複雑・ファジー小説
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲- ( No.25 )
- 日時: 2012/02/15 04:54
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: 最強フラグ払拭!
五章:触らぬ神も祟る者。
「いやー、自力で出ようと思ったんですがね。どうやら駆動系の回線がやられたらしくて、左半身が全く反応してくれないんですよ。」
ガラガラとけたたましい音と共に引っ張りだされる八城の声、口調にはやはり緊張感が欠落していた。
2度も爆炎に没し、2度もビルの倒壊に巻き込まれたにも関わらず、衣類にはほつれ程度しか見当たらない。
姫沙希社の耐火防護繊維なのであろうそれはまさに驚異的な丈夫さであった。
しかし、ズタボロの皮膚や髪は如何ともしがたい。
しかも八城の言葉どおり左半身は脱臼したかのように力なくブラブラとしていた。
「あの、八城さんってまさかロボットなんですか?」
唖然と、しかしおずおずと訊いたのは瞳である。
それもそのはず。
八城のズタボロの体からは、所々金属が覗いていた。
「いえいえ、正式には全自立型電子制御金属代理体です。」
つまるところサイボーグなのである。
どこか筋肉質な殺戮サイボーグが追い掛け回してくる映画を彷彿とさせる状態の八城が笑顔で答えた。
「つまり?」
やはりその姫沙希社での正式名称であろう言葉は瞳には伝わらなかった様だ。
呆れたため息をつく気沼。
かつての大戦、内戦時に活躍した英雄。
姫沙希社の創設者、姫沙希累の最大の発明であろう、電子制御によって金属骨格に生体皮膚細胞を被せたボディーを動かすサイボーグ。
その活動エネルギーは骨格内に搭載されたイオンプラズマ発生装置だという。
各関節の動きで生じる僅かなエネルギーを変換させるこの装置は、各部位に圧倒的なエネルギーを供給し、
人間には不可能な能力を八城に与えているのである。
また各部位には圧縮式の携行具が多数搭載されていることもあり、八城は今までのような異常な戦闘力をたたき出しているのである。
「まぁ、あれだ。兵器開発社の社長である乃亜の親父さんが試験的に作ったサイボーグなんだよ、こいつは。」
さすがに一行の中で一番マトモな人間である気沼がそれとなく伝わりやすい説明をいれる。
「そうなんですか。つまり八城さんは人間ではないんですか?」
瞳もそれとなく納得したのか、更なる質問をぶつける。
対して八城はどことなく苦笑気味に口を開いた。
「元々ベースとなる人間は居たのですがね、戦時中にとある事情で死んでしまったんですよ。
そこを、当時隊を率いていた社長がどうにかこうにかしてくれたわけです。」
酷く重苦しく、長い大戦、内戦を経たこの世界の定め、もしくは代価とでも言うべき内容なのだが、
この八城という男が語ると、どこか間の抜けた話に聞こえる。
それも彼の特徴である気の抜けた声、口調のせいなのだが、今回ばかりは功を奏した様だ。
聞くべきではないことを聞いてしまったかの様な表情で聞いていた瞳も、いつの間にかどこか安心した顔をしていた。
「それで?工藤要はどうなったよ?」
話題を変えたかったのか、口早に気沼が訊いた。
しかし、一行が目を向けた少女は、相変わらず深い混沌の中に居た。
数分後。
工藤要の頬を申し訳なさそうな顔でペシペシと叩く瞳がうれしそうな表情で顔を上げた。
「みなさん!!反応しました!!」
確かに、もぞもぞと動く少女が見える。
その頃には余程精神的に疲れたのか、気沼さえも倒壊したビルの瓦礫に座り込んでいた。
勿論のことだが、乃亜は無言で周囲に目を光らせ、八城は引っ張り出された時のまま、瓦礫の上に放り出されていた。
この睦月瞳と言う少女も、さすがに乃亜、気沼と過ごして来ただけあって、一本強い芯が通っているようだ。
すると、
「すぐ戻る。」
そういい残して乃亜が歩いて行く。
怪訝そうな目を向けた瞳だったが、すぐに八城の声があがった。
「多分、そろそろ目を醒ましますよ。姫沙希くんの性格からして、あまり会話をしたくないんでしょう。」
的確な判断であった。
眠気眼をこすりながら、起き上がった少女のことでもあるのだが、何よりも乃亜の性格からしてこの手の、言ってしまえば喧しい少女との会話など気沼や瞳の方が気が気でないだろう。
現に、八城の言葉を聞いて少なからず二人とも納得の表情を浮かべている。
「さてと、やっぱりお前の修理も含めて会社に向かうか。この調子なら乃亜も向かってるだろ。」
そわそわと周囲を見回している少女を気にしながらも、気沼が先の方針を述べる。
瞳も、小さく頷いた。
「あのさ、あんたら誰?あのデカイ動物は?」
唐突に訊いたのは、先ほどまで周囲を覗っていた少女、工藤要だ。
先にも述べたとおり、彼女は現在他の追随を許さぬマルチタレントだ。
明らかに不信感を丸出しにした声、口調にはさすがの気沼もすぐに反応できない。
「あの、私たち最近ニュースにもなってる、失踪事件の調査をしてたんです。今回の被害者は私と貴女、この人たちが助けてくれたんです。」
瞳が一気に捲くし立てた。
同じ被害者であり、唯一常人である瞳はどこか同情の眼差しである。
そこには、自分自身の非力さを要に重ねているかのようである。
「あー、犯人はあの動物?ソレにしてはだいぶ被害が多いんじゃない?それ、アタシの事務所が入ってたビルでしょ?」
確かに、要の言葉は的を射ていた。
誰がどう見てもこれは動物が暴れたにしては被害甚大であった。
「それにさ、あんたらは、」
「済んだか?」
要の声を、明らかに不機嫌な声が遮った。
乃亜だ。
