複雑・ファジー小説

Re:  殺戮 は  快楽 で【第六話完結 参照1000突破感謝!】 ( No.98 )
日時: 2012/06/04 16:56
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: PFjKkEo.)
参照: 保留解禁

「ちょっ! ちょっと、待ってよ!! ね、ねぇそうだ! 話し合いをしよう!? ね、ねっ!?」

 手のひら返し。一番、この状況にふさわしい言葉。反旗を翻し、伊野塚を討とうとした彼らが、今度はその伊野塚に命を助けてくれと、願いを請う。「……ありえない」ヨミは怪訝な表情を彼らに向け、小さくつぶやいた。
 それでも、力を溜めるのを止めない伊野塚にある者は恐怖から体を震わせ、ある者は体を強張らせ少しずつ足を後ろに下げていく。それを見て、伊野塚は不敵な笑みを浮かべる。

「待って! 待ってって——」
「Good Bay」

 有無を言わさず、伊野塚は右手から青白く太い光線を出す。その光線の軌跡は、真っ直ぐに伸び一切としてぶれない。床の汚れや、置かれたままの作業用コンテナ、そして裏切り者の彼ら。
 例外はなく、すべてが塵芥(じんかい)より小さく、消えるまでその光線は強く彼らを貫いていく。その青白い光は屋内だけでなく、割れた窓から外に漏れ出していた。

「……二人とも、大丈夫? 立てるかい?」

 光線が徐々に細くなり、線が無に消えた後、伊野塚は一つため息をつき、ヨミと上弦に向き直る。向けられた笑みは、先ほどの不敵な笑みとは打って変わり、自愛に満ちたものだった。
 それを見て、上弦とヨミは笑顔をもらす。暗闇に慣れていない目では、輪郭とうっすらとしてた表情しか確認することが出来なかったが、それでもその笑みが優しいものであるとすぐに分かったのだ。

「まぁ、贔屓にしてるのは本当だよ。それに私は、君たちに危害を加えるつもりはないからね。
 心配しないで、ね?」

 どこかご飯食べに行こうか。お腹がすいたんだよねぇ。
 伊野塚の和んだ口調に、三人で仲良く笑っていた。

 それっきりだった。上弦の、本当の笑いを見たのは。

 *

「おーいー? ヨミ、どーすんだー? 今日の仕事」
「あっ、ごめん。ぼーっとしてた」

 苦笑しながら、ヨミは浸っていた思い出にふたをする。それから、いつの間にかテーブルの周りに集まっていたみんなに、真剣な表情を向ける。
 正面にいた上弦に視線を少し向けると、気づかない程度の笑みを見せられ、ほほが少し赤くなってしまう。

「あっれー? ヨミちゃんどうしたの? 顔赤いよ?」
「なっ、なんでもないです! それより、今日の仕事について話し合いましょう!」

 赤面した顔を下弦に指摘され、慌てて話をそらせる。全員が、どこか不振そうにヨミを見ていたが、すぐに真剣な表情に戻り各々考えていた作戦を、口々に提案し始めた。