……)
 〝鵺〟の一族に仕えろ。
 そう言ったのだ。

(……何命令してるの私ッ!)
 途端少し前の自分を殺したい衝動にかられる。
(あの『私』は何であんなに偉そうなんだろう……)
 脅しで命令ことも厭わなかった。
 神流とは全く違う、かけ離れた『神流』。
 それは先程梓と戦った際に剣を華麗に操った『神流』なのだろうか。
(まるで二重人格みたい……)
 神流ではない『神流』がたしかに神流の中にいて時折神流が思いつかないような出来事を起こす。剣で戦ったり梓を脅迫したりなど時折神流が思いつかないような出来事を起こす。
「どういうこと……?」
「怖いよな、おまえ」
 と梓が消え入りそうな程小さい声でぼそり、と呟く。
「どうして?」
 神流がそう問うと、
「あんな慈悲なき死神かと紛う表情でオレのことを脅しておきながらさ、オレが頷けばすぐ固まって吐いた言葉が『どういうこと?』だよ。女って怖いな。さっきのこと、覚えてないのかよ」
「さっきって、あなたを脅した時?」
「それしかないだろ。オレはこれからこんな女の尻に敷かれて生きていくとは……」
 お先真っ暗だなと梓が大きな溜息を吐く。
「ねぇ。城に入った〝闇〟って、あなただけ?」
 刺客の隠語が〝闇〟だということは先程の会話から何となく悟っていた。
「そうだよ。オレ一人でも殲滅できた……はずだからな」
 言葉がだんだんと尻すぼみになったのは、一番最初に殺す筈だった神流に惨敗してしまった故だろう。
「それなら、城の戦いは終わったのね。後は……」
 戦場にいる、皇の戦い。
 今、皇が一体誰と戦っているのかは神流には分からない。名も無き兵士かもしれないし、〝鴉〟の最上位の武官かもしれない。
 神流は窓の方を見やる。
 たとえ地上で戦いがあろうとも、天上で相変わらず美しく輝く朔の月に、神流は祈りを捧げる。
(皇が、ちゃんと正しい選択をしてくれますように……)
 それだけを神流は望んでいた。