複雑・ファジー小説
- Re: あやかしの花嫁【コメ求む】 ( No.44 )
- 日時: 2012/03/20 15:32
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode
「……ッ」
炎の灯されていない深い闇の中、焦りを帯びた声が滲む。
黒衣を纏ったモノを包むのは、闇よりも深い黒い安らぎの光。
それはゆるやかに弧を描き、黒衣のモノを包む。
「……ハァッ、ハッ、…………ハッ」
荒い息が、だんだんと収まってゆく。
黒衣の間から除く躰は、文字通り穴だらけだった。
所々にぽっかりと大きな穴が空いており、その穴は覗くと黒衣のモノの背後の闇がくっきりと見える程に貫通していた。骨という概念が存在しないかのようだった。
そのモノは、死体を引き摺って生きていた。
怨念だけでその躰を生きさせていた。
(未だ……未だ死ねない。月が……欠けない)
間もなく欠けるというのに。
あやかしの世界では、思ったより遅く時が流れる仕組みらしい。
人間世界では月は一月で満ち欠けの周期を繰り返すが、ここでは三月で満ち欠けするらしい。
死者の力が最大限に高まる刻−−−−−それまでは、死ねない。
(生きなくては……)
死者が【生きる】。そんな自分の形容に自嘲した。
だが、【生き】なくては自分の【生きた】意味がなくなるのだ。
「……弱き者だな」
轟風に跳ね返された、皇の剣が鈍い音を立て地に突き刺さる。
皇に降り注ぐ、轟風の言葉。
「心も、躰も。全てが弱い。これは殺した方がいいのやもしれぬな」
轟風の唇に浮かんでいるのは、笑み。
重い戦場には、とても不似合いな。
(殺した方が、いい?)
皇はその言葉に疑問を覚えた。
元々殺すつもりではなかったのだろうか。今の言葉だと、殺すという命令はないが、独断で殺すという意味合いに取れる。
「だが、私はおまえを殺せない。おまえも、私を殺せない」
これで分かるだろう?と轟風の表情が語っていた。
轟風の余裕の笑みが、更に深く刻まれる。
「……そういうことか」
皇は漸(ようや)く察することができた。
〝鴉〟が何を思い戦を起こしたのか。
「私は必ず勝つ。罰は重いと思え……!!」
皇は剣を抜き、振りかざした。
「たァァァァァァッ!!」
突然、嵐のような強い風が巻き起こる。
これは、轟風の技ではない。
皇が繰り出したものだ。
轟風は、既に戦意を秘めた表情ではなくなっていた。
「待っていた。この……覚醒を」
こうなったら、止められる者はいない。
轟風は余裕に満ちた笑みを浮かべていた。
皇の瞳は深い闇でも存在を示す様に強く光を放つ月のような黄金色となり。
羽は以前神流を連れ出した時とは桁違いに麗しく、大きな濡れ羽となり。
紫雷は一層刃先の輝きを増し。
「……何だ、これは」
その姿は伝承に語られる、〝鵺〟の選ばれし王の再来を告げていた。