複雑・ファジー小説

Re:   殺戮 は  快楽 で ......参照300超感謝! ( No.46 )
日時: 2012/02/22 22:43
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: 5bYoqzku)
参照: 失意の終焉——死をもって生を咎める

参照300突破記念

※木月奏視点

『スイーツ男子を目指して』

「ってことで、ケーキを作ろうか」

 アジトへ着いたとき、伊野塚の口から開口一番に出てきた言葉。
 スイーツ男子? 俺は肉食系男子なんですけど。

「上弦も下弦も準備してくれてるんだから。奏くんも早くねー」

 そういってキッチンへ消える伊野塚。
 後ろから俺を見ていたヨミは「あんたに料理できないじゃん」という目を向け、無言で俺を蔑んでいた。
 だって料理って基本女子じゃん! 男子じゃねーじゃん! そんな俺の叫びは虚空へ消える。
 寧ろ消えない方がおかしい。

   *

「じゃぁ、ショートケーキを作ろうか!」
「伊野塚さん伊野塚さーん、これって作ったら女子とかに食べてもらうんですか? 俺それだったらめっちゃ頑張ろうと思うんですけど。いや、むしろ食べてもらいたい! って」
「……下弦。うるさい黙れ」
「ああん! 兄さん冷たいよ! もー……」

 何この和やかな不思議空間。
 伊野塚さんの後ろにはボウルとか泡だて器とかケーキ作るのには十分すぎるくらい物がおいてある。
 え、ショートケーキってこんなに生クリームいるっけ? 
 ちょっと誰か俺の疑問を解決してください。
 そして三日月ブラザーズがうるさいです。主に弟だけど。

「私はとりあえず、既製品のスポンジにクリーム作って塗っていくから皆は果物切ってね」

 ウインクする大の大人。
 『痛いです』とでも俺に言わせるつもりですか伊野塚サン。
 痛い伊野塚さんから視線を移した先に見える山のような果物。
 イチゴとかあまおうのでかいのがいっぱい入ったパック。3つもある。
 対してスポンジは薄くて小さいのが2枚。てか、チョコレートが大量にあるって何コレ怖い。
 ショートケーキを作りたいのかチョコレートケーキを作りたいのかなんか俺にはわからない。
 なんか分かりたくないって思った。

「さ、きろーぜきろーぜ! 楽しもうぜ」

 満面の笑みで心底楽しそうな下弦さん。上弦さんも満更でもなさそうに調理へ取り掛かる。
 なんですか。皆草食系ですか。スイーツ系ですか。
 そんなんだから、へたれ、とか云われるんですよ。分かってますか。

「奏」
「はい」
「やれ」
「……はい」

 とか悪態ついても上弦さんには適わない。ていうか勝とうと思えない。
 絶対負けるし。幹部には負けるし。ぼっこぼこのめっためたに負けるし。
 唯一自分が勝てるとしたら……メガネの似合い具合? あれ、なんか自分で言って少し傷ついたかも。まぁ気にしない。

「うっあー……めっちゃ涙出る」
「「涙ァ!?」」

 驚いたのは俺だけじゃないです。上弦さんもです。
 だって、ケーキ作るために果物切ってるのに涙が出るんですよ!?

「だまねぎぃ……」

 下弦さんの指差すまな板の上を見る。……確かに玉葱があった。
 俺たちって、今ケーキ作ってんだよ、な? なんで玉葱なんかあんの?
 
「まぁ、全部切ってしまえ」
「う゛ー……」

 その話を切り捨てるようにまた十分の作業に戻る上弦さん。初めて俺は上弦さんを凄いと思いました、と心で呟く。
 声には出さない。っていうか出せない。
 この人の能力怖いし。なんかもう全部食われるし。
 つか伊野塚サンクリームつくるのはやーい。

「皆、クリームできたよー」
「こっちも出来ましたよ、伊野塚サン」
「できましたー……」
「あ、終わってます」

 上から順に。伊野塚サン、上弦さん、下弦さん、俺。下弦さんのテンションが低めなのは玉葱のせいだ。

「それじゃあ飾りつけよう!」
「「「おー」」」

 元気いっぱいの伊野塚さんに面倒くさそうなその他三人。
 何この温度差。謎。謎なんだけど。

  *

 そして……現在に至る。
 目の前におかれたショートケーキ。
 ぱっと見普通のショートケーキ。
 食べたら驚きの玉葱とニンジン入りのショートケーキ。

 俺たち四人は今から挑戦するつもりです。

 でわ、逝ってきます!