複雑・ファジー小説

Re: 童話の国のアリス 第Ⅴ章 ( No.13 )
日時: 2012/05/03 00:35
名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)

第Ⅴ章〜真っ赤なアルス

「私は女王に従いません」

「なぜ」

「私そこまで弱くないと思うの。根拠はないけど…なんだか女王様に頼らなくてもいい気がするんです」

アリスはまっすぐ前を見て堂々と女王に自分の意見を初めて言った。いつも学校で他人の意見に流されてしまうアリスがだ。

女王は下唇をギリリと強く噛んで、 口を開く。

「まぁ、予想はしていた。占いでな」

「占いですか?」

女王はやれやれと鼻で小ばかにしたようにフッと笑うと、女王は大きな声で家来の蛙に命令を下した。

「タルトをもってこい!」

「御意でございます」

そういうと蛙の家来は手を二回合わせてパンパンと音を鳴らす。
すると後ろの白いドアからワゴンを押すエプロンに<10>と書かれたメイドがタルトと真っ赤なベリーの匂いがするジュースを載せて運んできた。
メイドは女王の横にある小さなハートのガラステーブルの上に置き、またワゴンを押しながら退室していく。

「タルト占いだ。知っているか?」

「いいえ、まったく」

アリスは興味深そうに女王のタルトを見つめる。

女王は苺とベリーのシロップが贅沢に載せられたタルトに金の小さなフォークをさくりと入れ、小さな口にぱくりと運んだ。

「———…うむ…まぁ、そういうことだ。今日はわらわの勘がさえている日だ」

「結局勘じゃな…」

アリスははっとして口を両手で押さえた。
またさっきみたいに失言して「打ち首」なんて言われたら本も子もないのだ。

女王はジュースを飲み、ガラステーブルの上に置くとまた喋り始めた。

「まぁ、お前はわらわに従う気が無いのだな」

「ええ、とっても」

「お前に紹介してやろう。入れ!<アルス>!」

女王の甲高い声とともに王座の後ろにある幕から出てきたのは、黒のポニーテールにウサギのような赤いカチューシャ。アリスそっくりな赤のエプロンドレス。
これじゃぁまるで…まるで——

「真っ赤なアルス…とでも名づけよう…」

女王はニヤニヤ嬉しそうにニヤつく。
アリスはアルスを見ると目がばっちりあった。
アルスの眼は光がない赤黒い<球>でしかなかった。なんだか暗い過去がありそうな…そんな瞳だ。
アルスはアリスの存在を確認すると、ぷいっとそっぽを向いて女王様を見つめる。

「その子はわらわのアリス役。またはお前らの<敵>とでも言おう。その子はわらわの願いをかなえてくれるのだ。お前を殺してでも…または自らを四肢切断されようが従うようにしてあるのだ。」


アルスは光無き<球>で女王をじっと見つめる。
「従うように<してあるのだ>」…アリスはこの言葉がどうしても引っかかった。じゃぁ元のアルスはもっと明るい子なのか。または望んで「そうされた」のか…



どちらにせよ少しぞわっと鳥肌が立った。


「あの…一つ良いですか?アルスさんがどこで<女王様の願いをかなえる行動>をしているか私に教えてくれるのですか?」

アリスは恐る恐る女王に尋ねる

「そやつに<さん>をつけるほどのやつではないぞ!それとなぜ<敵>に教えなきゃならないのだ!」

雷のようにぴしゃりといわれてしまった。
その時ずっと石のように黙り込んでいたジャックが口を開いた。

「城の南の奥の奥に住む<青い芋虫>の所へ訪ねなさい。彼が最低限の事を教えてくれます。」

「ジャ…ジャック!何を言っているのだ!」

勝手にしゃべるジャックに驚き女王が焦ってジャックのマントをグイッとつかむ。

「おや女王陛下、これくらいの情報は良いでしょう」

「く…」

女王は口をとんがらせてアリスたちには見せない駄々をこねるようにジャックのマントから小さな手をゆっくり放した。

「しょ…しょうがない。南の森にあるブルーキャタピラーの森に行くのだ。やつは敵でも味方でもない。言い過ぎるとやつの首を刎ねるようにしてある。青い預言者だ。」

そういうと女王はぴょいと王座から降りて王室を出ていく。
ジャックもそのあとをついていこうとしたとき


「——ねぇ!アドルフ!」

ハッターが切ない声をだして知らない名前を叫ぶ。
そのときジャックが一度だけぴたりと足を止め…またすぐに王室を後にした。

ハッターはなにを考えているのか、その場にしばらくたたずむ。





「いくぞ、アリス」

「でも…ハッターさんと三月ウサギさんが、」

「三月がハッターをそのうち連れて行くだろう。」


チェシャ猫はさっさとアリスの手を引いて城を後にした。
あのいつものおどけた「にゃぁ」という語尾が珍しくついていなかった。





それから三月ウサギとハッターが出てきたのは数十分後だった。