複雑・ファジー小説
- Re: 殺戮 は 快楽 で 記念番外『BAD*END』更新! ( No.100 )
- 日時: 2012/06/12 14:05
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: /f6cMoTi)
第七話『作戦実行献灯君』
時は満ちた。
沈黙に包まれた室内を、上弦の声が照らす。腕を胸の前で組み、静かにまぶたを閉じていた。その声を始まりの音に、奏たちは音を立てずに立ち上がる。皆、歪笑を浮かべていた。
外に繋がる扉ではなく、全員が全員、誰も止めることなく大きなベランダへ向かう。大勢が玄関から出るところを誰かに見られていたら、それだけで何かの証拠になるかもしれないからだ。
「作戦は全員覚えているわね?」
ヨミがベランダの下をおぞましく飲み込む闇を見つめながら、問う。各々頷いたり、勿論、と声を上げたりした。それを聴いて、ヨミは満足そうに、ゆっくりと瞬きをする。
「さぁ、行くよっ!」
言うが早いが一斉にベランダから飛び降りる。ヨミは迫りくる闇に、伊野塚が飛び降りていくビジョンを思い出した。あの時は、朝だったな。思い出すと、口元が少し揺るんだ。
「なぁヨミ。けんとーつったっけ、バイトの弟」
かつんっと人一倍大きな革靴の音を響かせた奏が口を開いた。ヨミは数秒遅れて着地をし、声を出さずにうなづいた。それを見て奏は深く面倒くさそうにため息を吐く。
実際、こんな面倒なことになったのは自分のせいでもあるので、奏は文句が言えないのである。
上弦が、腕時計を確認する。
「……八時五十分か、そろそろだな」
「新羅くん、愛ちゃんのこと守ってあげてね。相手は先輩かもしれないけど——」
容赦はしないで? そう言おうとした口を、ヨミは紡ぐ。彼はきっと言わなくても分かっているから。最後の審判を下すのは、自分ではなくパートナーである愛だということを。
そして、彼自身が愛の審判の手伝いをしどんなに結果になろうとも、最後まで仕事をやりぬくであろうから。新羅のまっすぐな視線を見て、ヨミはそう感じ取った。
「俺は別に平気ですから、心配しないでください」
「しーくん、無理はしなくていいんだからねっ!」
普段どおりの口調が、愛にはきっと強がりにも聞こえたのだろう。ぎゅっと新羅の手を握り、舌から顔を覗き込みながら、愛は言う。場に和んだ空気が、瞬間的に流れ去っていった。
上弦が、全員の表情を確認する。全員、無理な力が入っていない万全な状態であった。上弦はうっすらと笑みをこぼす。気づいたのは、ヨミだけであったが、それはそれでヨミは満足していた。
「開始だ。ヨミと新羅と愛は俺と一緒に来い。奏と下弦は、西方向から行ってくれ」
五十五分を指す時計を見やり、口早に行動を促す。奏と下弦はニヤニヤ笑いながら、西へと走っていく。二人には、上弦が重要な配役をまわしていた。
一歩間違えれば簡単に自滅に向かう、それだけ上弦は説明していたが、二人なら平気だろうという旨での決断であった。