複雑・ファジー小説

Re: 童話の国のアリス 第Ⅹ章 ( No.54 )
日時: 2012/04/29 22:02
名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)

第Ⅹ章〜真っ赤なガーデン

アリスたちは小人から「ローズディーテ」の巣である「ローズガーデン」の地図をもらい、ガーデンの入り口である薔薇の花が巻きついたアーチの前に来たのだ。
さっそくガーデンへ入って一歩め、不思議なことが起きたのだ。

「ここ…とっても不気味ね…。」

そう。入るまでは太陽が高く上っていた「昼」だったのだが、ガーデンの中は薄暗く、灰色の空に重々しい空気。まるで別世界だった。
日の光が差し込まないにも関わらず、薔薇はまるで鮮血のように鮮やかすぎる赤に咲き乱れているのだ。
そのよこで白のペンキが剥げかかっている天使のオブジェがこちらを寂しそうに見つめている。

「何か聞こえるにゃぁ〜」

チェシャ猫の声でアリスが耳に手を当てて静かに口を閉じると…





奥から狂ったバイオリンの音が聞こえてきたのだ。

とても不気味だ…


そのキィキィという音がする方向にはローズガーデンの奥へと続くピンク色のタイルが敷かれている。


アリスたちは奥へすすまんと一歩。また一歩とゆっくりタイルの上を慎重に歩いていく。
ただひたすら薔薇、茨に薔薇のアーチ。狂ったバイオリンとガァガァと烏が鳴く。



ガーデンの中心部である広い空間につくと、そこにはガーデニングテーブルに白いティーカップ。
横には薔薇の髪飾りをした黒髪の三つ編みをした黒いワンピースの少女が車いすに乗りながら、ぎこちなく傷の目立つバイオリンを弾いていた。

少女の手によってバイオリンが悲鳴に似た金切り音を鳴らす。
少女の瞳は長い前髪で隠れており何を考えているか解らなかったが、何を思ってその音を鳴らしているのか。






「バイオリン…弾けないの…?」


アリスは少女に尋ねた。
もしかしたら弾けないのかもしれない。お手本を見せてあげようと思ったのだ。
少女はバイオリンを膝の上に置いて、アリスの方へ顔を向けた。一言もしゃべらず。

実は去年までお父さんの勧めでバイオリンを教わっていたのだ。
アリスは少女の膝から優しくバイオリンを手にとり、少女も知っているであろう「きらきら星」を弾いて見せた。



バイオリンはアリスに弾かれて嬉しいと言わんばかりの流れるような美しい音色を奏でる。

アリスもすっかり上機嫌になり、少女を横目でちらりと見ると、少女は何も言わなかったが、微かに口をゆがませ

「あなたのココロ…」

と小さく呟いたのだ。
アリスはこれに気分が覚めて、ぴたりと演奏をやめて、また少女の膝に置いた。

「なにか悪いことしてしまったかしら?」

アリスは心配になり、少女をの顔を覗きこんでみるが、少女は何も言わずにただうつむいているだけだ。