複雑・ファジー小説

Re: 童話の国のアリス 第11章 ( No.59 )
日時: 2012/04/29 22:10
名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)

第11章〜薔薇と雪と少しの薬

するとアリスの柔らかい頬に何かかすったのだ。
それは茨のツタを打ち抜き、額のハートにあたったのだ。ハートはピ尻と二つの亀裂が入った。

「アリス〜しくんなよ〜」

チェシャ猫の声でまた剣をしっかりと持ち直して大きく振りかぶった。
そして思いっきり剣をハートめがけて斬った。ハートはぴしりと音を立ててもろくもかけらが飛び散った。

アリスが地面に着地すると、ローズディーテは

「ぐぉおおおおお」

と悲痛な断末魔を上げて巨体をドシンと崩れるように倒れこんだ。
地震のように大地が揺れ、強い風がアリスを吹き飛ばそうとしてくる。

「く…!」

アルスが左手の金の指輪を赤く輝かせて、左手からアリスと同じ形した黒とルビーのような宝石が入った剣の剣先をアリスに向けた。

「アルス!だめ!僕アルスがキズつくとこ見たくない!」

「————っ 次は上手くいくと思うな!」

手から剣を消して黒ウサギとアルスは薔薇のアーチから一瞬にして姿を消した。

アリスは目線を下に向けると、そこには額から血を池のように流すローズディーテ。


「さぁ、鮮血を取るのです。」

白ウサギが内ポケットから取り出したのはコルクのついた透明なガラスの試験管と、シンプルなナイフ。

「私…」

「なんですか?」

「うぐー!」

しゃがんでナイフを真下に思いっきり下すと、なにか柔らかいものを貫通した。左手で目を隠しながら、右手で試験管の中に鮮血を入れた。そうしてちょうど真ん中ぐらいでコルクを閉めた。


「まッ赤っかにゃあ〜」

「あ!」

ふらふらとチェシャ猫が近づいてきたかと思うと、素早くアリスの手から鮮血の入った試験管を取った。
試験管を眺めたり日の光に当ててみたりしている。



「あの子…可哀想…。」

「なぜです。」

「だって、私がバイオリンを弾いたとき小さな声で「あなたのココロ」って、もしあのバイオリンの音色が私のココロだとしたらあの子が引いてたあの狂ったような金切り音はあの子自身のココロだったのよ。きっと。」



「あなたは優しいのですね。ただの勇者なら怪物の首を切って高らかに笑うでしょう。 彼女もそのあなたのココロに救われるでしょう。」

「…うん」


そうしてアリスはチェシャ猫に手を引かれながら、あの薄暗いガーデンを出た。
外はもうオレンジ色の夕日が顔を見せていた。

「行きましょう。もうじき王子が来るはずです。」

三人は白雪姫の小屋を目指した。
20分ほどしただろうか。
小屋の近くでは小人たちがお出迎えしてくれた。


「本当に持ってきたぞ!」 「間に合った!」 「救世主だぁ!」


「さぁ、血を渡すんだ!」

アリスはスカートのポケットから血が入った試験管を緑の小人に渡すと、小人たちは急いだ様子でぞろぞろと小屋のへ入って行った。

小屋の中では小人たちが大きな鍋の前で丸くなり、緑の小人が木製の小さな梯子にのぼって大鍋の上に来た。

「ローズディーテの血、薬草と蛙の内臓!」

沸騰しているお湯の中にドバドバとちゅうちょなくほうりこんだ。
そうしてぐつぐつ煮込んでいるとやがてピンクのような色になってきた。
黄色の小人がキッチンの子棚を開けると、黒と金の細かい細工の施されたからのリップケースを取り出した。
それをお玉で上手に流し込む。

「さぁ!あとは5分待つだけだ!さぁアリスたち!椅子に座って紅茶とクッキーはいかがかね?」

アリスたちは椅子に座って小人たちが持ってきたクッキーと紅茶をつまんだ。

そうしてあっという間の5分。
窓の外からひずめのような音が聞こえてきた。

「おお!ナイスタイミングだね!みんな外へ行こう!」

急いで外へ出て青の小人がガラスの棺に眠る白雪姫の唇に丁寧に口紅をつけた。



「お前も早く隠れろぅい」

紫の小人に腕を強く惹かれて隠れた木陰。

王子が現れた。
白馬から降りるとブロンドの髪をかき上げて——…

「え?」

アリスの司会は突然真っ黒。目元に手を当ててみると長い爪、大きな手。

「お前にゃまだはやいな。」

「チェシャ!もう私10歳よ?」

「まぁだ10歳かにゃ〜」

視界が明るくなったのはもう姫と王子がキスをし終わった後。

白雪姫が王子に優しく起こされて頬は淡いピンク色になっていた。
見ているこっちが幸せな気分だ。

「あら!あなたたち!」

白雪姫の声で小人たちは白雪姫に駆け寄っていき、一人ひとり頭を撫でてもらっている。
そうしてアリスたちの存在に気がつくと、咲き乱れる花のベッドから降りて、アリスのほうへ寄ってきたのだ。
そうして白くて柔らかい手を両手でアリスの小さな手を包み込んだ。

「あなたたちのおかげね!有難う、貴方は良いアリスになれそうよ!」

雪のような純粋な笑顔。
白雪姫が優しく頭を撫でてくれてアリスは少し顔を赤くした。


「さぁアリス、帰りますよ。」

白ウサギが足を向ける方向には初めに入ってきた「ワンダーゲート」がいつの間にか立っていた。

「あなたたちも有難う」

白雪姫が手を振ると、小人と王子も手を大きく振ってくれた。
アリスも手を振って、ワンダーゲートの金のドアノブをひねった。
そうして中へと入って行った。


初めて童話の人に会った
 初めて斬った
  初めて感謝された


アリスの気持ちは雪のようにふわふわ軽く
林檎のように赤く丸い