複雑・ファジー小説

Re: 童話の国のアリス 第Ⅶ章 ( No.24 )
日時: 2012/04/29 21:45
名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)

第Ⅶ章〜時間仕掛の白き護衛 前

「10分と23秒の遅刻ですよ。チェシャ、貴方がいながらこれはどういう事ですか?」

白い燕尾服を着て、金のモノクルをしたうさぎが不満そうに金の懐中時計を二人へ見せる。

アリスたちは、女王の城からずいぶんと長い道のりを歩いてきたので疲れきっているのに、お茶会へついて第一声が「おかえり」ではなく「注意」だったので、アリスは苦い顔をした。
チェシャ猫は余裕そうにこんな状況でもにやりと笑って優しいピンクの色したマカロンをぽいと口へ放り込んだ。

白うさぎは不満そうに眉間にしわを寄せながらチェシャ猫をぎろりと睨むと一つため息をついた。

「はぁ…まぁよろしい。二人とも席につきなさい。」

白うさぎはそういうと温かい紅茶に口をつけた。

ハッターはあんなにお喋りだったのに今はだんまりと黙って姿勢よく席についていいる。

三月うさぎなんかは緊張しているのか正に「がくがく」と体を震わせて、手に持っているティーカップの紅茶ががジャバジャバと音を立てて時折こぼれたりする。

言うまでもないがヤマネはぐっすりと眠っている。時々体がびくりと動いたり、小さく寝言を言っているようだ。

アリスは重々しい空気を読んでそそくさと椅子の引きずるような音をたてないように席へ着いた。
チェシャ猫はどこまでマイペースなのか、ゆっくり席へ着いたかと思うと、もつれるようにだらしなく座って、チョコチップのクッキーをつまむと足を組んで、またにやりと笑う。

流石に幼いアリスでさえも足をしっかり閉じて座っているのに、チェシャ猫の態度は誰が見ても悪かった。
白ウサギも眉間にさっきよりも深いシワを寄せて、何かを抑えるようにまた話始めた。

「……私はハートの城から派遣されました白うさぎです。」

「あ…えっと私はアリスです。」

「存じております。」

アリスはすこし恥ずかしくなってしまい、自然と背を猫のように丸めて、ごまかすように苦く冷めた紅茶をごくごくと飲み干した。

「さて、本題に入ります。まずはこれを。」

そういうと白ウサギの椅子の下に置いてあった黒革のトランクケースから巻物のような手紙を出したかと思うと、散らかった長いテーブルにそれを広げて音読し始めた。

『アリス殿。お前を我が国の敵と正式に決定いたす。これは実に面白いことである。お前がどこまで頑張ってどこまで落ちるかわらわは見てみたい。白うさぎをお前の忠実な護衛に任命した。なんでも好きな命令を下すといい。せいぜい頑張るのだな!』

女王が書いたのか字は酷く踊っているようにバランスが悪く、だが実に女王らしい文だった。

「国の敵だってにゃぁ〜」

「黙りなさい 猫」

「グルルルル…」

チェシャ猫はじとーと白ウサギをにらんで机に顔を伏せてしまった。

アリスは心配して何度も様子をうかがうが、白うさぎはそんなことお構いなしにまた黒革のトランクケースをがさごそとあさり始めた。






「では次に…契の指輪を」

そういって白うさぎは席からぴょいと降りると手に何かを持って丁寧にアリスの右薬指へはめる。
指輪は白銀のリングに小さな微かに青いダイアがはめてあった。

「今ここに契約いたす」

そして白ウサギは指輪のダイアに優しくキスをした。
アリスはいきなりの事でビックリして顔が真っ赤に熱くなったが、アリスの指輪の薬指のほうが明らかにジンワリと熱くなり、指に見えない根を張るように指輪ががっちりとキツくなった。
まるで指輪が「離さない」とつかむかのように。






「綺麗ね…」

アリスがダイアの美しさについ見とれてしまう。

「その指輪のダイアは貴方の<心>を鏡のように正確に写し出します。貴方が高みを目指す挑戦の勇者の心を持つほどダイアは色を増して、力も強くなります。逆に欲に溺れた迷いの少女になってしまうとダイアは闇の色に化し、石ころ同然の価値に値します。」

「きーらーきーらー…ひーかーるぅ…あーなーたーのー薬指ぃ…」

ヤマネが眠気眼をこすりながらぼそぼそつぶやくとまた気を失うようにおでこを机にぶつけながら眠ってしまった。



「アリス、その指輪はただのアクセサリーではありません。それはあなたの武器になるのです。」

「武器…?」

「右手を胸にかざして集中してみてください。ためしに出してみましょう。」

白うさぎがニッと口角を上げて手振りをして説明し始めた。
アリスもそれにつられるようにそっと試に真似をしてみた。

「こう…?」






その瞬間、胸と手の甲の間から凄まじく明るい光がアリスを包み込んだ。とても不思議な感覚だった。

そうすると、手の甲に何か固い棒が当たった。アリスは無意識にその棒を強く引いてみると、まるで<心>が抜かれるかのような、何か軽くなるような経験したこともない感覚になった。

息が苦しい。
吸いたいのに深く息を吐いているかのような息苦しさだ。

ズズ・・・ ズズズズズ・・・…




  ズズ・・・


 ズズズ・・・






「うぁ…あ!」

それがすべて抜けると、一気に止めていた呼吸をするかのような解放感がした。