一瞬にして、気沼と瞳が凍りつく。
要もその声に明らかな恐怖を感じたのか、かなり動揺した様子で振り向く。
「周囲にまだ敵が居る。何人か始末はしたが、気沼だけでは手間だろう。」
乃亜は要に見向きもせずに、八城の目の前まで歩みを進めた。
そのまま彼の左腕をつかみ、引っ張る。
「あのー、姫沙希くん。連れて行ってくれるのは嬉しいんですがね、引きずるのは勘弁してもらえませんか?」
あくまでも笑顔で、そのうえ緊張感のかけらも感じられない声が響いた。
しかし、乃亜は答えない。
答えぬ代りに腕が動いた。
「おいおい。あんまりじゃねぇか?」
そうごちたのは気沼だ。
あろうことか乃亜は八城を放り投げたのだ。
勿論落ちたのは気沼の目の前だ。
どうやら持てと言いたいらしい。
しかし、さすがに長年の付き合いなだけはある。
気沼はため息ひとつで、八城を担いだ。
その時。
「もお!!何なのよ!!あんたらは!!」
今まで呆然とやり取りを見ていた要が遂にキレた。
怒りの目線を乃亜に向ける。
乃亜も振り向く。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(奴の正体が! ( No.26 )
- 日時: 2012/02/16 20:15
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: 最強フラグ払拭!
五章:2話
ドクン。
「!」
要の表情が変わる。
ドクン。
「?」
乃亜の表情も変わる。
ドクン。
乃亜の変化に、気沼の顔が強張る。
瞳が、気沼の元に駆け寄った。
ドクン。
世界が変わった。
「八城!」
乃亜の怒声が響いた。その声が先か、後か。
気沼の担いだ八城から、彼を中心に半径1メートル程の淡い青色の膜が出現した。
気沼の顔が驚きの表情を作る前に、大地が咆哮した。
アスファルトが、鋭利な突起となって襲い掛かったのだ。
それは、茨の森のように周囲を飲み込んだ。
「乃亜!無事か!」
気沼の叫び。
「先ほどの位置に生命反応あり。無事です。」
八城の応答。
明らかに場違いな口調に、少なからず苛立ちを感じながら気沼は青い膜を潜り抜けた。
アスファルト色の茨の森は、明らかにアスファルトから生えていた。
しかし、物理的に異常な現象である。
魔術か?
それも異常である。
なぜなら魔術の発動媒体である、音声がないからである。聞こえたのは乃亜の叫びだけだ。
乃亜が無事ということは、その声が魔術障壁の発動媒体だったのであろう。
やはり、いきなり出現した茨の森は、不可解な現象であった。
「八城!」
声と同時に乃亜は魔術障壁を展開させた。
八城のことだ、彼の声で電磁防壁を展開させただろう。
しかし、この灰色の茨は何なのか?
彼の魔術障壁でさえ、反応が間に合わない程の速度で発動、展開したのだ。
なんの前触れも、掛け声もなく、まさに一瞬にして灰色の茨、アスファルトの突起は彼の左肩を貫いた。
「やはり、奴等が狙うだけのことはある。発動媒体がわからんが、あの眼に何かありそうだな。」
そんな呟きを溢しながらも血の滴る肩には目もくれずに、乃亜は障壁を解いた。
同時に左肩をアスファルト色の突起から引き抜く。
さすがの乃亜も多少なりと痛みを覚えたのか、小さな舌打ちが聞こえた。
正直、彼にもこの一連の現象は謎であった。
しかし彼は見たのだ。
彼と目が合った瞬間、工藤要の両目が明らかに自然な発色で左右非対称の色に変わったのを。
古くから特別な存在と言われるものだ。
「おい、工藤要。貴様は何者だ?」
静かな問いかけであった。
しかし、その問いかけには明らかな殺気が含まれていた。
そのうえ明らかな嫌悪感が感じられる。
彼は面倒なのだ。
この少女のことなど、彼はどうでもいいのだ。
ただ、眼前の敵が抱えていただけ。
そもそも彼はこの少女を救うことなど、事象の副産物だったのだ。
「アナタハナニモノ?」
機械的な声が聞こえた。
地の底からの様でも、そっと吹いた風に紛れて聴こえたかのようでもあった。
乃亜の表情が、また変わる。明らかに怪訝な表情だ。
確かに先ほどまでの要の声ではなかった。
と言うよりも、明らかにこの場に居る人間の声ではなかった。
「!」
また世界が変わった。
灰色の茨、アスファルトの突起が一瞬にして切り裂かれたのだ。
一陣の風によって。
無尽に駆け抜けた風は、茨どころかアスファルトまでをも切り裂いた。
「地の次は風か、業火を熾せば火の変化か?」
もはや木っ端と化した灰色の世界から、その声は聴こえた。
その声と共に爆炎が世界を明らめた。
もはや加減などとは程遠い、確実に屠る為の業火であった。
既に彼の中で、工藤要は屠るべき敵なのである。
しかしまた、彼の姿も凄まじいものがある。
彼は先ほどの烈風をいささかも防がなかったのである。
もはや満身創痍どころか、血塗れの姿だ。
コートはもとより、乃亜の特徴でもある真っ白な肌までも紅の筋が無数に走っていた。
「ソノトオリヨ。」
そして、またも先ほどの声が聴こえた。しかし、今回は先ほどとは違った。
明らかに発声点がわかる。要の居た位置を覆うアスファルトの半球体からだ。
どうやら先ほどの乃亜の炎は、ソレで防いだようだ。
しかし乃亜がその声の位置に走る前に、またも世界が変わった。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(奴の正体が! ( No.27 )
- 日時: 2012/02/17 03:56
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: eXQSDJu/)
- 参照: 最強フラグ払拭!
