複雑・ファジー小説

Re: 鏡の国の君を捜して…… ( No.26 )
日時: 2012/03/28 10:38
名前: クリスタル (ID: 3Em.n4Yo)

 マイナスイオンに満ち溢れた森を歩きながら、(どこに向かっているのかは不明のまま)エリーゼさんに説明を受けた。

「見ての通り、ここは鏡の国」

「イメージとかなり異なるので、見ても分かりませーん」

「あんたを強引に殴って棺おけにつめて、ゲートを通ったつもりだったんだけど、まあ、色々あって、飛ばされた見たいねぇ」

「棺おけにつめる必要がどこにあったんですかー」

「まあ、綺麗な森でしょう? 特に名前は無いけど」

 二連続でスルーされた。私、嫌われているのかもしれない。

カーンカーンカーン

 何か、硬いものを叩く音が響いた。よく見ると、少し離れた所に小さいのか大きいのか良く分からない、古い、コケの生えた小屋がある。

 小屋の前には、私と同じ年くらいの美少年がいて、わら人形と五寸釘を使った呪術的な儀式をしている。うつろな目だ。

 私とエリーゼさんに気付くと、さっとわら人形と五寸釘を仕舞い、笑顔であいさつ。

「シロウサギさん、アリスさん、お久しぶりです」

 アリスって誰だ。前にも聞いた事の有る名前だ。

「私、レイシーです!」と、主張すると、少年の笑顔が引きつった。

「じゃあ、まさか————……」

 少年は、何か言いたそうにしていたけれど、エリーゼさんの顔を見て、口をつぐんだ。本当に怖い顔をしていたから。

「ノエル、その話は後にしなさい…」

 何処かの豪邸の、金持ちの怖いお母様みたいだ。

 また、『カーンカーンカーン』と、何かを叩く音が響く。

「キルと話がしたい…でも、仕事中ね」

 エリーゼさんは、軽く微笑んで、「帽子屋の仕事、頑張ってるわね」と、呟いた。

「いえ、師匠は、サボってます! あの金づちの音は、テープレコーダーに録音された音で、完全にサボってます! ガツンと言ってくださいよ、シロウサギさん!」

 美少年の台詞は、エリーゼさんのその様子を一瞬で覆す。

「なにサボってんじゃ、ボケェェェエエエエェェェェェェェ!!」

 怒鳴りながら古そうな小屋の扉を蹴り開ける。開いたのではなく、扉が跳んで、中にいた人にぶち当たり、爆発音に近い騒音が響いた。

 今のは、痛い所の騒ぎではない。木製の扉が凄い勢いでぶつかるなんて、骨折レベルだ。恐る恐る、中の人の安否を確かめた。

「痛……」

 驚いた。

 骨折なんかしていないし、ほぼ無傷。でも、それよりも一番驚いた事が、中にいたその人が毎回夢で見ていたあの、見覚えのない男だった事だ。

「………………………………………」

 確か、彼は『キル』と呼ばれていた。いつも夢に出てくるあの人の名前……。

 名前も姿も分かった。でも、記憶にない。これほど珍しい名前だったら、覚えていてもおかしくないし、姿も名前も分かったのだ。それなのに、一切記憶にない。

「……誰……」

 この、毎回夢に出てくる彼は誰なんだ。

「キル! あんた、またサボって、どういうことなのよ!? 弟子のノエルの方がよっぽど優秀だわ! 呪術的な儀式を行っていたみたいだけど!」