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複雑・ファジー小説
- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(長くなってきたので目次作りました。 ( No.20 )
- 日時: 2012/02/12 13:23
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
四章:強敵
「あーあー、やっぱりな。オレは反対だったんだよ、新人や獣に人攫いを任せるなんて。おまけに回収役が人間なんて。成功する訳がない。」
ぶつぶつとぼやくその男は、まだ肌寒い季節の夜だというのに茶色いタンクトップに、薄手のスキニー姿であった。
これまた茶色い短髪がツンツンと晴れた夜空に向かって背伸びしている。
年の頃は二十歳そこそこであろうか。
どこか間の抜けた表情といい、面倒くさそうな口調や、いまいち状況とマッチしていないぼやきがどことなく八城と被る。
しかし、八城の場合は完全に緊張感が欠落しているが、この男の場合はどこか深い部分での余裕、自信のような響きであった。
「お前等は回収役じゃなさそうだな。お前等が始末したのか?」
始末した、とは勿論先ほどの獣の事であろう。
ツンツン頭をかき回しながら問う姿も、どこか面倒くさそうだ。
それとなく誘拐されそうになった少女に目を向けたところからすると、やはりこの一連の事件の関係者。
それも、実行犯よりも上の立場の人間なのだろうか。
「黙ったまんまじゃわかんねーよ。オレは恭(きょう)。魔族だ。」
男は面倒くさそうな表情を崩さずに言った。
"魔族"であると。
乃亜と気沼が動いた。
「お、ようやく話す気になったか。」
恭と名乗る男も軽い口調で言いつつ、腕をブンブン回している。
「話すことはない。聞くことはあるがな。」
乃亜の静かな声に気沼が凍り付いた。
そして恭も。
「っく。」
瞳が苦悶する。
乃亜の魔力である。
感じるのだ、魔族や、また魔力の扱いに長けた人間の大多数は魔力を視認できる。
乃亜の魔力は魔族さえ恐れる程の、否魔力とかけ離れた人間さえもを威圧するのだ。
月の輝く晴れた夜の一角を、重く冷たい空気が覆う。
「こいつはスゲーな。アンタ、名前は?」
恭が苦渋に満ちた顔で言った。
これがあの余裕のあった魔族の顔か。
「乃亜。」
答えた、と同時に走った。
空気をも裂く速度で繰り出された拳を恭はすんでのところで回避わした。
乃亜の体躯からは、想像不可能な威力、スピードであった。
しかし、恭も乃亜の想像以上の実力者であった。
続く乃亜の攻撃も、全てが空を切った。
そして、恭の攻撃も。
「ふん!!」
「はぁ!!」
どちらも間をおかずに、渾身の蹴りが舞う。
どちらもが上段蹴りのまま打ち合った。
打ち合ったまま、恭が微笑んだ。
「お前等、人間にしてはわかってんじゃん。やっぱ男はサシでやんねーとな!!」
声と同時に離れる。
「"突風(ストーム)"!!」
恭の声と同時に両掌から凄まじい圧力の風が、文字通りの突風が巻き起こった。
乃亜さえも回避せぬ勢いで。
「っく!!」
回避どころか受け身の態勢さえ取れずに吹き飛ぶ乃亜を物珍しそうな表情で見送って、八城が跳んだ。
予備動作なしで5メートル、肉食獣を思わせる驚異的な跳躍である。
その手にはいつの間にか幅広な直刀が握られている。
いかにもありがちなレトロで装飾的な物ではなく、肉厚で無骨な戦闘品である。
無骨な直刀を、八城は恭の頭上へ拝み打ちに叩きつける。
敵は滅ぼすのみ。
まさに問答無用の一撃である。
しかしまさか、その一撃を恭が防ごうとは。
美しい金属音に一寸遅れ、夜目にも美しい火花が散る。
恭の掲げた両手には、仄かな明かりを放つ白銀の矛槍(ハルバート)が収まっていた。
ほんの数瞬の攻撃の間に、どうしてか恭は矛槍を持っていた。
出現させたと言った方がいい。
文字通り、先ほどまで一切の武器を所持していなかった恭の手に、その白銀の武器は出現した。
それに特に驚きの表情も、感想も漏らさないのは八城ならではと言ったところであろう。