五章:3話
「おい、工藤要。貴様は何者だ?」
その声が聞こえて、初めて気沼は気付いた。
この茨は、工藤要を護るように、そして仇成す者たちを串刺しにすべく張り巡らせられたのである。
つまるところ、この現象は工藤要を中心にしている訳である。
不死身の八城は別として、生身では乃亜でさえこの少女と戦いは得ないと思われた。
前方では、乃亜の声が聞こえてくる。
戦慄が伴う静かで抑揚のない声だ、明らかな敵意、いや殺意とでも言うべき意思が感じられる。
そんな緊張感を一陣の風が拭った。
鮮血を乗せ、激痛を伴って。
「くそっ!」
気沼の悲痛な声が上がる。
彼は既に八城の電磁防壁の外にいるのだ。
幸いにも、風の目標は気沼ではなかった為、傷は軽い。右腕が10センチほど裂けた程度だ。
しかし、目の前には凄まじい光景が広がっていた。
風に切り裂かれ、もはやただの瓦礫となったアスファルトの茨。
そして、その中に忽然と出現した半球型のドーム。
そしてそれに対峙する血まみれの美丈夫。
その眼には明らかな殺意が伺える。
「地の次は風か、業火を熾せば火の変化か?」
気沼が言葉を発する前に、乃亜の声が聞こえた。
不思議と穏やかな、しかし壮絶な殺気を含んだ声だ。
そんな考えが、頭を埋める前に、視界を爆炎が覆った。
仇成すものは生かしてはおけぬ。
その意思が、工藤要の不可思議な攻撃以上に感じ取れる程の猛火。
いや、やはり業火と呼ぶのが相応しい火力であった。
しかしその業火の中から、聞きなれぬ声が聞こえた。
「ソノトオリヨ。」
その声は、どこか姫沙希社のメインコンピューターが発する合成音に似ていた。
しかし、気沼の思考はまたしても爆炎に邪魔される。
なんと先ほどの声に応じたかのように、遥かな上空から直径が1メートル程もある火球が無数に飛来したのだ。
その流星群は乃亜や気沼どころか、繁華街の通りを丸ごと崩壊させるには申し分ないほどの威力を発揮した。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(奴の正体が! ( No.28 )
- 日時: 2012/02/18 21:02
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
- 参照: 最強フラグ払拭!
