複雑・ファジー小説

Re:   殺戮 は  快楽 で ......能力もちキャラ募集 ( No.13 )
日時: 2012/02/11 10:06
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: bJXJ0uEo)
参照: 黒白物語……。スランプだorz殺楽は楽しく書けるのに

 現在時刻はAM8:18。

 ヨミや三日月双子は自分たちが通学している学校へと着実に近付いていっていた。道中何度も下弦が「暑い」「溶ける」「アイス食べたい」と呟いていたため三人の体感温度は他の人よりも高いものだった。中でも、上弦とヨミに一番効いたのが「アイス食べたい」というワードだった。この暑い中棒アイスやカップアイスを買っても直ぐ溶けてしまうだろう。それでも瞬間的に冷えを手に入れることが出来るなら……と二人は考えてしまっていた。

「あ。やっと学校見えてきたっ」

 アスファルトから出てくる熱気に生み出された陽炎の奥に、ヨミが通う高校が見えてきた。その高校は日本有数の進学校であり、マンモス校だ。入試の総合回答率はたったの19%。それなのに倍率が5倍や6倍と、きわめて高いものだった。創立して53年程度しか経っていない校舎は汚れが一つも無い綺麗な白色の外観を持つ。ヨミは、ふっと校舎から三日月双子に視線を移す。下弦は先程とは変わりない、今にも溶け出しそうなほど多量の汗をかいていた。だが上弦だけは校舎をジッと見続けていた。それも四階の一番奥……ヨミと奏がいるクラスを、だ。

「……なぁ」

 校舎を見つつ歩を進める上弦はヨミに話しかける。ヨミは勿論「はい?」と答えた。何も分かっていない下弦は、自分には関係ないものとして割り切りヨミと同じ制服を着た女子生徒たちに声を掛けていた。所謂ナンパという奴だ。それも白昼堂々と。

「ヨミ、ってお前の名か? 山中、ヨミは」
「はい……? そう、ですけど」

 とうに伝えていた自分の名を確認される。それも、自分のクラスを見つめられながら。

「……影人守の、山中ヨミか?」

 その質問にヨミは足が止まった。仕事中は「影人」や「影人守」と相手のことをいう為、誰にも自分の本名を伝える事は無かった。ただ、長とパートナーである奏は例外として。そして影人や影人守は、影に潜む異端の存在として他の者にその実態を知られてはいけないのである。それがどんなに信用できる友達や家族であっても。それを、普通の人間である三日月上弦という一人の男に暴かれたのだ。ヨミは今迄誰にも見せた事が無いような驚きを『足を止める』という行為で表していた。

「なにか、勘付いたんですか……?」
「……ああ。4階の一番奥の所。ベランダっぽい場所に男がいるだろう? あれが、どうも影人じゃないかと思ってな」
「……そ、それで如何して私が影人守じゃないか、と?」
「あの男、何と無くだが此方を気にしている気がしてな。俺や下弦はあの男との接点がないとして、お前はきっとあるんだろう?」

 上弦は、あそこだ、と言い、奏であろう人物が此方を見ている事を示した。ヨミはその指を指された場所にいる一人の男子生徒を凝視する。それは間違いなく木月奏であった。ヨミは此方を見ている人が奏だと知り、大きく溜息を吐く。ヨミが奏を大ばか者だと思ったのは二人がであってから初めてのことだった。呆れる事は多々あるが、特に気にしたことは無かったのだ。
 ハッと、一気にヨミは今おかれている自分の状況に目を向ける。影人でも、影人守でも無い人間に自分と奏の正体を知られたのだ。実際知られたのはヨミの正体だけであり、奏が影人だと知られたのは読みの行動に問題があっただけだが……。それでも、気付かれてしまった。影人と影人守は同じ組織の人間には正体を知られても何ら問題は無い。だが、それが他者に正体を知られるということになったら話は別。影人と影人守として影に潜むことはもってのほか、能力すらを取り上げられ普通の人間として暮らす事になる。今の世の中、普通の人間でも能力を持っている者は居ると言われているが——

「あと、一つ。影人と影人守は他者にばれる事を禁じられてる。俺と下弦はパートナー同士だ」
「え?」
「三日月上弦、影人。三日月下弦、影人守」
「あ! 兄さん、俺らの事ばらしたらダメなんじゃなかったのかよ。なぁなぁばらしちゃったら俺ら普通の人間になるんだぞ?」

 上弦の言葉だけでは信じきる事が出来なかったヨミは、下弦の言葉で二人が自分と奏と同じ影に潜む人間である事を信じた。そして二人が、きっとこれから先自分たちを助けてくれるのではないかと内心安堵していた。

「それじゃ、HR始まりそうなので失礼します」
「……おう」
「じゃーね、ヨミちゃん。また一緒に話せたりとかしたら話そうね?
 取り合えず兄さん。影人やってるのばらして良かったのかちゃんと説明しろよ? それじゃーなっ」

 下弦がしつこく上弦を質問攻めする様子を振り向き様にヨミは見る。その光景は影人や影人守であることを隠しながら生きている人間には見えず、ただ表舞台だけで生きている人間と同じように見えた。
 前に戻したヨミの視界には、ゆらゆらと揺れる陽炎と陽炎の中にたたずむ白い校舎だけが映っていた。