複雑・ファジー小説

Re:   殺戮 は  快楽 で ......記念短編更新 ( No.26 )
日時: 2012/02/14 17:29
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: 5bYoqzku)
参照: 久々の本編。

「遅えぞ、山中」
「あら? 途中で私を置いていったのは誰かしら」
「……チャイムなるけど」
「知ってるわよ、それくらい」

 ガラガラと音を立てて扉を開け教室に入ると、ちょうど真ん中の席に座っている奏に声を掛けられる。他の生徒たちから見てヨミと奏はある種恋人のようにも写っていた。そう他の生徒たちが思っているとも知らないヨミは、敗北感漂う奏の言葉を撥ね返し自分の席に着く。ヨミが机の横にカバンを掛けると、それを見ていたかのような絶妙なタイミングで教室に担任の教師が入り、キンコンカンコンといつも通りの緩いチャイムがなる。いつもと違ったのは担任である縁川洸太(みどりかわ こうた)の幼く可愛らしい顔が、満面の笑みを浮かべていたことだけだった。この縁川という男、男というには勿体無い男だった。華奢で細い体に茶髪の童顔。声も成人を迎えた男性とは思えない、透き通るアルトトーンの持ち主だ。

「お前らー、なんとなんと! このクラスにも飛び級生がきったぞー!」

 朝から無駄にテンションが高い縁川。それでもこのクラスの生徒たちは一緒になってテンションが上がる。ただ二人を除いては、だが。うおおおおおという野太い歓声のあと、生徒たちは近くに居るもの同士でざわめき始めた。男か、女か。かっこいいか、かわいいか。イケメンか美少女か。背は高いのか、低いのか……。下らない詮索をする生徒たちが心底阿呆らしいとヨミは口の中で呟く。声には出さず、呟く。それに気づけるのは、この教室内だと奏くらいだろう。案の定、奏はヨミをじいっと見ていた。それも頬杖をしながら、じいっと。奏を知らない女子生徒なら、中の上の顔立ちである奏に見られれば悶えるのだろうが、ヨミは違う。毎日毎晩、奏と会い、奏と戦っているのだ。『異型』となる可能性がある人間や動物たちと。

「んじゃ、入っていいよ。むしろ入って自己紹介しちゃってください!」

 ヨミは笑顔でテンションが高く饒舌になっている縁川と、お喋りが大好きで元気な下弦を照らし合わせていた。
 
 ガラガラガラッ! と勢いよく扉を開ける音がして一人の女子生徒が堂々と教室に入ってくる。彼女の容姿は、いうなれば『アニメ界の子』だった。日本人ではないことが伺えるクリーム色の綺麗な髪。吸い込まれそうなほど大きく、輝いている赤い瞳。その瞳が印象付ける肌の白さ……。貴女は二次元の方ですか? と質問したくなるほどだ。いや外人のオタクならしているかもしれない。

「私はフルフル! 本名フルリナ・ミタージュという者!」

 その自己紹介はかなり短く、それでも相手に自分の名前を印象付ける簡潔な自己紹介だった。
 思っても見なかった飛び級美少女の登場に、半数以上の男子が、おおおおおおおと歓喜の声を上げる。それを見て女子の「ロリコンかよ」との呟きもその雄叫びとも言える声に掻き消されてしまったのだった。

「お前ら、男女関係無く仲良くしてあげるよーに、いいな? 仲良くしない奴は先生からの宿題いっぱい出すからなー。
 フルリナさんの、席は山中の後ろでお願いね」
「はい! 山中さんよろしくですっ!」
「え、えぇよろしく?」

 ハイテンションの縁川とフルリナ。ローテンションのヨミ。
 三人がした会話を聞いていた生徒たち全員が、絶対ヨミはフルリナが苦手になる、と感じでいた。ヨミ自身も、そのことはうすうすと自覚していた。