複雑・ファジー小説

Re: 魔術と人造人間の一日。 ( No.4 )
日時: 2012/02/26 12:13
名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)


柚子様 コメントありがとうございます!

再びのろまに更新していきます←

§一話 始動(1)§

奈木高等学院。
それは、皇居や日本一の業績を誇るアミューズメントパークなどよりも大きいのではないかと噂される程の膨大な面積を持つ、京浜地区のド真ん中に建つ言わば魔術の専門学校だ。
だがそこは、街並みと同じく申し訳ないように通る狭い道しかない。間違いなく面積の九十九%を建物が占めている。
 昇降口から始まり、授業棟、実技棟、果てには研究所のある研究棟まで。
 そこはまさに、魔術の学校を形容するに相応しい学校だ。
昇降口を抜けると、様々な生徒がゲートの奥で魔法陣を描きながら瞬間移動魔術の術式を詠唱していた。
ここが学校内の移動拠点だ。教室から教室へ、という移動はできるが家から教室へ一度に移動することはできない。
 不審者対策の為、ここで学生証のIDカードを専用機械へタッチしなければ、校内へのゲートが開かれないからだ。もし、家から教室へ飛ぼうとしてもこのゲートで弾かれ、昇降口に着いてしまう仕組みなのだ。
淡く緑色に光る、様々な記号や意味を成さないアルファベットがくるくると回るゲート。
 そこへ裕貴がIDカードをタッチすると、すんなりとゲートは真っ二つに割れた。
 だが、裕貴がゲートを潜り抜けるとすぐ閉まり、再びくるくると回りだした。
(ッたく姉貴は……)

『やっば急がなきゃ!』
遅刻寸前になった速水は、しばらく酸欠状態の魚のように口をぱくぱくさせた後、
『私、瞬間移動魔術で行くから!あんた頑張って走りなさいよ!!』
と自分だけ魔術を使って移動してしまったのだ。
お陰で裕貴は全力疾走をする羽目になってしまった。

(送ってくれればよかったのによ……)
気が利かないな、いや自分もか。姉弟だもんな、そんなとこ似ても困るけど……とぶつぶつ呟きながら裕貴は隅っこの階段を上る。
階段を上がり、教室へ向かう道で毎度毎度裕貴へ向けられるのは、あからさまに好奇に満ちた視線だった。
ここに来る者は、皆何かしら魔力を持っている者だ。
微弱な魔力しかなく、研究段階とは言え初歩の初歩である瞬間移動魔術も使えずいざ魔力がなく魔術が使えない時用に設けられた非常階段を使用する裕貴は、文字通り“部外者”なのだろう。空気の様に扱われていないだけまだいくらかマシなのだろうか。
研究により出されたと言う見解によると、魔術は光と闇から派生していったらしい。
 やがて光から炎が。闇から水とが。炎と水が混ざり合い風と地が生まれた。
そして、全てが混ざり合い花を咲かせたり瞬間移動ができる、などという“無色”と呼ばれる魔術が出来上がった。
だから、魔術師と呼ばれる者には皆、光、闇、炎、水、風、地のどれかの力かそれに派生した雷や言霊、精霊召還などの魔術、そして“無色”の力を持っている筈なのだ。
だが裕貴はほんの僅かな“無色”の力しか持っていない。それはこの世界の常識では“おかしい”ことなのだ。
 おそらく、皆の視線には好奇と、さらに厳密に言えば侮蔑も混じっているのだろう。
そんなことを思いながら、裕貴は教室の扉を開けた。

教室に入ると、
「はよっ、裕貴!!」
と勢いのいい声と共に、ガシッと手を掴まれた。
「颯人」
裕貴の腕を掴んだのは、颯人だった。
“異質”な裕貴に話しかけてくれる数少ない存在だ。
クラスで裕貴を“クラスメート”として認識してくれるのは颯人と剣くらいのものだ。
後の者は皆裕貴を空気の様に思っている。教師がまるで汚れた屑虫を見るような視線を向けてくることもしばしばだ。
「あ、そうそう。聞いたか?またアメリカとロシアで戦争だってよ」
「そうそう。どこも懲りねーよなー」
魔術が発展してゆくようになると、どこの国も領土拡大を目論んで戦争を起こすようになった。
日本は、昔定められた日本憲法第九条で戦争放棄を謳っている為、自衛隊が戦争を仕掛けられた際にアメリカなどと連合軍を組み防御をするだけに留まっている。
その自衛隊は能力のない人間達が魔力の込められた武器を扱う陸海空軍と魔術精鋭部隊で構成され、日本防衛と安保条約を結んだアメリカと他国で戦争が起こった際に戦う役目を担っている。
アメリカとロシアでの戦でもいくらかの自衛隊が出動している筈だ。
だが戦況は五分五分。長引く予感しかしないのが現状である。
「まぁ、オレらが魔術に関係してても、自衛隊で戦うことはないからな」
蚊帳の外って訳よ、と颯人は言う。
そこで始業の鐘が鳴った。
「おっと。やべ。授業だ」
颯人が慌てて席に戻った。
「ねぇ、裕貴」
剣が声をかけてくる。
「ん?」
「空が、暗い……」
剣の呟きで窓の方を見ると確かに空は暗く、まるで恐ろしいことの起こる前兆の様だった。