複雑・ファジー小説

童話の国のアリス 第11章 ( No.58 )
日時: 2012/04/29 22:09
名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)

第11章〜薔薇と雪と少しの薬

「え…い…いや!」

アリスは目を丸くして手に握ってある剣を手から落とした。
剣はガシャンと思い鉄の音を響かせた。するとどうした事か、剣は弱々しい光のように薄くなってきたのだ。

「何をしているのです!アリス!」

厳しく怒鳴りつける白うさぎにおびえ、その場にアリスは座り込んでしまった。

「私…人なんて斬れないわ…」

「あれはローズディーテです!怪物なのですよ?」

「でも…できないわ…」

声が震えている。
まるで幼稚園児のようにその場から動こうとせず、ただじっとその場にうずくまって地面を見ているアリス。

「早くしろって!」

容赦なくこちらに攻撃してくるローズディーテの茨のツルを何度も何度もライフル銃でチェシャ猫が撃つ。
それでもなお凄い再生力で何度も何度も攻撃してくる。
チェシャ猫が持つのも時間の問題だ。

「そんな生ぬるい気持ちでここまで来たのですか?」

白ウサギが落ちた剣を思いっきり踏んづけた。
剣は薄いガラスのようにもろくもパキンと一瞬にして割れてなくなってしまった。

「ふむ…まぁよいでしょう。どちらにせよアリスが剣を持たない限り物語は進みませんね。さぁ決めなさい。そこで丸くなって皆で命日を迎えるか、ページをめくるか。」









「うぅ…わかってるよぅ…」

そういうとアリスはゆっくりと立ち上がって「ふぅ」と大きく息を吐くと、濡れたまつ毛をごしごしと服の袖で拭いて眉をギュッと寄せた。

「大丈夫。きっとできるわ。」

そう自分に言い聞かせるように唱えると、右手を大きく開いた。
指輪がきらりと強く輝き手にはあの剣がしっかりと握られている。
足はがくがく震えているが、剣は勇ましく剣先を輝かせている。




「ハっ ずいぶんと遅かったな!」

アルスが嘲笑うように鼻で笑った。

アリスは唇をギュッとかみしめる。
足から手先にかけて今まで感じたことの無い力が湧いてくるのだ。やがてじんわりと手足が温かくなってきた。

「フ…ローズディーテ!行け!」

その言葉にローズディーテは大きな顔をぐるりとアリスのほうへ向けると、大きな茨のツタをぶんと振り上げた。

「きゃぁ!」

ズドンと大地を揺るがす大きなツタ。
だがどこにも痛みを感じないし、爆風すら感じられない。アリスは固く閉じたまぶたを小さく開けてみると、すぐに理由がわかった。

だってアリスは空中にいるのですから。

すぐ目の前にローズディーテの大きな口。





「いやああああああああああああああああああ」





重力がアリスの小さな体を真下へおとし、耳元で風がゴォゴォと鳴り響く。
パニックになったアリス、やみくもに剣を振り回すと、運よくツタを切り裂いた。

「ギャァァ!」

とローズディーテが悲鳴を上げる。だがすぐにょきにょきと新しいツタが生えてくるのだ。これではキリがない!


「アリス!額のハートを狙いなさい!」

地面に落ちて尻もちついたアリスになんて構わず、白ウサギは大きな声を上げて指示をした。
体の痛みをこらえて腰をさすらながら立ち上がると、今度は助走をつけて思いっきり飛び跳ねた。
アリスの体は空気を切って、ローズディーテの頭の上まで高く飛んだのだ。



そのとき、またあの大きな茨のツタがアリスめがけて振り落とされようとしていた。

「ヒィ!」