複雑・ファジー小説

Re:  殺戮 は  快楽 で  第七話『作戦実行献灯君』更新 ( No.103 )
日時: 2012/06/17 21:56
名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: iIdSnc5m)

「俺たちも行くか。アイツらは、後役だからな」

 時計をかちゃかちゃと弄っていた上弦が、手を止め歩き出す。二人とは違い、北側へ。マンションから北の地域には、新羅とターゲットである献灯犬が通う中学校がある。
 私立のため、他の中学よりは高度な授業を展開しているが、学力はピンきりだ。伊野塚の事前調査では、献灯は不良ではあるが仲間や後輩を大切にすると、評判が高いらしい。
 献灯が新羅を大事にしていたかどうかまでは、分からないらしかったが、もしそうならこの作戦に参加させたのは伊野塚のチョイスミス、ということになる。

「上弦さん。私、昔のこと思い出してたんですけど、馬追兄弟の中で治癒守護使う方、いるじゃないですか。
 あれって、元々伊野塚さんの……アビリティですよね」

 暗がりから抜け、街頭が途切れることなく道を照らす広い道路へと出る。見られなかった上弦の表情が、目に映る。それは何処か、ヨミの知らない遠い世界を見ているようだった。
 それから徐に、上弦が口を開く。

「お前は、知らなくていい」

 低く、見えない世界の戒めに縛られているように、上弦は言った。その言葉に、ヨミだけでなく新羅と愛も反応した。ヨミの問いを聴いていたのだろう。
 しっかり、闇に吸い込まれる前に、ヨミの言葉を。現場同様、一度聞き逃してしまえば、二度と耳に入ることのないその普段よりも小さなヨミの言葉。
 そして、それに対しての上弦の答えも。二人は聴いていた。証拠に、楽しそうに新羅と手をつなぎ歩いていた愛の表情は、簡単に暗くなりうつむいていた。まるで今にでも泣き出すのではないかと、心配するほどに。

「みーくんは、お姉ちゃんのこと、きらいなの?」

 ぎゅっと、彼女の持てる微力で新羅の手を握る。その声は、震えていた。離婚のため、親権の判断を子供に託した大人たちに、一緒に居ようと説き続ける子供のような、声だった。
 愛の頭を、ぽんぽん撫でながらヨミはにっこりと笑う。片方の手で、新羅の頭も撫でた。ああもう、可愛いなぁなんて呟きながら。上弦も、愛の頭に手を置きながら小さくため息をつく。

「……みーくんは、俺か……。愛、だったよな。俺は、ヨミが嫌いってわけじゃない。ただ、アイツにはまだ早いんだ。
 俺が伝えていい時期は、まだ、まだ先なんだよ」

 ちゃんと教えるから。最後にそう言って、とめていた足を動かす。三駅分ほど歩いた先にある、新羅の通う中学校まで。