複雑・ファジー小説

Re: 童話の国のアリス 第Ⅸ章 ( No.48 )
日時: 2012/04/29 22:00
名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)

第Ⅸ章〜硝子の棺に眠る白き雪

ゲートをくぐると、3人は薄暗く深緑のひんやりとした森の中に立っていた。
奥の木々のあいだからは小さな小屋と、水車が穏やかにくるくると回っているのが解る。
あそこが白雪姫の居る小屋なのだろうか…

「あの小屋に白雪姫がいるの?」

「そのようですね。時間を無駄にはできません、早いとこ行きましょう。」

白うさぎを先頭にして、アリスは眠そうに目をこすチェシャ猫の腕を引っ張りながら後をついていくのだ。

森を抜けて、少し湿った土の上をちょっと歩くとあっという間に白雪姫の小屋に着いた。
近くで見るとなお古さを感じさせ、小屋の所々に小さな隙間があり、その隙間からは中の様子をのぞけた。

アリスはその隙間に目を近づけて中の様子をのぞいてみることにしてみた。
中は小さなホコリまみれの窓からの小さな光が薄く差し込め、全体的に埃っぽい。蜘蛛の巣にホコリがくっついて、しばらく人がいないのを一目で確認できた。

「だれもいないわ?」

ふむ・・・とアリスは顎に手を当てて、指でトントンと顎を無意識に軽くた
たいた。此処にいないということはどこかに出かけているという事だろうか?

「おーい!白雪の姫さーん、どこだにゃ〜。」

チェシャ猫が口元に手を当てて大きな声で呼んでみた。
すると、小屋の後ろから小さなひそめくような声が聞こえてきたのだ。
それは数人のようで、何かを話しているようだ。




「イ…イマノ誰ダ?!」

「もう王子様のお出ましか?!予定と全然違うじゃねェか!!」

「あぁ!こまった!こまった!」

「みんな落ち着け!」



がやがやひそひそと聞こえてくる声、その声が聞こえる方向へと向かってみることにした。なるべく足音を立てないように息を殺し、小屋の角から見てみることにしてみた。

そこには不思議なことに、見たことのない中年の小さなおじさんが7人いて、彼らはみな色違いの服を着て、棺の周りであたふたしているようだ。
アリスはどうしていいのかわからず、試に声をかけてみることにした。

「あのぅ…。」


≪ひぎぃぃぃ!!!≫


アリスの小さな声にもかかわらず、小人たちはいっせいに悲鳴をあげてアリスたちの居る方向へと目を向けた。
目を真ん丸にして棺の周りに密集しておびえているようだ。

「オ…王子様か?!」

「ちがうあの子は少女だ!」

「後ろの二人は?」

「白いうさぎはあり得るが、猫のような男は確実に違うだろぉ。」


チェシャ猫はにたりと笑うが、勘に触ったのか目は笑っていない。


「おめぇらはハートの女王の使いか?なんてこったぁ!!」


小人たちはパニックになってしまい、大きな声を出して叫んだりそこら辺を走りまわったり、ついにはガラスの棺に頭をぶつけて気絶する者も出るほどだった。

「黙りなさい、愚民共。」

白うさぎの怒りかかった声に反応して、小人たちは同系色順に棺の前に一列へと素早く並んで口を閉じる。

「あ…あの…私たちはあなたたちを助けに来ました!…だから…ど…どうしたんですか?」

人前に立つのが何よりも苦手なアリスは、顔を赤くしてすぐにチェシャ猫の後ろに隠れてしまった。



「女王の使いじゃないなら教えてあげよう!」

「僕たちは白雪姫の王子を待っているんだ!」

黄色の小人が指さす先にはガラスの棺があった。
アリスはその棺を見に行くと、そこにはまるで雪のように透き通る白い肌。優しいピンクの頬。つやのいい黒髪。
だが唇はまるで死人のような薄く健康的じゃない色をしている。


「本当は王子様のキスだけじゃ起きないんだぁぁ」

「そう!<ローズディーテ>の唇の血で作った<ブラッド・リップ>を姫に塗った状態でキスをしないと目覚めないのだ!」

「サナムザ草にココマラ花、メギシノノ実・・・薬草はすべてそろっているんだ!あとはその化け物だけさ」

「<ローズディーテ>の血さえあればすぐにできるんだ!お願いします!そいつの血を取ってきてください!!」

まるで神頼みのようにすがるオレンジ色の小人。
両手を合わせてひざまついた。



「つまり俺らがその何とかディーテをぶっ殺せば良いって事か?」

「そうだ!それさえあれば20分でできる!」

赤の小人が足をバタバタさせて頭をガシガシとかいた。

「眠ってから何日ぐらいですか?」

「ち…ちょうど今日で二週間です…うぅ」


アリスはガラスの棺に手をかけて、姫を覗き込んだ。
眠ってから二週間とは思えないほどの美貌。
周りに添えられている花にも勝る上品さ。


「アリス。ローズディーテを倒しに行きましょう。」

白うさぎが声をかけた。
いつものアリスなら少し困るのだが、白雪姫の唇を見るたびにほっとけなくなってしまった。
だけど…野獣はおとぎの話でしか見たことがない。
きっと痛い思いだってする。殺さなきゃいけない。

アリスはここまで来たらもう進むしかないと思った。だから恐かったが、こういった。








「…はい!」































「————さぁ、行こうか黒うさぎ。」

「あー!待ってよ!アルスぅー!」

「ク…アリス…思お前にだけは負けないぞ…。」





続く。【白雪姫 前】