複雑・ファジー小説
- Re: あやかしの花嫁【更新】 ( No.46 )
- 日時: 2012/03/26 18:50
- 名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
「……お待ちしておりました、我が君」
皇の〝覚醒〟と同時に、轟風が恭しく跪いた。
「私達は、長い時、あなたの覚醒を待っておりました」
淡々と紡がれる、先程まで激戦を交わしていた相手の変わりように、皇はただ呆然とすることしかできなかった。
「轟風、どういうことだ……」
「あなたは〝鵺〟の選ばれし王。我等はあなたの目醒めを待ち望んでおりました」
「目醒め……」
皇は自分の姿を見下ろす。
頬の朱の刻印が、華のような紋を描いていた。
そして、ハッと気付く。
「……そうか、これが真に御前達が戦いを起こした理由か。私は先程までは半分しか理解していなかったのだな」
「ご名答」
「だが、その罪は—————」
「そう。私は戦うことを諦めた訳ではない」
轟風が地を蹴る。
同時に皇も地を蹴った。
「決着をつけよう。—————轟風!!」
皇の咆哮が、静かな宵闇に響いた。
雅は、何かの気配を感じ取った。
「……そうか」
そして、小さく嘆息した。
「轟風は……死んだか。御前が来たということは」
いつの間にか眼前近くにまで来ていた皇に、雅はスッ、と目を細めた。
「……雅、と言ったか。女の手で〝鴉〟を操るとはなかなかのものよだな」
雅は立ち上がる。
—————確かに、雅は女だった。
短い髪や、切れ長の瞳の容貌の為か雅は一見男と勘違いされやすいが、実は女である。
「褒めているのか?まぁいい。これで……〝鴉〟は終わりだな」
雅は諦めたように瞳を閉じた。
「殺せばいい。どうせそのつもりなのだろう」
「いや、殺さぬが」
「何?」
雅が瞠目する。
それも道理だろう。敗れたら殺される。これが当然のことだからだ。
「色々と影響されたのだよ、とある者に。—————それに、御前はただ戦いたいだけの為に戦を起こしたのではないだろうからな」
「……流石、理解していたか」
「……おまえは、私を〝覚醒〟させようとしたのだろう?だから私が戦意を起こすよう仕向けた」
「そういうことだな」
皇の覚醒。
それは〝鵺〟の一族が決して敗れることのない神話への序章の始まり。
「……ならば、おまえは私が覚醒する為の手助けをしただけだ。安心しろ、轟風も兵も誰も殺しておらぬ。安心しろ」
「……そうか。流石、あざといな」
雅がフッ、と口の端を上げて微笑んだ。
「歓迎いたします、ようこそ〝鴉〟の地へ—————我が主」