「具現召喚魔術(ぐげんしょうかんまじゅつ)ですか、実は接近戦は苦手なんですけどね。」
やはり、その声音には緊張感というものが欠片も感じられない。
自らの渾身の拝み打ちをいとも容易く受け止められた事など、まるで気にしていない。
どころか、見えてさえいないような声、口調であった。
ちなみに、具現召喚魔術とは実態のある物体を距離を無視して引っ張り出す魔術の一つだ。
非常に高度な魔術であり、習得には数十年を要すと言われる。
「人間が具現召喚魔術を知ってるなんてな、少し感心した。」
しかしこの恭という男はその高度な魔術を使いこなしただけで、ソレを決して傲るような態度はない。
「それはどうも、知っているだけでは意味がないんですがね。」
対して八城の声もどこか似たような、しかし紛れもない倦怠感を感じるような口調で返した。
声に合わせたかの様に、彼方から高速で発光球体が飛来する。
どうやら乃亜も復活した様だ。
宛もなく飛来した球体の発する爆音が戦闘開始の合図であった。
「こっからは本気でいくぜ!!ホントの闘いってのはっ!こーすんだよ!!」
恭が叫ぶ。
そして、この男の声も魔術の発動媒体になっていた様だ。
声と同時に、周囲を紅蓮が囲む。
一対一。
恭があくまでも拘るのは、対等にである。
真意は分からないが、恭は数の劣りが劣勢に直結してしまう様な使い手では無いことだけは確かだ。
「あらまあ、炎のリングで死闘(デスマッチ)ですか。いい趣味してますね。」
これまた明らかな倦怠感を惜しみなく漂わせて、八城は呟いた。
周囲を炎に囲まれた闘い。
状況から見て、その炎は恭が倒れるまで消えることはないだろう。
もしくは、八城が倒れるか。
どちらにしても、必殺の血飛沫で紅蓮を消火するほかはないだろう。
- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(topページ改修。 ( No.21 )
- 日時: 2012/02/13 13:04
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
四章:2話
「まあ、楽しもうや!!」
走る恭。
風を巻く、っという言葉があるが、恭の疾駆は風を貫く勢いであった。
先の八城の跳躍など、子供だまし。
一瞬で5m以上を詰めた速度には、さすがの八城さえも驚嘆の表情を見せた。
しかし、下段の足払いは空を切り、続く矛槍の薙も紙一重で回避する。
それは完全に動きを読まれているかのように。
「なかなか当たんねーな。」
恭の呟きは悔しさよりも感心の念に彩られていた。
自らの実力を過信しているわけではない。
単純に人間と魔族。
この二つの異なる種族の生き物で、いかなる能力においても魔族は圧倒的に優位だからである。
今生物学上の相違点を除いてしまえば確実に八城が勝ることをこの男は理解し、なおかつ感心しているのだ。
「まだやりますか?」
そう問いかける八城は、とても魔族を感心させるほどの実力者とは思えない声、口調であった。
恭がそれに答える前にどこからか怨嗟のごとく。
闇の帝王のごとき呟きが聞こえた。
「八城、済んだか?」
もちろんのことながら乃亜なのだが、先ほどとは気迫が違う。
それどころか、恭が動けなくなるほどの鬼気が漂っている。
「あらまあ、姫沙希くん。相当ご機嫌ななめですね。」
どこか笑いを含んだその声が、場にいたすべての者の金縛りを解いた。
「ふん、すぐに終わる!!」
そう言って、恭は渾身の拝み打ちを叩き付けた。
人間には、回避どころか見とめることさえ不可能な速度であった。
もちろん威力も折り紙つきだ。
気沼が先ほど魔界の生物を打ち上げた拳の数倍に匹敵する魔力を、恭は一撃、一撃に練りこんでいた。
そんなものを生身の人間が受け得るはずもなく、恭の公言通りアスファルトを粉砕し灰燼を巻き上げるこの一撃で勝敗は決した。
はずであった。
輝く矛槍が八城を捕えた一瞬、恭の耳だけが金属を露骨に打ち付けあった様な音を聞いた。
そして。
「これ、普通の人にやったら死にますよ?」