五章:4話
「大丈夫か?」
その声で気沼は目を開けた。
爆砕された道路と燃え盛る炎の中に、見慣れた顔があった。
どうやら、乃亜が魔術障壁で防いでくれたらしい。
乃亜にしては珍しく、多少息が上がっているようだった。
この状態では、一人でこの超常現象と戦い続けることは不可能だろう。
考えてみれば、乃亜はたった数時間のうちに魔族二人と、先ほどの獣。
そして気沼は知らぬことではあるが、睦月瞳の影との連戦を行っているのだ。
しかし、大きな傷は見当たらない。
先ほどの烈風に裂かれた傷さえ、紅く残ってはいるものの、血の滴りは皆無であった。
これが魔族の血の為せる業か。
「なんとかな。しかし、こいつはどーゆーこった?」
気沼としては、自分よりも乃亜が心配なのだが、
そんな心配は無用だとでも言うように、乃亜は工藤要の居るであろう方向へ鋭い視線を飛ばしていた。
そうなってしまえば、気沼はこのまま戦闘を続行するほかない。
この異常な脅威は、まだ終わっていないのだ。
「魔術ではない。発動媒体を持たずに発動している節がある。そのうえこの異常の発生に対して、もっとも重要な魔力の高まりを感じない。
これだけの規模の魔術を連発すれば、少なくとも"人間"ならば2本の足では立ってはいられないだろう。」
気沼の問いに、乃亜は皮肉を織り交ぜて返してきた。
こちらには負傷はあっても情報はない。
そんな圧倒的に不利な状況で、このような皮肉を言う余裕があるのが驚きだ。
はたから見ればなんとも喜劇的だろう。しかし、気沼にはそんな余裕はなかった。
「お前が感じないってことは、魔力を媒体とせずにこんだけの規模の攻撃を発動してるってことか?八城みたいに不死身じゃねーんだ。どう闘るよ?」
乃亜でさえわからないというこの現象。
すくなくとも気沼は焦っていた。乃亜ほど迅速に障壁を張る自信はない。
かといって人間である気沼が、この規模の攻撃をまともに食らえば、それこそ2本の足で立っている自信などなかった。
「気沼、攻撃流派は使えた。防御流派も使えるか?」
乃亜は、常人には理解不能な言葉を発した。
攻撃流派。
それは先ほど気沼が使用して獣を仕留めた、雷華と呼ばれる魔術系統の攻撃用流派である。
防御流派とは、同じく雷華の防御用流派である。
乃亜と違い、人間である気沼にとっては、魔術の発動そのものが既に難しいのだ。
それを踏まえての問いなのであろう。
「まだ使ってみたことはないけどな。まぁやれるだろ、どうする?」
何事においても出来ないとは言わない。これが彼、気沼のモットーなのかもしれない。
しくじればそれこそただでは済まない状況でも、それは変わらなかった。
「俺が囮になる。"早雷"で奴の背後に廻れ。その先はスタンガンの要領だ。」
乃亜の言葉は、端的でわかりやすかった。
早雷とは、全身に電流を流すことによって筋肉を活性させる。
それによって、パワー、スピード共に通常の数倍にまで増幅させる補助魔術だ。
もっとも、全身に流す電流の量を間違えれば最悪内臓が麻痺し、死に至る。
発動させるだけでも難しい魔術を微調整、それも動きながら行わなければならない。
気沼にとってはとてもすぐに決断できることではないであろう。
それでも彼は了解した。
「乃亜。死ぬなよ。」
その言葉だけですべてが伝わるはずであった。
彼は、自分のことなど歯牙にもかけていないのだ。
乃亜はこの異常な敵に対して、囮になると言っている。それが心配なのだ。
さすがの乃亜とて連戦後にこれだけの規模の攻撃を連打されていては、とても巧く立ちまわれるとは思えなかった。
しかし、乃亜は気沼の声には応えず、魔力を覚醒させた。
黒い文様が浮き、髪は白銀へと変わった。そして紅蓮の双眸は、気沼を写さなかった。
目下、写すべきは敵のみである。
「防流、早雷!」
応じるように、気沼の体を電流が包んだ。
2ラウンド開始である。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(奴の正体が! ( No.29 )
- 日時: 2012/02/18 21:50
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: 5bYoqzku)
- 参照: 失意の終焉——死をもって生を咎める
恭くんに惚れた柑橘系男子こと柚子です!
あれですね、面倒くさがりながらも僕のことを踏んで欲s((殴
おにーさんに、小童からのアドバイスを。
聞き流してくれて構わんですぜ。
むしろテンションがあがるんですぜ←
所々に、改行を入れたほうが見やすくなると思うなっていうのと、
文の先頭を、一文字分下げてみたりしたら、読みやすくなると思ったのですぜ。
イメージ的には、作文で「最初に」とか「次に」ってやるとき、
一時下げする感じですかね。
そして乃亜ちゃんふぁいとおおおおお!
乃亜ちゃんいい子。気沼くんも乃亜ちゃん守れ!
でわでわ。
だんだん思考回路がはちゃめちゃになってきたのでこの辺で。
更新がんばってくださいな!
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(奴の正体が! ( No.30 )
- 日時: 2012/02/19 06:21
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
- 参照: 最強フラグ払拭!
>>29
どうも、恭くんの「恭」は本名ではないのです(何
再びコメントありがとうございます!
たろす@です。
まず最初に。
おじさんじゃなくておにーさんと呼んでくれた柚子様に感涙。
改行、スペースを開けろと言うことですかな?
段落的なスペースは読みにくいと思ってあえて潰していたたろす@なので次回更新分から一文字スペースは入れたままにしまふ(゜レ゜)b
(↑こういうことですよね?)
