複雑・ファジー小説
- Re: 童話の国のアリス 第Ⅷ章 ( No.37 )
- 日時: 2012/04/29 21:54
- 名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)
第Ⅷ章〜ワンダーゲートの先には… 前
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「遅れました!」
白ウサギが金の懐中時計から息を切らしながら走ってきたアリスとチェシャ猫に目を横目でじろりと見た。
アリスは乱れたスカートとブロンドの髪を手で素早く整えて、ゆっくり息をした。
チェシャ猫はぼさぼさの髪をガリガリとかいて眠気眼をこする。
口にくわえた真っ赤なイチゴジャムの乗ったトーストをゆっくり食べ始めた。
「5分前行動ですよ。」
「ったく、うっせーにゃぁ〜。」
そういうとチェシャ猫は両手を高く上げると、ジャラジャラと金の銃弾が雨のようにコートから落ちた。
「うぁっ」
そしてコートの中から長いライフル銃を取り出すと、それを片手でアリスに向かって投げたのだ。
アリスは見事にキャッチしたが、そんなことに興味を持っていないように、だるそうにしゃがみこんで落ちた銃弾を一個ずつ拾い始めた。
そしてお礼も言わずにアリスからライフル銃をとると、慣れた手つきで銃弾を入れ始めた。
「チェシャ猫。それは前もって準備するのが常識なのでは?」
「だぁーから、前もって今してるんだっつーの。にゃーアリス〜」
「え…う…うん。」
いきなり話に振られたアリスは慣れていなかったので動揺のせいか目をあちこちと泳がせて小さな声で返答した。
それに不満なのか白ウサギはまた眉間に深いシワを寄せて、お気楽に笑うチェシャ猫を睨む。
「…はぁ、では、青い芋虫の所へ行きますよ。」
アリスとチェシャ猫は白うさぎの後ろについていき、青い芋虫がいる森へ入って行った。
今日も不気味なのだが、やはり木々の隙間から漏れる日の光が幻想的に道を案内する。
大きなキノコに大きな花。不思議な昆虫。
此処にいればいるほど、自分はおかしな世界へ来てしまったと実感する。
今日はすぐにあの青い煙が三人を案内するように漂ってきた。
その煙に導かれるように手で煙を避けながら歩いていく。
しばらく歩くと、森の中の広い空間に着いた。
また前にあった日とまったく変わらなく、大きな緑の葉っぱに座りながら水煙管をふかしていた。
青い芋虫は三人をじとりと見ると、偉そうにこういった。
「きょうは何の御用かね。」
白うさぎは冷静に、聞こえるように大きな声で言う。
「ワンダーゲートのチケットを9枚欲しいのだ。」
「味方でもないやつにか…はっはっ、女王にばれたらわしは消えてしまう。」
白うさぎはチッと小さく舌打ちをしてまた眉間にしわを寄せた。
どうやら青い芋虫は渡さないようだ。
そんな状況でチェシャ猫は大きなあくびを一つついた。
それと同時にアリスは何か思い出したかのように、水色のスカートのポケットから丸い物を取り出して、青い芋虫に見せた。
「あの…これとチケットを交換しませんか?」
アリスの手にはガラス玉みたいに透き通ったグリーンのキャンディーだった。透明な包み紙に入っている。
グリーンキャンディーはエメラルドのように光を放ち、青い芋虫の眼をクギづけにした。
「むむ…これはなんなのだ」
「キャンディーです。甘くっておいしいのですよ?」
「ほぅ…これは食べ物なのか…もったいないな。」
青い芋虫はキャンディーを受け取ると、それを目の近くへ持っていきじっくり見たり、日の光に透き通らせてみたりした。
ずっと老人のように落ち着いた青い芋虫がやっと子供のように見えた。