そんな声が聞こえたような気がした。
いや、聞こえた。
恭があからさまに怪訝そうな表情になる。
彼は確かに必殺の気を込めて矛槍を打ち下ろした。
それに、彼の手も確かに攻撃の手応えを伝えている。
奇妙な金属音は、八城の持っていた蛮刀を考えれば別段不思議ではない。
しかし、先ほどの声は明らかに八城の声であった。
緊張感のなさと言い、間の抜けた口調と言い、八城以外には考えられなかった。
やがて段々と灰燼が晴れた路上には、膝までアスファルトに埋まった八城の姿があった。
炎を反射する仄かな紅は恭の矛槍か。
彼の渾身の一撃は、あろうことか八城の左腕、生身の腕に防がれていた。
「金属音?」
にこやかな八城に向かって、恭は怪訝な表情、声で問いかけた。
確かに、恭の問いは的を射っていた。
両手を前に出していた。
右手には真っ二つになった直刀が握られていた。
それを補うかの様に左腕が伸ばされていた。
恭としては聞きたいことは山ほどある。
膝までアスファルトに埋まりながら、なお直立していられる不思議。
これは姿勢を変えれば受けたエネルギーを地面に流すことは不可能ではない。
しかし、それにはエネルギーを最初に受ける体がまずそのエネルギーに耐えられなければならない。
数トンにも及ぶ恭の一撃を、八城のヒョロ長い体が受けえるとは到底思えない。
そして左腕の不思議。
左腕で恭の一撃を防いだことではない。
普通は、直刀で防ぐつもりなら右手の直刀だけを掲げる。
八城もそうだったであろう。
直刀で防げぬものを生身で補う者もいないだろが。
つまるところ八城は、直刀が二つに切り落とされた事に気づいてから、左腕を構えた訳だ。
恭の一撃の速度は風を巻き、空を切る勢い。
コンマ数秒で拝み打ちを繰り出した事でわかるその威力。
やはりソレを生身の体で受けきった八城に、恭は驚きよりも戦慄が走った。
勝てない。
恭は本気で打った。
一切の妥協なく、一切の躊躇いもなかった。
- Re: 巡る運命に捧ぐ鎮魂歌(本日はブーストバフ ( No.22 )
- 日時: 2012/02/13 18:31
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: ギターの弦が切れるほど哀しい事はないと思う(何
四章:3話
「まだやりますか?」
やはり問いかけるその声には、緊張感というものが欠落している。
驕る様な調子も、恭を嘲笑する様な様子もない。
「クソっ!!」
それだけ叫ぶと世界が変わった。
炎の円域が爆炎に没した。
「んなっ!」
恭の声が聞こえる。
八城も驚きの表情を見せたのがわかった。
炎域の炎が火柱となって夜空を染める。
紅蓮の業火は数分、衰えを見せなかった。
「なぁ乃亜。ちょっとやりすぎたんじゃねーか?」
呑気な気沼の声が聞こえる。
傍らには、黒衣の炎魔が居た。
黒いコートは炎の紅さえも弾くかの様に暗い。
「八城なら無事だろう。」
その炎魔は閻魔の如き言葉だけを残して、踵を返した。
屠る相手に感慨などは持ち合わせない。
屠った相手に感情など必要ない。
それがこの男である。
そんな乃亜に特にコメントも反応も見せないのも、気沼ぐらいのものだろう。
八城ならばここで不要な小言がでる。
あの八城と言う男は意外と良識がある。
良識はあっても、常識はずれな行動を補いきれないのが珠に傷だ。
「とりあえず、消火するぞ?」
そう言って、両手を地面にあてがう。
まったく重心を変えぬ直立状態から地面に両手のひらが着くのだから驚異的な柔軟性だ。
そして、腕を紫電の光が覆う。
「攻流"剛・雷華"!!」
声と共に、雷撃がアスファルトを粉砕する。
いや、爆砕と言った方が正しい。
これが消火か。
魔術的効果の範囲が円周ならば、その効果空間の地盤。
今で言う地面を粉砕してしまえば効果は消える。
永続魔術に対する効果的な対処法だ。
「さてと、八城は。」
そう呟いた時、凄まじい音と共に気沼の鼻先を何かが掠めた。
破砕された地面に立つのは、恭であった。
全身を覆う黒い文様は、魔族の証明か。
回し蹴りの体勢で静止していたところを見ると、鼻先を飛んでいったのは八城だろうか。