改行、というのが僕にはなんかピンと来ないのでちと具体的に本文からサンプルテキスト上げてもらえたらすんごく嬉しいですww
あ、スルーしてくれって書いてあるw
けどもう遅いので知ぃらんぷー(殴
おっと、珍しく姫沙希くんが読者受けしてるw
個人的に一番読者受けが良いのは八城くんだと思っていたので主人公が受けて嬉しい限りですww
お互い、頑張っていきましょうb
コメントありがとうございました(゜レ゜)
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(奴の正体が! ( No.31 )
- 日時: 2012/02/20 00:55
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
- 参照: こんな感じ?改行を入れてみる。
五章:5話
声もなく、魔力の高揚もなく発動した茨の中で、八城はひとり呟いた。
「困りましたねぇ。」
それが、この攻撃に対してなのか、動けないのに置き去りにされたことに対してなのかはわからなかった。
となりにはこの状況下では明らかに無力と思われる少女がいた。
二人は彼、八城の張った電磁防壁の中にいた。
電磁防壁。
つまりは超強力な電磁力で、一種の力場を作り出す姫沙希社の試作兵器だ。
その防壁の外で、乃亜は敵と対峙し、気沼はそれを援護しに行った。
前方からは二人の、そして対峙している敵の声が聞こえる。
八城にのみ。
彼の耳にあたる部分には、超高性能指向性集音マイクも内蔵されている。
「あの、八城さん。センパイ達は大丈夫でしょうか?」
そのマイクに、瞳の弱々しい声がはいってきた。
「それに、工藤要。あの子も心配です。姫沙希センパイ、殺しちゃったりしないですよね?」
少女の問いは全て的を射ていた。
この場合、生身の二人を案じると同時に、乃亜を敵に回した少女を心配しないのはおかしい。
敵の身を案じるなどもってのほかかもしれないが、少なくとも乃亜が相手ではやむを得ないかと思われた。
「どうでしょうねぇ、あの二人なら死んだりしないでしょうが、後の問いには応えられません。」
緊張感が欠落しているのは変わりないが、どことなく申し訳なさそうなところがせめてもの救いであった。
これで皮膚から金属がのぞいていなければいいのだが。
そして同時にいくつもの思考が出来るのも、電子脳を持つ彼の特権であった。
彼の脳内では、今この状況の分析と、二人の勝率の計算、ここから敵までの最短距離と使用可能な兵装の選別、社長への報告書の内容制作、瞳への対応、自身の損傷度合いと、その修理にかかる時間の計算が同時に行われていた。
しかし、そんな彼の電子脳でさえ、敵の攻撃には一抹の疑念を抱いた。
彼の右眼球があるべき場所に搭載されたセンサーは、半径500メートル内であれば生命反応、魔力反応共に感知できる。
左眼球のあるべき場所に搭載されたセンサーアイは、衛星と連動して360度の視界を有し、右眼球のあるべき部分に搭載された画像解析装置は2キロ先まで識別可能な望遠機能も備えている。そして指向性マイク。
その全てを駆使して警戒していたにも関わらず、先ほどの攻撃、つまりアスファルトの茨は乃亜の怒声がなければ防げなかった。
乃亜との距離は5メートル、敵との距離は7メートル。
したがって敵は半径10メートル近い範囲を、なんの動作も必要とせずに攻撃してきたわけである。
その思考と同じ思考をしていたのか、少女が再び声を発した。
「あの、これって魔術?なんですかね?でもなんていうか今までの姫沙希センパイの魔術や、さっきの恭さんの魔術みたいに圧力がなかったって言うのかな?そもそもなんで工藤要は、姫沙希センパイにいきなりこんなことしたんですかね?」
少女の問いは、またも事の確信を突いていた。
八城の電子脳でさえ結論には至っていないのだが、同じような思考が行われていたとすれば、この少女は非常に優秀だ。
少女の問いが終わった頃、障壁が音をたてた。
烈風が吹き荒れ、アスファルトを抉る。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(奴の正体が! ( No.32 )
- 日時: 2012/02/21 00:01
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
- 参照: こんな感じ?改行を入れてみる。
五章:6話
「生命反応が3つあります。心配しなくて大丈夫です。」
驚きと不安の表情を浮かべた少女のもとに、いつもの声、口調が届いた。
「そうですねぇ、確かなことじゃありませんが、風水術という特殊な能力かと思います。
それでも、普通はこんな規模の攻撃なんて考えられないんですが。まぁ魔族の連中が攫っていこうとしたんですから、多少の例外はあるんでしょうね。あとの問いですが、多分姫沙希くんの魔力が強すぎるためだと思います。
なにか魔術的な天性の素養がある人間は、瞬間的に強い魔力を受けてしまうと、魔力自体が暴走することがあります。気沼くんも、小さいときに姫沙希君と初めて会った時は大変でしたよ。まぁこれも、確かなことではありませんがね。」
いたって真面目に返答する八城。
かなり難しい話なのだが、不安な表情の少女は理解したようだ。
そして、不安な表情が濃さを増す。
