複雑・ファジー小説

Re: 童話の国のアリス 第12章 ( No.63 )
日時: 2012/04/29 22:03
名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)

第12章〜ハートの招待状

「ア〜リス〜!」

「うわぁ!」

ワンダーゲートをぬけるといきなりマッドハッターがアリスをギュッと抱きしめた。
いきなりの事で苦しいと、アリスはハッターの腕を3回たたくとようやく腕を放してくれた。

「よかった!無事で!…って、頬どうしたの…?!」

「え…いた!」

頬に手を当てると、鋭い痛みが頬を伝った。
指先には赤い血がべったりとついている。
あぁ、きっとローズディーテとの戦いのときにチェシャ猫の打った弾丸が頬をかすったからね。とすぐに解った。

「この手当の無さ、鋭いキズ、…チェシャ猫の銃弾だね?…この野良猫!」

「ちょっとはオレらにも何か温かい言葉言えよ!」

「まったく。ロリコンですか。」

チェシャ猫と白ウサギはご機嫌ななめ。
そういうと二人は古い椅子に腰を掛け、チェシャ猫は汚れた皿に盛りつけられたラスクを一つ齧った。
そう、ワンダーゲートの出口はマッドハッター達のティーパーティーにつながっていたのだ。

「まぁまぁ二人ともこれを見てくれ!」

ふわりとステップを取って椅子に腰を掛けると、胸ポケットから取り出したのはピンク色のハートの厚紙。
それを白ウサギは何も言わずに取り上げて読み始める。

「アリス殿。今日の月時間7:00から女王の城にて素敵なパーティーを開きたいと思っています。どうぞとびきりのお洒落をしてお仲間様とおこしください。」

(月時間〜この世界では午後の事を月時間と言うそうです)

「まぁ素敵ね!その月時間…?の7時まで時間がありそうね♪」

アリスは飛び切りの笑顔になった。
今までパーティーと言っても友達が少ないアリスには家族だけの小さなパーティーが精いっぱいだった。
お城のパーティーなんてホームパーティーの何百倍も豪華なのだろう。

「ふむ…女王からなら仕方がないですね。」

「決まりだね!アリスこっちに来て!」

古い椅子からぴょいと降りてハッターのもとへ駆け寄った。

「さぁ、よく見ておくんだよ。」

そういってどこからともなく取り出したのはグラデーションのある青い布と真っ白な布の二枚。それを両手いっぱいに広げると、目にもとまらぬ速さでハサミでチョキチョキ、待ち針を何本か刺して小さな針で丁寧に縫っていく。

するとただの大きな二枚の布だったものがハッターの手によって、胸元に大きな青いリボンとファーがついた二段のフリルドレスが出来上がった。

「わぁ!ハッターさんはお裁縫上手なのね!」

「まぁね!さぁアリス!今すぐ着替えるんだ♪」

満足そうに微笑むハッター。自分が何を言っているのかわかっているのだろうか。

「え・・・あの…」

「おっと失礼!あそこの茂みなんかちょうどいいんじゃないかい?」

ハッターの指さす方向の奥には好き放題伸びきった緑の雑草畑。長さは大体アリスの胸元あたり。ドレスを持って茂みの中に入って行った。

「お前ホント大丈夫かよ。」

「水銀の取りすぎですよ、そのうち死んじゃいますよ」

白ウサギとチェシャ猫の声が聞こえる。
アリスはあまり待たせないようにできるだけ早く着替えた。

サイズはぴったり、胸元のリボンの高さにスカート丈、サイズを教えた覚えはないがハッターは相当裁縫上手なのだろう。
アリスは茂みからでてハッターのもとへ向かった。

「おお!よぉくにあってるよアリス!さぁ、これも履いて!」

そういってアリスはハッターの手から白いニーハイと銀のかわいらしい靴を受け取った。
チェシャ猫の隣の空席に座ると、ニーハイと靴を履く。
やっぱりニーハイも靴もサイズがぴったり。



「初めてドレス着たわ!」

「えぇ、とてもよく似合ってますよ。」
白ウサギは微笑んで褒めてくれた。

「まぁまぁだにゃ〜」
チェシャ猫はニヤニヤしながら天邪鬼に笑う。



「僕も頑張って作ったんだから褒めてよね!」

「あーはいはい、凄いですね。で、三月ウサギとヤマネはどこへ?」

白ウサギはアリスを褒めたときとまったく違う怖い顔をして尋ねた。
たしかにいつも騒ぎ散らしている三月ウサギと眠っているヤマネがいない。

「あぁ、三月ウサギは女王のお魚家来から直々に「パーティーを滅茶苦茶にするかもしれないから今日限り出入り禁止」って言われてヤマネを引っ張ってどこかに行ったよ!」



アリスは内心ホッとした。
実は前ここに来たときに、三月ウサギが大声でわめいたり角砂糖を投げてきたりと、アリスにはトラウマになってしまったのだ。
にしても三月ウサギに連れてかれたヤマネも気の毒なものだ。


「ていうかお前女王嫌いなのにやけに気ぃ入れてんな。」

そういいながらもちゃっかりコートに金の金具のブローチや十字架、鎖といった装飾品を何個かつけているチェシャ猫がハッターに尋ねた。

「女王は嫌だけどアドルフに逢えるからね!」

満面の笑みでシルクハットについている長い羽や飾りを手入れしている。

アドルフとはだれか解らないが、城に着けばわかるだろう。とアリスはアドルフの事を聞かなかった。



白ウサギは方にかけている金の大きな懐中時計を見た。
時計の針は6:40。

「さぁ、皆さん行きましょう。」

「はぁい!」

アリスは白ウサギの所へ駆け寄った。


「まったく、あいつは時間に厳しいにゃ〜」

そう誰かがぽつりとつぶやいた。