何かの激突音が聞こえる。
それに続いて、ガラガラと建物の倒壊する音が聞こえる。
先ほどのオフィスビルであろう。
乃亜が内部を破壊したうえに、八城の激突でビルの倒壊がおきたのだ。
しかし、気沼は八城の安否を確かめることができなかった。
今、背中を見せれば確実に殺られる。
「景気いいな、おい。」
そう言った気沼に、恭は何の感情も籠らない目を向けていた。
ただ、腕を突き出し、手のひらを向ける。
「魔光弾!」
先ほどの恭ではない、明らかな戦闘態勢である。
声と共に強力な魔力が込められた発光球体が飛翔した。
「"闇魔光弾(エレメントブラスト)"!」
重なるように低い声が聞こえた。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲- ( No.23 )
- 日時: 2012/02/13 23:27
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: ブースト終了。今日はもう無理;;
四章:4話
どこか間の抜けたような爆発音が気沼を包んだ。
いや、乃亜の放った魔光弾が気沼を包んだのである。
そこに恭の魔光弾がぶつかったのだろう。
爆発は明らかに小規模であった。
「まさか属性弾(エレメントブラスト)が使えるなんてな。属性付加はかなり難しいんだが。」
属性。
恭の言うエレメントとは、人間、魔族、その他あらゆる生き物が各々生まれつきもつ魔力の属性である。
一般に、火、水、風、地、雷、氷の六属性があるとされるが、鍛錬さえすれば、ある程度のレベルまでは各属性を習得可能であると言われている。
「それにその属性。地の付加かと思ったが、闇の付加か。」
恭は感嘆にも似た声で言った。
闇。
それは修練や鍛錬では習得不可能な、特殊な天性の属性である。
他に、闇と対を成す光の属性が確認されているが、どちらも非常に希少な属性である。
「先に言っておく。オレは全ての属性付加が可能だ、ある程度だがな。」
乃亜が言った。
そして恭を見た。
「こいつはほんとにすごいな。」
恭はたじろいた。
恭は非常に力のある魔族である。
その恭が声を聞き、目を見ただけで竦んだのだ。
「気沼、しばらくそこに居ろ。」
乃亜は気沼を包んだ暗黒を解かずに言った。
どうやら拘束的なモノではなく、包み込み、護りの加護を与えるものであるようだ。
そして走った。
まさに風を撒くと言うに相応しい速度である。
「ふん!!」
恭は小振りな棒打ちでカウンターを合わせた。
小柄、高速な乃亜に対して、大振りな一撃は不利ととったのだろう。
連続する乃亜の高速連打に、少なからず恭は押されていた。
暫く一方的な乃亜の連打が続き、
「おい、ナメてんのか?」
押され気味な恭が、ふと呟いた。
そのまま乃亜の脾腹に矛槍の柄を打ち込む。
渾身の棒打ちであった。
そんな一撃を受けてなお、乃亜はくるりと空中で受身をとった。
「まさかおい。オレを素手で倒せるとでも思ってんのか?」
恭の声は呆れていた。
その理由は非常に簡単であった。
恭の仄光る矛槍に対して、乃亜は素手であった。
高速体術。
それだけである。
あの八城を苦戦させ、気沼を竦ませた男に対して、乃亜は一切の鉄を纏わない素手で挑んでいた。
その上、一進一退の攻防を演じているのだから驚きである。
「おいおい、頼むよ。剣でも槍でも、斧でもなんでも抜いてくれ。」
恭の顔は真、困った顔をしていた。
あまりにも不憫な表情である。
とても、八城や気沼が苦戦した男とは思えなかった。
対して、乃亜はまったくの無表情。
屠る相手には、何の感慨も持てぬ男である。
「わかった。オレも素手でやろう。」
返事を待たずに、恭は矛槍を手放そうとするが、それを許さぬ声が響いた。
「待て、俺も本気でやろう。」
乃亜が口を開いたのである。
声と共に雰囲気が変わった。
先ほどまでは微塵も感じられなかった殺気、いや鬼気とでも呼ぶべき空気が醸し出されたのである。
そして、そんな乃亜の体にも、魔族の証明とでも言うべき黒い文様が浮き出た。