「じゃあ・・・、私も気を失ってる間に姫沙希センパイを襲ったんですか?」
やはりこの少女は頭の回転が速い。
事実、彼女が知らないだけで乃亜と一戦交えているのだ。
少なからず乃亜を驚かせたその技はやはり魔術的な天性の才能なのであった。
「それはどうでしょう。私たちが到着した時には特に異常はありませんでしたよ。」
ほっとした表情をする瞳。
しかし、八城自身は乃亜の身体的な疲労とともに、影の一撃を受けたことによる精神的な疲労と乱れを察知していた。
彼女が非常に稀有な"影士"としての才能を持っていることも。
「おっと。これはマズイ。もう少し寄れますか?防壁の出力を上げます。なんなら踏んでも構いませんよ。」
声と口調はそのままに、顔だけが多少焦った表情を写した。
それに押されたのか、おずおずと瞳が八城に接近する。
二人の間には、未だに空間があったが、八城は笑顔で防壁の出力を上げた。
それに伴ってか、多少防壁自体が狭まった。
数秒後、周囲が爆ぜた。
繁華街一帯を破壊した火球は、もちろん八城と瞳も襲ったのだった。
しかし目を閉じていたのは数分だったか、数秒だったか。
どちらにしても、少女は目を開けることができた。
灰燼舞い踊る"元"通りの一角で、少女も八城も微動だにしていなかった。
八城の電磁防壁は視認不可能な地中にさえも、つまりは八城を中心に真球を模って力場を広げていたらしい。淡い青は、先ほどよりも力なく見えた。
さすがに高出力状態とはいえ、これだけの大規模攻撃を防いだ後では出力低下もやむなしかと思われる。
「大丈夫ですか?」
辺りを見回していた少女に、緊張感の感じられない声が聞こえた。
傍観していた少女も、その声にはっとする。
「八城さん!センパイ達は?」
不安げな、それでいて深い部分で期待をもった声が響いた。
それに対して八城は、口を右側だけ釣り上げた。
笑顔のつもりなのだろう。
「生命反応ありです。三つほど。」
つまりは、全員が生存している訳だ。
乃亜、気沼、工藤要。
しかし、少女には眼前の青年のほうが気になった。
「八城さん、もしかして・・・?」
今の今まで気付かなかったことではあるのだが、八城の口は一切動いていなかった。
右側だけで笑ったところから察するに、左半身の駆動系が破損したせいで四肢だけでなく、表情筋も動かなくなったのだろう。すると、彼の声は合成音か。
「ええ、先ほどから左側は全く反応しなくて。大丈夫ですよ、人間じゃないので。」
瞳の言いたいことはわかったのか、どことなく自嘲気味に言った。
緊張感は感じられないが、どことなく哀しげな声に聞こえた。
「しかし、そうも言っていられないでしょうね。さすがの彼らでも、無傷であるとは考えにくい。」
急に、八城の目が真剣になった。表情ではない、もっと深い部分だ。
人によっては、これを意思や覚悟というのかもしれない。
人造の八城がどのようにしてそんなものを表現するのか。
しかし、少女が気になったことはそんなことではなかった。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(少しは読みやすくなったかな? ( No.33 )
- 日時: 2012/02/22 22:30
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
五章:7話
「何か私にできること、ありますか?」
八城の顔がほお、っというような表情を作った。
そしてすぐに笑顔になった。
作り笑顔な感じが惜しみなく出ているうえに右側だけというのが非常に残念なのだが、彼なりにこのいたいけな少女に対する賞賛を表しているのだろう。
「そうですね、とりあえずもどさないでください。」
対する緊張感のない声は意味不明な言葉を発した。
そしてすぐに、少女はその意味を理解する羽目になった。
八城は右半身だけで器用にバランスをとって上体を起こした。
すると、彼は突然自分の左腕を肘から引き千切ったのだ。
無数の神経コードが千切れ、スパークが連続する。
彼の体内、正確には生体皮膚の下で人体骨格を覆っている神経コードは、それこそミクロ単位の極細コードであった。
いや、それよりも彼の骨格を覆っているのは生体皮膚なのだ。
人間の腕の皮が千切れるのと変わらない。
にも拘らず、彼はなんら表情を変えずに右手で左手を持っていた。
瞳は嘔吐感よりも呆気にとられた。
いかに目の前で人外の戦闘が繰り広げられていようとも、彼の行動はそれ以上に常人の理解の範疇を超えていた。
しかし、今まで魔獣や恭の攻撃にさえ耐え抜いた腕を引き千切るとは、一体どれほどのエネルギーを彼のひょろ長い腕が生み出したのか。
唖然とする瞳のことなどお構いなしに、八城はそのまま器用に指先で神経コードの一本を引っ張ると、中指の関節が通常とは逆方向に曲がった。
指先で蒼い火花が飛ぶ。
気に留めず、彼は左の腰部に左手を当てた。
正確には、火花の飛んだ中指を突き刺した。
その瞬間、動かないはずの左側が激しく痙攣した。
強力な電撃で強制的にエネルギーを循環させる。
一瞬でもエネルギー同士が結びつけば、人間の神経とは違い彼の体は動くのだ。
左手の中指は危険レベルをはるかに超えたスタンガンであった。
「や、八城さん?あの・・・。」
痙攣したきり動かなくなった八城に、瞳は不安そうな声をかけた。
