複雑・ファジー小説
- Re: 殺戮 は 快楽 で 参照1100突破感謝です! ( No.105 )
- 日時: 2012/06/28 18:16
- 名前: 柚子 ◆Q0umhKZMOQ (ID: MT1OWC7F)
「……下弦さん」
動きを止め、ひっそりと声を出す。眉間にしわを寄せ、周りの空気の変化を感じている下弦には、その声は届いていなかった。ゆっくりと周りを見渡し、環境雑音を拾っていく。
ある高層ビルを見上げた状態で、下弦の動きが完全に静止した。一定のリズムを刻んで光るライトの傍を、凝視していた。傍から見れば、ただ四角いシルエットが薄っすらと見えるだけである。
その屋上を睨み付けたまま、下弦はカツンと音を鳴らした。徐々にその音は加速していく。交互に、カツンカツンと。
「ちょ、下弦さんっ?」
どこいくんですか。その後に続く言葉を放つ前に、激しい破壊音とその音によってもたらされたであろう爆風が、奏を襲った。顔の前で両手を組み、アスファルトの破片が顔に当たるのを防ぐ。
うっすら開けた目には、同じようにしている下弦の姿が窺えた。——下弦さんじゃ、ない? そしたらこれ……誰だよ。
整理の付かない脳内を、必死にフル回転させる。
「君たち、僕らを置いていかないでよー」
「全クダ」
風が治まり、宙に舞った瓦礫の塵芥の中に二つの小さなシルエットが浮かび上がる。声だけで、それが馬追兄弟だと分かった。
「千万に零じゃん。敵かと思って身構えちゃった。てへぺろっ」
片目を閉じ、どじっ子ポーズを決める下弦を無視し、二人が奏へ歩み寄る。ふーんとか、へぇ、とか言いながら奏の体を舐めるように見ていた。
悲しそうな目で馬追兄弟と見るが、それすらも無視をされ、下弦は一人で穴の開いたアスファルトの中を覗きはじめる。
「奏くんだったよね。君は、ヨミちゃんのパートナー?」
一歩はなれたところから、零が腕を組み言う。奏は何処か釈然としない様子で、いい加減に頷く。それを見てから、零は千万と顔を見合わせ苦笑いをこぼす。
「それなら、もう少し警戒心と環境雑音とかに気をつけないと、君、ヨミちゃんを守るどころか自分すら守れないよ?」
嘲笑混じりに言われた言葉に、小さな血管がピキと音を立てる。零は、聞かせるようにため息を吐き口を開く。
「お前さ、フィジカル関係ないとか思ってると思うけど、いやまぁ関係ないけどさ?
ある程度筋肉とかつけておかないと、お前、すぐ死ぬぞ。これ、冗談じゃなくて本当だからな。
一応、伊野塚の中にいたから俺たちにはなんとなく分かるけど、お前はわからんべ?」
“伊野塚の中にいたから”このワードが、奏の中で疑問として残った。