複雑・ファジー小説
- Re: 鏡の国の君を捜して…… ( No.14 )
- 日時: 2012/05/14 23:16
- 名前: クリスタル (ID: rWLc9jDy)
動かないけれど、生きているチェシャを放置して、謎の女性を家に入れて、左手の手当てをして、質問攻めした。
彼女は、靴も脱がずに土足で入って「きったねぇ家ね!」などと、ぼやいていた。自分で汚しているクセに。
閑話休題。(この四字熟語、一度使ってみたかったんだぁ♪)
「第1問。あなたは誰ですか?」
「あ、自己紹介してなかったわね。まあ、あたしは、鏡の国からやってきた、歌って踊れるシロウサギ。で、人間の屍に取り付いて、占領する事ができる体質。ちなみに、この屍の名前は、エリーゼ」
どんな体質なんだろう。私の理解力が無いのか、この人の説明力が無いのか。常識的でない会話をしているのか。
「そうそう。あたしとあんたは、朝に一度会っているのよ」
「え? あ、あの白いウサギ!?」
彼女…もう、エリーゼさんでいいかな。エリーゼさんは、軽く微笑んだ。
「朝は、時計をありがとう」
まぶしい笑顔だ。美女の笑顔は、絵になる。背景は暗くして、このまぶしい笑顔を描くと…あ、美術分野は知識ないから、判らないや。
「…どういたいまして」
私は照れ隠しで、右斜め下を見る。
ちゃんとお礼を言うなんて、いい人じゃないか。でも、怪しい人を簡単に信用する事はできないので、包丁を構えて、第2問目に入る。
「第2問。鏡の国とは?」
少しだけ、質問に答えるのが嫌そうに見えた。
「えと、……この世界の反対側? 鏡の国の住人の血があれば、鏡を通してで入りできるわ。てか、包丁構えるやめてもらえないかしら?」
「怪しい女を簡単に信用しろ、と? むーりむり」
本当は、今思っているより危ないヤツかもしれないので、チェーンソーも近くに置きたいところだ。
まあ、チェーンソーは、殺傷力がありすぎて、殺人事件が起こりそうだから、使えないけど。
閑話休題(2回も使っちゃったよ!)
「もう面倒なので、一気にいきます。チェシャって何者? どうして私の命が狙われた? 何で私を鏡の国に連れて行こうとした?」
エリーゼさんは、「面倒だなー」と、呟いてから一息で答えた。あ、違うか。正確には答えようとした。
「チェシャもあたしと同じ体質で8年位前にあのサラ・ベルナールって子を殺してその殺された子は失踪扱いであんたの命を狙った理由なんてあたしは知らないけど多分あたしがあんたを鏡の国に連れて行こうとしていることを何らかの理由で知ってその前に殺そうとしたんだろうけど…ハァッ」
一息で答えようとしたようだけど、ダメだったらしい。
「…ハァ。で、あたしがあんたを鏡の国に連れて行こうとした理由…わからないの?」
「もちろん、わかりません」
なぜなら鏡の国がどんな所なのか、想像もつかないから。一瞬想像したのは、壁も天井も床も鏡になっている、鏡以外何もない世界。酔いそうだ。
チラッと、時計を見た。午後11時前。お母さんがまだ帰ってこない。
「……さっきからおかしいと思っていたけど、とぼけてるだけでしょう? 何でわざわざ鏡の国のことを聞くのよ?」
「私が何をとぼける必要が有るんですか? 鏡の国なんて初耳ですし」
バンッッ!
エリーゼさんが、いきなり机を片手で、クイズ番組の早押しみたいに叩いた。両手で「バンッ」じゃないのか、普通。
「いい加減にしなさいよっ。あんた!」
「知りません! 私、7歳までの記憶が無いんですよ! 記憶喪失だからっ!!」
急にその場はしん、とした。時計の針が進む音だけが響く。
エリーゼさんは、驚きのあまりか、対応に困っているのか、硬直してしまった。
とりあえず私は、エリーゼさんから目を背ける。
他人に教える必要も、ましてやこんな初対面の怪しい人に教える気は無かった。
エリーゼさんは、頭を抱えて黙ってしまった。
私も、こんな空気にさせてしまったので、何も言い出せなくなった。
「…そう…それなら、あの時の事のつじつまが合う…わね」
「あの時の事?」
「いや、気にしないで。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……おえっ」
エリーゼさんは、やたら深いため息を付いた。しかも、長すぎて、吐きそうになっていた。肺を鍛えているのだろうか。
「ハア…あたしのことは、教えてやったんだから、自分のことも言いなさいよ」
「私の事…」
名前、レイシー・キャロル。職業、学生。年齢14歳。母親と二人暮らし。7歳の時、階段から落ちて記憶を失った。母親にかこのことを聞いても、何も教えてくれなかった。趣味、読書。10歳の時に自転車で猫をひきました、すみませんでした。…これくらいだろうか。
「そっか。何も…知らないの、ね」
エリーゼさんは小さく微笑んだ。私にはどこと無く悲しげに見えた。
そんなことよりも、猫を引いたことに関して触れられなかったことがショックで、私も悲しげに微笑む。本当に悲しくなってきた。