しかし、その声の不安をかき消すかのように、淡い電磁防壁の青色が力強く戻った。
そして、右側だけが笑った。
「お待たせしました。足だけ動けば問題ないでしょう。」
やはり声、口調には緊張感が欠けている。
突き刺した左手を引き抜き、そのまま立ちあがった。
今まで半身不随だったとはとても思えない滑らかな動きであった。
「あ、あの・・・。」
あまりの復活劇と、凄絶な姿の八城に瞳は言葉が出なかった。
彼の体からは所々機械が除き、左腕は肘から先が引きちぎられている。
何よりも、右手に持った左の肘先。
そんな状態で聞こえる彼の声は、どことなくユーモラスとさえ言えた。
「これをお貸しします、少し待っていてください。」
そう言って、八城は器用に千切った肘先を脇に挟んだ。
そうして先ほど指を突き刺した部分へ強引に腕をねじ込むと、何やら薄い金属のパーツを取り出し、瞳に手渡した。
ミュージックプレーヤーのような、厚さ2センチ、それ以外は四方5センチ程度の正方形をしたパーツは、見た目よりも重かった。
「これはなんですか?」
瞳が、ソレを凝視しながら聞いた時には八城は既に青い障壁を潜り抜けていた。
今彼女に手渡したものこそが姫沙希社の最新兵器、電磁防壁発生装置であった。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(少しは読みやすくなったかな? ( No.34 )
- 日時: 2012/02/22 22:34
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
五章:8話
気沼の体が電流に包まれた瞬間、乃亜は地を蹴った。
もしかしたら、彼は気沼の雷華発動を確認さえしていなかったかもしれない。
しかし、気沼にはわかっていた。
今自分がすべきことは、電流の調整と確実な効果発揮である。
多少の威力調整で、彼の望む量の電流が流れだすのが感じられた。
雷華は通常の魔術とは少し違う。音声という発動媒体を必要としないのだ。
それでも、集中力を高めるために基本的には音声と同時に発動させる。
と言うよりも、雷華は魔術と言うより魔力そのものなのだ。
魔力を電気系のエネルギーに変換させる特異体質。
その体質の所有者のみが体現可能な特殊な技術なのである。
乃亜も雷華と同じことなら魔術で体現可能である。
それでも音声と言う発動媒体が必要であり、なおかつ魔力自体を魔術という形で発動した場合、極度の技術と集中力が必要である。
重ねて言うならば、たとえ防御系の魔術であってもその効果持続時間は至って短い。
乃亜は基本的に魔術ではなく、魔力そのものを瞬時に大量放出することで一種の力場を作り出していた。
気沼の防流も同じである。
魔力自体を体に流してその効果を得ているため、防御系魔術に比べて効果時間が長いのである。
「もって3分か。乃亜、頼むぜ。」
保って3分それは早雷の効果時間か。
もしもそうならば、乃亜は3分間この攻撃に身を晒し、なおかつ気沼が突くべき隙を作り出さなければならない。
いかに常人離れした能力の持ち主である乃亜とは言え、明らかに無理がある。
地を蹴った乃亜は垂直に5メートルも跳んでいた。
通りは完全に破壊されたのだ、地形の確認だろう。
上空で乃亜の顔に不敵な笑みが広がった。
棘があるとは言え、彼の笑顔などそうそう見られるものではない。
果たして未だ灰燼の舞う地上に何を見たのか?
「どうした?」
舞い降りた黒衣に緊張を崩さずに気沼が問う。
「気沼、雷華を解け。」
短い返答であった。いや、返答とは言えない。
しかし、その短い命令が終わるころには乃亜の身体的な変化と魔力の高まりは完全に消えていた。
それに釣られ気沼の体を取り巻く電流も徐々に消えてく。
それに合わせたかのように、
「私が引き受けます、睦月さんをお願いします。」
緊張感というものが完全に欠落した声が聞こえた。
脅威の復活劇を終えた八城が、戦場へと赴いたのだ。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(少しは読みやすくなったかな? ( No.35 )
- 日時: 2012/02/23 02:32
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
五章:9話
工藤要は、先ほどから変化なしのアスファルトの半球体の内部に居ると思われた。
八城は黙々と進む。
そして、後2メートルほどの所まで来ると不意に足をとめた。
「やれやれ、姫沙希くんも凄まじい。そして貴女も。」
緊張感のない声と口調にはどこか嘲笑うかのような響きが込められていた。
そもそも、彼は武器も防具も構えず最新の防御障壁さえ置いて赴いたのだ。
手にしているのは、先ほど自ら引き千切った左腕の肘から先のみであった。
ゆっくりと歩んできたその姿は、大胆不敵というよりは無知ゆえの愚かさを思わせた。
「アナタハ、ナニモノ?」
その姿にさすがの工藤要も、いや八城の言う通りならば彼女の中に潜む強大な魔力そのものも調子が狂うようだ。
対して八城は顔が右側だけで愛想笑いをしている。
「お話が好きですね。わたしはね、面倒なことは嫌いですよ。」
声、口調はそのままに何と変わり果てた圧力か。
