複雑・ファジー小説
- Re: 殺戮 は 快楽 で ...... 第二次キャラ募集なう ( No.73 )
- 日時: 2012/03/15 22:23
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: vQ/ewclL)
第四話『最後の日常』
すりガラスを放置したまま、続々と集まってきた影人のメンバー達。中には、還暦をとっくの昔に迎えているであろうご老体の姿や小学生の姿もちらほら見受けられた。だが、そんな小さなことに抗議をするような人間は一人もいない。皆“自分は守人と協力し仕事を終わらせるだけ”と考えているのだろう。
「あれっ……。なんで皆こんなに早いの? 集まってとは言ったけどさ」
素っ頓狂な顔で入ってきた伊野塚に、総勢十数名の二十数個の目が向いた。鋭い視線ではなかった。多くは瞳に優しい笑みが映っているものが大半であった。
「まぁ、取りあえず私からの報告をしようかな。皆座っていいよ」
緩い優しい声で着席を促す伊野塚の声に従わないものは一人もいなかった。全員が全員、デスクチェアに腰を下ろす。伊野塚はその様子を一通り見た後、自分の机の元へマイペースに歩いていく。クソ暑い夏なのに熱が篭る白衣を着ている点以外は、普通の一般男性だ。
(人は見かけによらないってか)
(影人、煩いわよ)
小声で呟く奏に、同じく小声でヨミが返す。先程までの親し気な様子を感じさせない、仕事モードへとヨミは切り替わっていた。そして影人である奏もまた、ヨミから『影人』と呼ばれたことで仕事モードに切り替えなくてはならないという事を認識したのだった。
「多分、学生の子達は見たんでしょ? 咎と私の影像を。
私はね、つくづく自分が馬鹿だなって実感したんだよ。一番“使えなくなった仲間は捨てるべき”って考えてた私が、だ。その私が、今回仲間を、駒、と考える男と出会って、仲間を守る発言をしたんだ。
木月くん、あの私……どう思った?」
長々と一人で話す伊野塚から視線を外すものは一人もいない。瞬きすらをもしようとしない者も中には見受けられる。それほどまでに、影人たちから尊敬され、愛されている伊野塚から質問を受けた奏は面倒くさそうな表情を浮かべるだけだった。
無論、奏には十数名の視線が一斉に集まる。影人の中でも、奏は数ヶ月しか任務をこなした事が無いが、緻密な戦略を練りながら戦い、そして任務もこなす彼には、他の影人も尊敬する面を見出していた。
「んー。まぁ良いんじゃないですか? 一番驚いたのは、咎が人間を喰らった事ですけどね。
どうせ後々壊すような人間だったから、咎が早期に壊したんだと考えたいですけど、もしそうじゃなかったら、って考えると恐ろしいことですよ。
無抵抗で、非力で、無能で、無価値な人間を壊すっていうのは。
壊す人間には壊すための理由が存在する。……これは俺の持論ですけど」
背凭れに重い背中を預けながら、奏は言った。その言葉には、少なからず棘が含まれていた。
「——でも。咎が喰らう必要があったんだろうと、俺は判断しますよ? 幹部組みが何を思うかは知らないですけどね。
頭のお堅い人間は、損をする。……これも俺の持論です。
まぁ、伊野塚さんに非はないでしょう。特に変な点は、見受けられない」
一度口を閉じた奏から発せられた言葉は、今度は伊野塚ではなく、幹部組みへの棘だった。