「あ、やっぱり人間じゃないのか。しかし、その空気の抑えようから見るとハーフか?」
恭は言った。
乃亜は人間ではないと。
今まで固唾を飲んで見守っていた瞳が、悲鳴じみた声をあげた。
これで合点がいく。
八城が、瞳の問いに、「近からず、されど遠からず」と答えた意味が。
その問いに答えず、乃亜が一歩進んだ。
距離は数メートル。
またも空気が変わった。
しかし、今回の変化は雰囲気ではない。
明らかに、周囲が暗くなった。
街灯の明かりに照らされている繁華街の通りは、先ほどまで別段暗いわけではなかった。
しかし、勝てないのだ。
物理的な光源では、乃亜の闇の魔力には。
「普通じゃねーな。それに、似た感じの魔力、知ってるぜ。」
周囲一帯に重くのしかかる魔力。
確かに、恭の言うとおりで異常である。
しかし、恭の表情に先ほどまでの感嘆や驚愕の表情は見られなかった。
今は抜かりなし。
今の恭もまた、この強大な敵を前にして、闘志を燃やしているのである。
不完全燃焼であってはならない。
それは人間、動物、また魔族も同じである。
強大な敵と相対する時、全力で戦うことが誉(ほま)れなのである。
しかし、この異常な圧力に似た魔力の持ち主を知っている。
それは誰でどういったことなのか。
その問いが解ける前に、乃亜が動いた。
空気を焼くような速度で接近。
「はぁ!」
乃亜には珍しい気合の声。
先ほどよりも更に早い高速体術。
瞬速の右ストレートであった。
空気中の気体が科学変化を起こしそうな速度である。
しかし、全力の恭は難なく左手で受ける。
魔族の魔力は人間とは比較にならない程の量と質を有す。
それを体中に巡らせた結果がこれである。
もちろんのこと、乃亜や気沼が格闘時に使用している技術もこれである。
圧倒的な速度をもってしても、恭には通用しないのか。
「こいつは早いな。」
それだけだ。
彼は基本的に、相手の長所を褒めるようだ。
しかし、その裏には相手の得意とする動きやパターンをしっかりと分析している事実が伴う。
そんな恭の対抗策は、圧倒的な魔力を全身に巡らせ硬化することであった。
物理的な威力が質量かける速度ならば、それ以上の強度を維持すれば、物理的な攻撃は無意味である。
その時、乃亜が微笑んだ。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲- ( No.24 )
- 日時: 2012/02/14 18:06
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: 主人公最強フラグがどうにもならない件について
四章:5話
「砕け散れ。"破砕(バニッシュ)"!!」
声と共に、大地が咆哮した。
「んな!」
驚きの声と共に恭が吹き飛ぶ。
破砕された大地がもたらすエネルギー、物理的な攻撃に見えるが、魔術とはその効果形状がどうであれ、
物理的なエネルギーと共に魔力的なエネルギーが付加される。
木っ端微塵にされたアスファルト、それほどのエネルギーが大地を伝って両足にぶつかったのだ。
そんな恭が受身を取り、着地した姿を見ると、さすがの乃亜も多少感心したような表情を見せた。
「体術中に魔術が使えるなんてな、こんな人間が居るなんて本当に驚いたぜ!」
着地した恭が叫びながら疾った。
大振りな横薙ぎと共に、旋風が舞った。
飛び退く乃亜だが、恭の起こした旋風もまた、魔術であった。
恭の声もまた、無関係な言葉が魔術発動の要になっていた。
大振りの一撃は高速な乃亜ならば容易く回避可能な攻撃ではあるが、後方に回避すれば続く風の刃に裂かれる運命であった。
現に乃亜のコートはズタズタに裂けていた。
鮮血も舞っている。
これが恭という術者である。
物理と魔術の一体化、これが理想的な攻撃の形である。
しかし、非常に精神集中の要る魔術の発動を動きながら、
それも乃亜の様な強者との戦闘中に可能にするのには、一体どれほどの鍛錬が必要なのか。
「お前もなかなかやるな。炎、風、それに八城が受けた一撃には雷の付加があった。」
裂けたコートから鮮血を滴らせた乃亜が言った。
その姿はまさに、地に降りた蒼白の悪鬼の様である。