乃亜さえも凌駕しそうな気迫が、八城の全身から迸った。
しかし、彼は人造人間どころか機械骨格に電子機器を搭載し、生体皮膚を被せただけの無機物なのだ。
物理的に異常な現象ではあるがそもそも彼の存在そのものが物理的に常識の範疇を超えているため、この現状では誰も驚かないだろう。
「それに私はね、」
声が流れた。
「彼らほど保守的ではありませんよ。」
工藤要を守る半球体の目の前に。
常人では視認不可能な速度であった。
いや、周囲を見ればそれが走ったのではないことが分かる。
彼の周りには粉微塵になったアスファルトがある。
しかし、彼の移動した直線状の地面には何ら変化がない。
普通なら、足跡なり瓦礫のずれなりがあるべきなのだ。
つまり、彼は跳んだのだ。
跳躍と呼ぶにはあまりにも素早く、そして低く。
彼は地上から数センチだけ浮き、直線距離2メートルを跳んだのだ。
そして見よ、乃亜の業火でさえ防いだ半球体に大きな亀裂が走っているではないか。
そして亀裂の最後、つまりは地面側に挟まっているのは彼が先ほどからずっと、
起き上がってからずっと手にしていた自分の左腕であった。
スタンガンとして再起動に使ったあとは、特に意味もなさげに携えていた左腕。
それが今、手刀の形で工藤要の防御壁に食い込んでいるのだ。
「なにもの?」
初めて工藤要の声に感情が湧いた。それは驚愕と言うほかない感情であった。
そして、声と同時に半球体から先ほどと同じ鋭利な茨が出現した。
それは八城を串刺しにしただけでなく、3メートルも後方に吹き飛ばした。
接近戦は不利と悟ったかのように。
しかし、八城の言葉をそのまま信じるのであれば彼は接近戦が苦手なのである。
逆に言えば、遠距離戦は得意なわけだ。
- Re: 鎮魂歌-巡る運命に捧ぐ序曲-(本日は大量更新だそうです ( No.36 )
- 日時: 2012/02/23 03:06
- 名前: たろす@ ◆kAcZqygfUg (ID: Df3oxmf4)
五章:10話
はたして結果はすぐに分かった。
着地どころか空中で器用に身をひねっただけで、八城の背中から白い尾を引いて小型のミサイルが無数に飛んだ。
そう。
彼の体内、いや体表面にさえ無数の姫沙希社最新兵器が搭載されているのだ。
今の今まで格闘や、直刀で闘っていたこと自体が既に余裕の表れだったのかもしれない。
八城の放ったミサイルはセンサー感知式の追尾ミサイルで、八城の発する信号で2キロ先の目標でも難なく捕らえる。
爆音の嵐を作り出すも、八城の勢いは止まらなかった。
しっかりと着地し、いつの間にやら大口径の機関銃を片手で構えていた。
重量200キロ近い重機関銃は、全くのブレを見せずに工藤要に火を噴いた。
もちろん、彼女を守る半球体など視認は不可能だ。
未だミサイルの爆炎が続くなかに大口径機関銃のタムステング鋼の芯を持った徹甲"矢じり(フレシェット)"弾が炸裂する。
並の人間どころか、戦車でも破壊可能な攻撃であった。
数秒で100発入りの弾創を撃ち切ると、彼は機関銃を投げ捨てた。
その瞬間、今まで受ける一方であった工藤要が攻撃に移る。
八城が機関銃の掃射ならばこちらも、と言わんばかりに無数の氷塊、それも氷柱状の氷塊が飛来した。
それも冬ならどこにでも出来るような代物ではない。
直径5センチ、長さは15センチ近い氷柱が無数に八城を襲った。
半数以上を回避しつつも、さすがに数が多い。
だが2桁以上を被弾しながらも、彼は颯爽と走った。
無論、走ってる間も被弾するのだが、足は少しも乱れなかった。
未だに濛々たる煙に覆われた半球体さえ八城の目には鮮明に映っていた。
彼の左手が刺さった亀裂以外は特に損傷はない。ミサイル、機関銃共に完全に防がれたようだ。
半球体まで残り1メートルの所で、彼の足は止まった。
むろん彼の意志ではない。
回避したはずの氷柱が、地面を銀盤へと変えていた。
「これはこれは、本当にすごいですね。」
惜しみない感嘆であった。
声さえいつもの緊張感の欠けた声ではなかった。
乃亜はともかくとして、気沼が聞いたらそれこそ目を剥いただろう。
それほどまでに凄まじい工藤要の手練であった。
なんと、氷漬けにされた八城の足は彼の力でも微動だにしなかったのだ。
「これで終りね。」
そっと、工藤要は微笑んだ。
いつの間にか、彼女は八城の目の前にいた。
手には同じ氷塊と思しき鋭利な氷柱が握られている。
しかし、彼女の宣言は全うされなかった。
目の端に、黒衣の美丈夫を認めたのだ。
「八城、ご苦労。」
それだけだった。
それだけで、今まで圧倒的な優位なはずだった工藤要は自分がハメられたことに気付いた。
彼、八城は囮だったのだ。
工藤要を絶対防御の半球体から引きずり出すための。
頬に鋭い痛みを感じた。
手を触れると、生温かい紅色がついてきた。
虚ろな目が乃亜を見る。
殺気だ。
溢れんばかり、どころか溢れだした空間さえも埋め尽くすような殺意だ。
幻痛ならまだしも、殺気だけで相手に物理的な外傷を与えるとは。
乃亜の殺気を感じた瞬間、工藤要は動けなくなった。
金縛りの域ではない、内臓器官さえ麻痺、痙攣し呼吸と脈が浅くなる。
意識が遠のいていく感覚が彼女を襲ったが、彼女の意識はもっと物理的に断ち切られた。
小さな電流が、彼女の頸部を貫いた。
いつの間にか背後に回った気沼が雷華の魔力を纏った手刀を打ちつけたのだった。