複雑・ファジー小説
- Re: 殺戮 は 快楽 で ......第二話更新開始! ( No.45 )
- 日時: 2012/02/22 19:00
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: 5bYoqzku)
- 参照: 失意の終焉——死をもって生を咎める
その様子を見ていた緑川が、一息ついてまた口を開く。
「怖いっていうのは、せんせーも同じだ。でもな? 怖い怖いって言ってる暇があったらちゃんと相手のことを知っていないといけないんだぞ? だから、今はせんせーの話をちゃんと聞いて。夜であるかないようにしないと怖い怖いって怯え続けることになるんだぞー」
真面目にカッコいい事を言う縁川に、女子生徒は心を奪われていた。女みたいなその顔と、男とは思えないアルトがとても優しく大きなものに思えたのだ。「大人って、卑怯よね」苦笑を漏らしながら呟くヨミの横顔が、とても可憐で触れてはいけない宝物のような錯覚に囚われる。それから直ぐに“自分はなんなのだ?”と、奏自身も分からない問いがぐるぐる頭の中を回り始める。脳をフル回転させながら考えるも、答えは一向に出てこない。ただヒントだけは出てきた。“自分は相棒ではないのか?”と。それは奏が自分自身に問い掛けた初めての問いだった。縁川に一生徒として苦笑しているヨミの顔の可憐さが、縁川に好意があるものだと勘違いしたのだ。いま自分が出来るのはヨミに心配をかけず、それでいて、このもやっとする感情を悟られないように生活しなくてはしなくてはいけないのだ。……だから、だから変な問いを俺に出すな! 奏は唇を強く噛み締め拳を強く握った。
「んじゃ、アビリティの話の続きな。影人の特徴ってやつな。これまたいっぱいあるからちゃんと聞くように! せんせーが話し終わったら休み時間入ると思うからなー。
1つ目ー。影人が行動するのは深夜のみ。普段は何の変哲もない一般人として生活してるらしい。あ、深夜ってーのは夜10時から朝3時までのことだからな。間違えないように。
2つ目、ターゲットにはアビリティを無差別乱用する。……らしい。せんせーも自信ないんだよ。まー、許してなっ!
3つ目。第六感(シックスセンス)に優れてる。普段一般人として生活してる分、第六感は何らかの手段で押さえ込んでるらしい。せんせーとかお前らみたいな一般人と同じくらいまでな。
4つ目。影人は【影人守】って呼ばれる奴と行動を一緒にするらしい。この二人でペアを作って、ターゲットを絶命へと追い込むんだってよ。単独行動をする奴は、現状発見することが出来てないそうだ。
5つ目なー。影人、影人守、影由、影獣。なにかわかんない奴が全員だと思うけど、これは【影人】って総称されてる奴ら個々の名称。残念ながら、まだ影人以外は警察さんお目にかかれてないらしい」
ふぅっとたくさんの息を吐き出す縁川。生徒たちは真剣なまなざしで縁川を見続けていた。一字一句間違えないように、脳に詰め込む。現在出ている影人たちの新鮮な情報を。授業をあまり真剣に取り組まない生徒たちを見ていることが多かった縁川は、そのあまりにも真剣なまなざしに内心噴出しそうになっていた。ただそんな失礼なことは死んでも出来ない。自分の弟と同じくらいの年代の子たちが、しっかりと話を聞いていたのだ。それを妨害するような野暮なことは、教師という立場になかったとしてもすることは出来なかった。
『——ヨミ、ちゃ……』
「っ!?」
ヨミが急に椅子をがたんと鳴らし窓の外を見る。その行動と何かが来ることに恐怖している様子は、無条件で恐怖を生み出す。
「山中」
「っ!」
「山中。大丈夫だって言ってるだろ? 兄さんがやってくれたって言ってだろ。聞こえたのは俺も一緒だ。でも、今はそんな事に怯えてる場合じゃない。影人たちの特徴を知って、その時間帯に出かけないようにする。それが俺たちが今すべき事だろ。話は、後でちゃんと聞いてやる」
窓の手摺を強く握り締めているヨミに、奏は縁川から視線を外さずに言う。その言葉がどれほど説得力があるものなのか、他の生徒たちには知る由もなかった。否、知る必要は皆無だった。知っていないといけなかったのは、覚えていなくていけなかったのはこの空間でヨミと奏だけだった。
落ち着きを取り戻したヨミは「ごめんなさい」と詫び、自分の席へとついた。