複雑・ファジー小説

Re: 童話の国のアリス 第16章 ( No.91 )
日時: 2012/06/17 23:14
名前: 竹中朱音 (ID: hsews.TL)

第16章〜クッキング・タイム

「君は卵とか生クリームをかき混ぜることぐらいはできるだろ?」

「うーん…たぶんできると思うわ?」

ビルはニコリと笑って銀色のボウルの中の白い卵を一つとってそれをアリスの前に置いた。

「さぁてと!ではこの卵を割ってもらおう!」

そんなの簡単よ!と言わんばかりに卵を手に取るとアリスは卵を勢いよくボウルのふちへ叩きつける。
卵はグチャリと潰れ、黄色と透明な液体がアリスの手を汚す。

「うわぁ…卵は割れると思ったんだけどねー…」

「卵一つも割れないのかい!君は随分と不器用さんだね!」

ビルは棚から新しい真っ白な布巾を持ってきてアリスの手を拭いてくれる。




「しょうがないね、じゃぁベリーを切ってくれるかい?」

「それならできそう!でも保証はできないかもしれないわ」

まずはブルーべリーとストロベリー、ブラックベリーなどがごっそり入った網目のボウルを水で洗った。
そうしてストロベリーをまな板の上に置いてヘタを取るのだ。

くだもの包丁をギラつかせ、ストロベリーに刃を近づける。










           サ ク リ ッ


「痛い!」

反射的にストロベリーを持っていた手を引っ込める。
指からはドクドクと真っ赤な血が少しずつ流れてくる。

「君は本当に何もできない役立たずだな!」

「—————っ、私もう料理したくないわ、頑張って皆の言う事聞いてここまで来たけど、貴方の言う事なんてもう沢山よ!侯爵夫人だってもっと一流のシェフの料理が食べたいはずよ!」

手に着いた血を水で強引に洗うと、アリスは厨房の出口へと向かう。

「ごめん、ごめんよ!言い過ぎた!ほらほら指出しておくれ!」

白い腰に巻いてあるエプロンのポケットから絆創膏を取り出して、それをアリスの指にくるりと巻きつける。


「それではポークソテーなんてどうかな?タルトよりは幾分か簡単なはずさ!」

そうしてビルはまた倉庫に入っていき、大きな豚肉と大量の黒コショウ、ニンジンとジャガイモと緑のブロッコリーを何個か並べる。
そうして長い包丁を厨房の出口の前に立つアリスに握らせた。

「そんなにブーブー言わないでおくれ、君をポークソテーの豚肉と間違えちゃうじゃないか!」

「ブーブーなんて…言っていないわよ」



クスリと笑って目からこぼれそうな涙を手の甲で拭く。
ゆっくりと台所の前に立って、オレンジ色のニンジンを一つ手に取る。

「これを使うといいよ!」

「ピーラーね?」

軽いプラスチックのピーラーを取り出す。
かなり使い込まれているのか、少し取っ手に傷があったり、刃があまり手入れされていないようにも見えた。

今度は慎重に…

       丁寧に…