複雑・ファジー小説
- Re: 童話の国のアリス 第14章 ( No.70 )
- 日時: 2012/04/29 21:49
- 名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)
第14章〜トカゲと芋虫と預言
城の中を行ったり来たり、まったく、厨房がどこにあるかがさっぱりわからない。
早くしないとチェシャ猫が侯爵夫人に食べられてしまう!
そう頭の中でぐるぐるぐるぐる…
「落ち着かなきゃ…落ち着かなきゃ…!」
会場の隅にある薄暗い隅っこを見つけると、アリスはそこで地べたに座った。
するとアリスの背中から小さなうめき声。
「ううぅ…首が…僕の首がぁ…」
びくりと肩を上げると、アリスがよしかかった壁は銀の錆びた扉。
その扉には
<厨房〜関係者以外立ち入り禁止〜>
と消えかかった字で書かれたプレートがだらしなくぶら下がっているではないか!と、そっと扉を開けると中からとてつもない異臭、思わず鼻をつまんでしまうぐらいだ。
さて、中には大なべに小なべ、油でテカテカになっている黒いフライパンと、何も温めていないのにコンの火が強火でついている。
あたりには腐った林檎や切りかけのタマネギ、ぐしゃりと割れた卵が3〜4個床に落ちている。
「まぁ!汚らしい…!!」
「だだだ誰だ!!」
ガシャンと皿が落ちて粉々に割れる音とともに、奥から出てきたのは二足歩行の緑色したトカゲ。しかもコックの服を着てあの長いボウシまでかぶっている!
アリスはゆっくり扉を開ける、トカゲはアリスに向かって大きな包丁を震える手で威嚇するように突き出す。
「おぉお前!扉のプププレートが見えなかったたったのかっ!」
「怯えないでください!私はコックさんに頼みごとがあってきただけです!なのでその包丁を下してくださいます?!」
「たのみごと?」
トカゲは少しは落ち着いたのか包丁を下して額の汗ぬぐった。
アリスも命の危機は救われたと大きく息を吸ってなるべく刺激しないようにとゆっくり話すように心がける。
「私はアリスよ、大丈夫…?あなたは何におびえているの?」
「あぁ…僕はビル、この城でコックをしているのさ、実はこのパーティーの最後に出す女王の大好物をそろそろ作らなきゃいけないんだけど…その好物を忘れてしまったんだ…うぅ…。」
目から大きな涙をこぼすと、エプロンでその涙を拭きながらしくしくと語りだす。
「【女王の好物は断じて忘れるべからず】この誓いによって僕らはコックとして雇われているんだ、その誓いを忘れてしまった僕らは時期に首を刎ねられるだろう…今は「僕ら」じゃなくて「僕」だけどね。」
「「ら」の方々は今どこへ?」
「首が飛ぶのを恐れて皆そこの窓から逃げ出したよ。」
そういうと自分で言ったのに怖くなったのか目からよりいっそう涙をぼとりぼとりとこぼしてとうとうエプロンが水浸しになってしまった。
さてどうしたものか…これでは「アリスの頼みごと」どころではなさそうだ。
「あぁ…誰かが女王の好物を僕に教えてくれれば…」
そういいながらもビルが大きな目で見ているのはアリス。何かを言いたげにじっと見つめる。
「もう、しょうがないわね…その代り交換条件しましょう?」
「あぁ、なんだって聞くさ!」
胸をドンと叩いて自信ありげに胸を張る。
「侯爵夫人の好物、胡椒と豚を使った料理を作ってくださる?」
「それだけでいいのかい?お安い御用さ!」
するとビルは【倉庫】と書かれた扉の中に入って行った。
アリスも好物を聞きに行こうと【厨房】を出た。
「ヒ!!」
「主か。」
扉の前に立っていたのは青い芋虫。なぜ青い芋虫が厨房の前に!
驚いたあまりアリスはよろけてしまった。
そんな態度が気に入らないのか青い芋虫は口をとがらせる。
「なんだ、主のその態度は。」
「すみません…青い芋虫さんはどうしてここに?」
「イチゴを一つもらいに行こうと思うてな」
「は…はぁ…」
それから沈黙。
何を話していいのか、青い芋虫も前をどけようとしない。
たった2分弱の沈黙がアリスにとっては一世紀たったような感覚。
「主は何をしに厨房なんぞへ入って行ったのだ?」
「え…あ、いえ、少し女王の事で…」
「ほぅ…では女王の事でよいことを一つ、教えてしんぜよう」
「本当なの?!」
「だが、タダでは教えぬ」
そうして青い芋虫はアリスに小さな両手を何かをねだるように向けるのだ。そうして顔を少し赤くしてこういった。
「あの不思議な甘い水晶玉を一つよこすのだ!」
水晶玉…水晶玉…ああ!とアリス。
ポケットを探ると、小腹用に持ってきた苺味の飴玉を見せた。そういえば前にメロン味の飴玉を上げたときも感動していたっけと思い出した。
「これの事かしら?」
「うむ…」
と少し満足げに笑って飴玉を受け取り大事そうにポケットの中に入れた。