複雑・ファジー小説
- Re: 殺戮 は 快楽 で ......短編更新。 ( No.44 )
- 日時: 2012/02/22 19:00
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: 5bYoqzku)
- 参照: 失意の終焉——死をもって生を咎める
第二話『犬と伊野塚と映像と』
キンコンカンコンと5分休憩の終わりを告げるチャイムが全校に響き渡る。流石にどの生徒も規律には応じチャイムが鳴ってから席に着くものはいなかった。“いなかった”と言ってはみるが今回ばかりは少し違う。チャイムが鳴っても教室に“いなかった”生徒が二人だけいたのだ。それは名前を出さずとも分かるであろう、ヨミと奏だ。教室内は一緒に出て行った二人が何を話しているのか、どのような展開になっているのか、その話題で持ちきりだ。教室内が一際ざわついている時、ガラガラッと大きな音を立てて扉が開く。条件反射で話をしていた生徒たちは、静まり返り開いた扉を凝視していた。中に入ってきたのは、爽やか好青年として後輩の間で密かに話題に上っている木月奏。美麗で上品なことから影ではファンクラブでもあるという噂がある山中ヨミ。ほぼ毎日テンションが高いことで全校の人気者となっている縁川洸太の異色の三人組だった。
教室内では無表情で面倒くさがりのように振舞っている現在無表情の奏。教室に足を踏み入れた奏と縁川の表情は何時もと変わらないものだったが、最後に入ってきたヨミだけは顔を林檎の様に真っ赤にし俯いていた。その瞬間、女子生徒たちは大きな勘違いをし始めた。『木月くんがヨミっちに告白をしたんだ!』と。
男子も女子と同じように考えていたのかもしれない。口々に「奏お前山中になにしたんだよ」や「ラブラブですなぁ、ご両人!」など思春期真っ只中の高校生としてみれば酷く辛い悪口としても取れる単語を連ねる。それも悪気は一切なく、ただからかいたいという欲望に任せて、だ。
「お前らー。女子のこといじめんなよ? せんせー怒って成績1にしちゃうからなー?」
何時もと同じ口調で注意する縁川の言葉は普段では何でもないようなものだとしても今、この瞬間だけは違った。有無を言わさない圧力があるように感じられたのだ。この教室内の三人には。
それに気付いていても縁川に救われた、という嬉しさと縁川に救われた、という悲しさがヨミの心を締め付けていた。教室も、縁川の発言に一瞬で静まり返っていた。
「なぁ、みどりーん。座る場所ってさ、テレビ見れれば何処でもいい?
大切な映像ってコトは重々承知してるんだけど、好きなもの同士とかで見たいじゃん? 2時間も続くんだからさ」
奏はヨミを一瞥してから言った。
そのことは縁川も察したらしい。他の教師なら「NO」と答えるところを縁川は「YES」と答えてくれた。それから数分間、生徒たちは思い思いの場所へ席を移動していった。男子は仲のいい男子同士で、女子もその点は一緒だった。フルリナは何時仲良くなったのか……4人で編成されていた女子グループの中に吸い込まれるように入っていった。奏は当たり前のようにヨミの隣へ。二人の後ろに座っている男子の陰口とまではいかない言葉がよく耳に入ってきた。
「んじゃ、大体終わったと思うからせんせーは話し勧めていくぞ。まず映像を見る前に警察たちの調査で分かってる影人のアビリティについて説明しとくぞ。
まず1つ目! 『快楽主義(ワール・ド・エンド)』って能力。裏では血塗られた魔物って呼ばれてるらしー。詳細としては、体内の血液が吹き出るようにして体外へ全部流れてく。痛みは伴わないらしくて、伴うのは快楽のみっ!
2つ目ー。『詐欺師の声(ペテンヴォイス)』。これは謎に包まれててよくわからんらしい。詳細は不明。
最後の3つ目『目先の情報改(ニュウ・アイビルデータ)』これも良く分からないらしい。ただ戦闘を行ったことある重症患者が言ってたんだけど、こっちの身体能力や使ってきそうな業は全部読まれてた、ってさ」
縁川は此処で一度話を切った。マシンガントークのように一人で長々話すのに疲れていたのか、アビリティを聞いた生徒たちが恐怖に犯された表情を逐一確認しようと思ったのか、不明だった。
ただ、今の話で変化したことがあった。普段なら気の強い女子生徒のリーダー的存在にいる生徒たちが『快楽主義』を聞いたとき「気持悪い」と呟きガタガタ震え始めたのだ。どうせ女子お得意の被害妄想なのだろうと奏は簡単に片付ける。だが奏にとって不可解だったのが、フルリナだった。影人のアビリティの説明を聞いていながら顔色一つ変えなかったのだ。恐怖に囚われている様子すらない。それが不思議で堪らなかった。