複雑・ファジー小説

Re:   殺戮 は  快楽 で キャラ募集なう+参照600感謝! ( No.79 )
日時: 2012/03/21 21:41
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: vQ/ewclL)

「えー。て言う事はなんですか。俺の責任ってやつっすか?」

 奏が口を尖らせながら言う姿に、伊野塚は苦笑してみせる。一概に、奏のせいと言うことが出来なかったというのもあったが、一番は奏の唇を尖らせた顔に対する反応に困ったからであろうことは、他の影人たちも薄っすらと感じ取っていた。

「まぁ、対象者の名前を教えておくね。対象者、陽人の献灯犬(けんとう けん)。高木君の通う中学の先輩、かな?」
「あ、はい」

 急に話題を振られた高木は、ぱっと顔を上げ返答する。対象者の献灯犬が、同じ中学校の先輩であるという驚きやショックがあるのか、それ以外の理由があるのか、誰にも分からなかった。奏も尖った唇を元に戻し、浮かない顔をする新羅を横目に見ていた。

「対象者の、監視といっても主にどのように? 背後をつけるといっても、陽人と呼ばれる対象者には無意味だろう……。そうなると、上から監視しても下から監視しても、無意味だ。
 圭二さん、どうするつもりだ?」

 真剣な表情で伊野塚を見つめながら、普段なら一言も発さない上弦が口を開く。ヨミや新羅は、驚きながら上弦を見る。下弦はすでに飽きたようで、自分の席からゲーム機を持ってきてロールプレイングゲームをやり始めていた。イヤホンも付けず、音も一切経っていないところから見ると、話だけは聞いているらしかった。
 上弦のごもっともな意見に悩んでいたのは伊野塚と、木月妹……木月愛であった。中学生よりも高校生よりも専門学生よりも真剣に悩んでいるのが小学生だというこの光景は、一般的な人からしてみると不思議で違和感のある光景であることが簡単に予想された。

「けーくんが考えてもわかんなかったら、私にもわかんないと思うの。
 でも、かなくんにも、しーくんにも三日月にーちゃんたちにも、ヨミちゃんにもわかんなかったら、どうしようもないなーって思うの!
 けんとー君は、ふつーに尾行とかしたほーがいいと思うのっ!」

 と、大きな目を輝かせて元気いっぱいに言う愛の言葉に、反論すべき点を見出しても、本当に反論するものはいなかった。

「それじゃ、献灯犬くんの尾行は……んー。三日月兄と木月兄妹でお願いしようかな」
「なっ!? 奏のパートナーは私ですし、それに影人だけのメンバーなど危険すぎます!」

 椅子をガタンと鳴らしながら立ち上がったヨミに六人の視線が集まる。ヨミの考えは、当たり前であった。
 本来ならば、影人守とパートナーで行動すべきである影人が、影人守をつけずに、影人三人だけで行動するというのだ。一言で言えば、自殺行為。
 理由をつけるならば、影人は相手を倒すための、壊すための、殺すためのアビリティしか持ち合わせない。それはつまり、自分のみを守る術を持ち合わせていないことになるのだ。伊野塚が影人を作った当初から、影人守として影に潜んで生きてきたヨミとしてはあり得ないことだった。

「知ってる。知ってるとも。影人を作った私には、当たり前に分かっているよ?」

 優しい、穏やかな口調で言う伊野塚に、ヨミは食って掛かる様な瞳を向ける。『それならば何故』と聞きたがっているのは簡単に知ることが出来た。このヨミと伊野塚の会話に、他の影人達が介入しないのは、ただこの会話の結末を知りたいという好奇心の現われであった。

「だからこそ、って言ってもヨミちゃんは納得しないよねぇ……。やっぱり、君と口論するの、私には難しいなぁ。
 私が負ける、とか言うわけではないんだ。ヨミちゃんを言い負かすことの必要性が、わからないんだよ」

 ごめんね、とでも言いたげに苦笑を漏らす伊野塚を見て、ヨミはもう何も言うことがなくなったと言うように、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。