しかしこの男が他人に賞賛の言葉を投げかけるなど、なかなか見れる光景ではない。
恭も察してか、苦笑気味にうなずいた。
戦いの中で育まれるもの。
他者を理解し、競い磨き合う精神。
東方の島国に切磋琢磨という言葉があるというが、まさにこのことではないか。
「しかし、次が最後だ。」
いつの間にか闘志がうせていた乃亜の目に、再び闘志が戻った。
恭も愛用の矛槍を握りなおす。
先に動いたのは乃亜だ。
またも瞬速の疾走。
数メートルを一瞬で詰める。
しかし、驚くべきは疾走しながらの両手の輝き。
具現召喚である。
握られているのは重厚な装飾の施された二本の短刀であった。
一瞬、驚きの表情を見せるが、恭の反応は早かった。
振りぬかれる左の短刀を柄で受けると、その勢いを殺さずに左の脚を振りぬいた。
しかし乃亜も体術においては恭が認める達人である。
振りぬかれた脚を右の前腕で防ぐと、お互い鍔迫り合いの形になった。
この場合、有利なのは両足が地に着いている乃亜だが、この男たちに常識は通用しなかった。
互いに退かず。
しかし、数瞬のうちに恭が弾く。
空中で受身を取った乃亜だが、着地を待つほど恭は甘くはない。
乃亜に並ぶとも見える速度で距離を詰めながら、矛槍の最大の利点を利かせ、瞬速の突きを繰り出す。
この一撃で勝敗は決するはずであった。
だが乃亜は恭よりも早かった。
なんと、乃亜の脚が空を蹴ると乃亜の体は空中で更に浮いた。
空気も物理的な質量を持つ以上、理論的には不可能ではないのだが、乃亜の場合は足元に魔力を集め、それを足場にしたのであろう。
突きを回避すると同時に、乃亜は恭の背後を取った。
乃亜の決定打である。
であるはずだった。
「もらった!」
声と共に恭が振り返る。
振り返り様、突きの形から渾身の唐竹割りを繰り出す。
渾身の突きを繰り出しながらその力を更に押さえ込んでの連撃。
そしてこれだけの洞察力。
やはり、恭は乃亜さえも及ばぬ実力者であるのか。
扇状に振りかぶられる矛槍。
空気中の酸素をイオンに変えて振り下ろされたその威力はまさに爆砕と呼ぶに相応しいものであった。
乃亜の魔術以上にアスファルトを破壊して、勝敗は決された。
イオンの臭いが空気中に漂うなか、乃亜の敗北を知らせるかの様に気沼を包んだ暗黒球が消えた。
周囲を確認する気沼。
そして愕然と、しなかった。
その様子で察したのか、恭が叫ぶ。
「"光輪(フォトン)"!」
その声で出現した光輪は恭を中心に、半径2メートル程を吹き飛ばした。
恭もろとも。
「どうやって受けた?」
起き上がりながら恭が訊いた。
相手は眼前に舞い降りた黒衣の魔王。
他ならぬ乃亜である。
そして、彼を見とめた瞬間。
愕然と愛用の矛槍を取り落とした。
虚しい音と共に、恭の顔にある表情が浮いた。
満面の笑みである。
眼前に立つ魔王は、白銀の髪に紅蓮の瞳であった。
「こいつは、勝てない訳だ。」
恭の笑みは、潔さに彩られていた。
こんなにも清らかな笑顔が、人間に浮かべられるだろうか。
「終わりだ。」
乃亜が言った。
全く感情の込もらない声で。
もはや、敗者となった恭には何の感慨も持たないのである。
いや、もてないと言った方が正しいだろう。
乃亜もまた魔族の血を持つ男なのだ。
強者にしか興味が持てないのである。
しかし、公言通りにはならなかった。
乃亜が動くよりも早く、恭が跳んだ。
轟音と共に、紅の魔鳥が出現した。
「勝敗はお預けだ。また逢ったら今度こそ、本気で戦おう。」
恭の声だけがひどくこだました。
乃亜の動きを待たずに魔鳥は彼方へと消えていった
唖然とする気沼。
魔鳥と恭が消えた方向へと目を向ける乃亜。
終始圧倒され、呆然と見守った瞳。
ビルに叩き込まれた八城。
「気沼、八城を引っ張り出せ。睦月、とりあえず工藤要を起こせ。」
短く、事務的な言葉が響いた。
この男、無感情な様で恭を取り逃がしたことがかなり悔しい様だ。
気沼だけが察したように、さっさと倒壊したビルに駆けていった。
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