複雑・ファジー小説

Re:   殺戮 は  快楽 で ......『序章/人説明更新』 ( No.3 )
日時: 2012/02/08 18:42
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)
参照: 脳内うふふ状態なう。

第一章
第一話『なんちゃって高校生?』

 影人が人を壊してから数時間で夜が明けた。
 現在の時刻はAM7:49。学生が起きるには少々遅い時間に、少年は目覚めた。目が覚めた少年が真っ先に行ったのは普通の人なら行わないであろうゲーム機の電源を入れる、というものだった。コントローラーを持ってキャラクタを操作するわけではなく、ただ電源をいれゲームのスタート画面を意味も無くテレビ画面に映し出していた。つまらないBGMが鳴り響く部屋の中で、少年はベッドから転げ落ち、服を無造作に詰め込んでいるクローゼットへ向かう。彼が出たベッドから見え隠れしていたのは誰のものとも分からない謎の大量の血液だった。

「影人守、僕のベッドから出て行ってくれない? こんな朝早く目を覚ますつもりじゃなかったんだけど?」
「あら。影人は欲望のままに盛ってたくせによく言うわね」

 げんなりとした表情を鏡で確認しながら影人は呟く。それにすぐさま応戦するように返事をしてくる影人守に、影人は朝から無駄に疲れているような感じがした。シュッとネクタイ同士がすれる音を心地よく響かせながら、影人はテレビの電源をつける。真っ先にテレビに映し出された文字は『昨夜未明、影人による犯行と思われる変死体発見』だった。

「わお」
「……影人」

 有名人気分で変な声を出す影人に、影人守は呆れる事しか出来なくなっていた。それを気にせずに食い入るようにテレビを見る影人の後ろから影人守もテレビの中で必死に原稿を読み上げる女性キャスターを凝視する。キャスターはVTRの映像を交えながら、一定のペースを乱すことなく文章を読み続ける。それが現代のアニメっ子たちには耐え切る事の出来ない苦痛なのだろう。

『昨夜未明、由苅町五番の路地で変死体が二つ発見されました。一つは左手の指が何本も削ぎ落とされているもの、もう一つは血塗れで体全体が青白くなっているものだそうです。死体の状況から考えて、死後数時間は経っているようです。
 警務署では影人の犯行と見て捜査を進めていく方針です』

 現場の映像が映し出されていた画面が瞬間的に和やかな子犬たちの映像へと切り替わる。その画面を放置したまま影人は明るい木漏れ日が射し込めるリビングへと移動する。影人に続いて影人守の少女もショートパンツだけを身に纏った状態でリビングへ移動する。リビングのテーブルには二人分の朝食が、リビングのソファには見慣れない白衣を着た男が座っていた。

「やぁ、お二人さん。派手にやってくれちゃってもう……」
「誰」
「影人! この方は私たちの長でしょう!」

 中々のイケメンハスキーボイスをもつ見知らぬ変な男に声を掛けられたのだから、こう返事をするのが当たり前だという風な顔で影人守をジッと横目で見る。その影人に影人守はなんの反応も見せずに、気を付けをした状態で白衣の男を見つめていた。影人守が浮べていた表情には恐怖と緊張が滲み出ているのが分かった。

「ヨミちゃんに、奏くん。君らの本業は学生だろう? それなら朝食を早く食べて学校に行きなさい。遅刻をして、補修を受けたり叱られたりするようだったら一週間程度謹慎処分を言いつけるよ」

 先程の柔らかい口調とは打って変わって、鋭く突き放すように言葉を紡いだ。影人守であるヨミは素直に「はい、申し訳ありませんっ」と言い、テーブルに用意された朝食を上半身裸のまま食べ始める。そんなヨミの行動を見て食欲が失せたのか奏は眉間に深いしわを作り、テレビをつけっ放しにしていた寝室へと戻っていった。白衣の男は、まぁ仕方が無いか、と言う様にクスッと笑い、立ち上がる。彼が座っていたソファの一部分は大きな重りがなくなったため、ゆっくりと元々の形に戻っていった。

「ヨミちゃん、私はもう仕事に行くから遅刻しないように君たちも行くんだよ」
「ふぁいっ」

 マーガリンがたっぷりと塗られた食パンを頬張りながら返事をするヨミに小さく微笑む。土足厳禁の室内でサンダルを履いている男に一瞬怪訝そうな表情を見せるも、ヨミも社交辞令と言わんばかりにニッコリと微笑んだ。ヨミの笑顔を見ると安心したのか、男はマイペースにベランダへ向かい、外に出ると17階建てマンションのベランダからなんの迷いも無く飛び降りた。普通の人であれば、知り合いがベランダから飛び降りたとなると何事かと思い直ぐにそのベランダから地面を見るのだろう。だが、ヨミはそのような行為は一切せずに、開け放しのベランダを閉めに行っただけだった。

「かげび……じゃなくて奏。私の制服を取ってくれないかしら」
「ヨミ。俺はさ、もう登校しようと思っているんだ」
「奇遇ね、私もよ」

 ニッコリと微笑んでいるのであろうヨミの表情が寝室にいる奏には手に取るように分かった。

「上裸で、しかもBかC程度の胸しかない女に俺は命令されたくないんだけどなぁ……」
「貧乳はステータスって言葉、知らないのかしら?」
「………。ベッドに出してるよ」

 そう言うと、奏は寝室にある大きな窓からあの白衣の男を同じように飛び出した。ビュウッと風を切る音を耳にしながらヨミは静かにコーヒーを飲んでいた。