複雑・ファジー小説

Re: 魔術と人造人間の一日。 ( No.5 )
日時: 2012/03/01 21:35
名前: 刹那 ◆V48onzVAa6 (ID: vWRv9TUU)
参照: 期末なうwww


§一話 前兆(2)§

日本、皇居付近にそびえる一際高いタワー。
窓がひとつもない、羊羹を立たせたような形状のその黒い建物は、とてつもない威圧感を周囲に放っていた。
その名は日本総司令部。
日本が戦う際に采配を仕切る、言うなれば日本の心臓だ。
そんな心臓の司令室にあるモニター画面が、一気に砂嵐に襲われた。
ザザザザザ……ザーザー
「な、何だ!?」
司令員が騒然となったのは言うまでもない。
砂嵐はどのモニターでもしばらく止むことはなく、数十秒後に収まった時には。
「なっ……!?」
そこには、いかつい老人の顔が映し出されていた。
白髪に豊かな白い髭。彫りの深い顔。紳士然とした風貌には安堵感を覚える。だが、顔の中央より上の辺りの銀色の双眸だけは、剣呑に輝いていた。
『日本総司令部の皆さん、ごきげんよう』
画面から伝わってくる声は至って柔らかだが、裏には今にも噛み付かれそうな殺気が見え隠れしている。
『自己紹介がまだでしたか。私はロシア総司令部のグレゴリウス。これでお分かりいただけるとありがたいのですが』
「まさか、〈死の蛇〉……!?」
司令員の誰かが、そう呟く。
ロシア。それは、現在日本がアメリカと共に戦っている敵だ。
そしてその総司令部を取り仕切るのがグレゴリウス、別名〈死の蛇〉。その物事を冷静に見極めロシアを幾度となく勝利に導いた天賦の頭脳と、大胆かつ合理的な手腕で他国から恐れられる、他国を破滅と死へ導く人物だ。
 グレゴリウスは鷹揚に頷き、
『左様。日本の皆さんは大変頭がよろしいことだ。戦には参戦せぬと言いながら攻撃魔術や武器の研究などと』
グレゴリウスからの一言に、その場にいる全員が黙る。
極秘事項の筈なのに何故、どこからその情報が漏れたのだろう。
『さらに奈木高等学院……でしたか。そこには〈魔術師【マグヌス】〉がいるのだとか。しかも何人も』
グレゴリウスは知っていて当然のことと顔で語りながら、薄笑いを浮かべていた。
魔術の発達した今でも、魔術を操る者はただの〈人〉だ。微弱な魔力を魔術学院などに通い磨いていくことでそれなりの魔術師になるのだ。
だが、生まれながら人の身には余る程の魔術を持つ者が二千五百万分の一の確率程度でいるのだ。その者を〈魔術師【マグヌス】〉と呼ぶ。
例をあげるならば藤堂剣。そして−−−−−。
『その〈魔術師【マグヌス】〉の一人、瀬名裕貴に私は、大変興味があるのです。無論、もうひとりの藤堂剣にもですが』
無色魔術しか持たない〈異質〉な瀬名裕貴が実は〈魔術師【マグヌス】〉。それは本人にも極秘の件だ。
どこまでグレゴリウスは知っているのだろう。
研究員は恐れにかられた。
『そんな〈魔術師【マグヌス】〉と奈木高等学院に、私は挑戦してみたいのですよ』
本題が切り出された。
『そちらに、殺人人造人間ver.βを送り込みました。まあ後はそれを操るいくらかの殺し屋を少々』
今日何で遊んだかを親に話す幼稚園児のように無邪気な口調で、グレゴリウスは告げた。
殺人人造人間ver.β。それはまだ試験段階の武器ということを意味している。ロシアはそのような兵器を作っていたのか。それが戦場に現れたら。そう考えると、恐れがこみあげてくる。
『殺人人造人間も、殺し屋も。全て我が国の実験体です。あなた方日本は、これに勝てますか?さあ。戦いはもう始まってますよ』
そうグレゴリウスが言うと、画面はいつもと同じプログラミングの画面になっていた。
だが、もうグレゴリウスの挑戦状の前後ではすっかり状況が変わってしまった。

『奈木高等学院に告ぐ−−−−−』
司令員は急ぎ、そんな意志電波を流した。